第464話・代行者×執行者
「テオ、お前に俺の“異能”を1回だけ貸し与える。もうアイツに勝つ方法はそれしか無い」
「異能……? 前にやった危機察知能力の共有ですか?」
「いや、全く違う……今回共有するのは“因果改変能力”だ。さっき目覚めたばっかで、正直まだ扱いきれてないが……俺にはもう使える体力が欠片も無い」
眼前のガブリエルは、もう正攻法で勝てる相手ではない。
お互い瀕死に近いため、この賭けは見る者によっては負けが濃厚。
しかし、
「お願いします透、わたしがその能力で――――必ず活路を開いて見せます!!」
執行者テオドールは、血の垂れた口元を拭いながら宣言。
それを受けた透も、すぐさま彼女の暖かい背中に手を当てた。
時間が無かったので、説明は無し。
代わりにテレパシーを用いての情報共有を行った。
先ほどまでの透の記憶、感覚が一瞬でテオドールに刻み込まれた。
「もう君ら詰みだしさ、楽に逝かせてあげるよ」
宝具のランスを構えるガブリエル。
もう10秒もしない内に、決着がつく。
だがそれは、この代行者と執行者が何もしなかった場合だ。
「……見えました、透の思い描く景色。いえ――――世界が」
「何を言ってるのかな? 執行者テオドール、君にもう勝ち目なんて無いでしょ」
「そうですね、わたしが最初に浴びせた攻撃は……文字通りのフルコース。本気で殺すつもりで仕掛けた全霊のコンボです」
「けど僕はそれを全て受けきった、その時点で君はもう負けていたんだよ。14歳手前のお子様にはわからないかな?」
あざ笑うような声のガブリエルだが、その笑みは0.5秒後に打ち消された。
――――キィンッ――――
「ッ!!!!」
脳内に響く耳鳴り。
ガブリエルが反射でしゃがみ込むと、背後の壁が吹っ飛んでいた。
瓦礫の崩れ落ちる音が鳴る中、テオドールが逆に笑みを浮かべる。
「おや、じゃあ何故今の攻撃は避けたのですか?」
凛々しい顔には、明確かつ絶対的な自信が宿っていた。
傍で立っていた透は、全てのバトンを託し――――その場で膝をつく。
「もう勝ったような物言いでしたが、勘違いしないでください。ガブリエル」
拳を握ったテオドールが、金色の瞳を輝かせた。
体から、枯渇していたはずの魔力が滲み出てくる。
「わたし達は常に進化しています、1分前と同じとは思わないことですね」
あり得ない。
ついさっきまで、この少女は文字通り死にかけていた。
体力や魔力が完全回復したわけでもない、おそらくは脳内麻薬による一時的なドーピング。
それでも、この強さはそれだけでは説明がつかない。
あの代行者が、何かをしたのだけはわかった。
5秒、10秒と睨み合いが続く中……天井から小さな瓦礫が落ちた。
やがて床に落ち……音を立ててそれが砕けた瞬間、執行者テオドールから尋常ではない気迫と魔力が放たれた。
――――キィンッ――――
「ッ!!?」
大天使ガブリエルの脳内に、腹部へ巨大な風穴が開けられるという強烈な映像が強制された。
「”51センチ”――――『貫通式・ショックカノン』!!!」
右手を大きく前に出す。
飛び出したのは、普段並列で発射していた3本のショックカノン。
それが一直線に並び、30連の子弾が列を成して突っ込んでくるのだ。
まともに食らえば、映像の通りになる!
「『イージス・ディフェンス』!!」
即座にガブリエルは最高の防御魔法を発動。
テオドールから放たれた全く新しいショックカノンを、正面から受け止めた。
――――ズドドドドォォッ――――!!!!
単発のビームが、一直線の槍となって障壁に激突していく。
威力はさっきまでと比較にならない。
必死にこらえ続けながらも、ガブリエルは感心していた。
「へぇ、拡散しがちなショックカノンを連続で同じ箇所へぶつけることで、貫通力を底上げしたのか」
「その通りです、そしてこの技すら防ぐ魔力出力……さすがですね」
「僕を貫く世界線を見たことで生まれた新しい技か、天晴だね」
「まだまだこんなものではありません!!」
――――キィンッ――――
さらなるイメージの強要。
見せられたのは、全方位から迫るショックカノンの映像。
「40.6センチ――――『二連装誘導式・ショックカノン』!!!」
消費魔力などお構いなし。
執行者テオドールは、ツイン・ショックカノンを凄まじい速さで連発。
一瞬で360度全方位から、ガブリエルを包囲した。
「既にあなたを倒した世界線は見えています!!!」
「チッ!!」
さすがにこれは防げない。
2.3発の被弾を受けながらも、ガブリエルは強引に包囲を突破した。
だが。
「それも見えた結果です!!」
――――キィンッ――――
「ッ!!!」
次の瞬間には、執行者テオドールが眼前に出現していた。
転移魔法ではない。
因果を書き換え、”最初からいた”ことにしたのだ。
「40.6、48! 51センチ――――『三連装・ショックカノン』!!!」
超至近距離から、テオドールの一撃が炸裂する。
たまらず吹っ飛んだガブリエルは、城の壁を突き破り、食堂と思しき空間へ転がり込んだ。
「ぐぅう…………!」
拡張された新技のオンパレードは、瀕死の体に容赦なく反動として襲い掛かる。
一方のガブリエルは、砂塵が舞い散る中……起き上がってゆっくりランスを構える。
「ようやく仕上がってきたらしいね、僕もそろそろ……戦闘を開始しようかな」




