第462話・復興の立役者
「しまった! 龍雲が――――」
林少佐が焦った時、命運は既に尽きていた。
――――キィンッ――――
「ッ!!!」
即座にイメージが強制される。
メタ宝具を失った林少佐にもはや抗う術はなく、気づいた時には既にナイフが首へ突き付けられていた。
「決着だな」
「……」
目を細めた林少佐は、ゆっくりと両手を挙げる。
「なぜ……殺さないのですか? 私は貴方たちにとって忌むべき敵。悲惨な事実を伝えた悪役ですよ?」
彼が最後に見た映像は、今までのものと違って殺されるイメージではない。
今この瞬間の、寸止めされた状態だった。
「確かにそうだ、でも……1個聞きたいことがある」
そこまで言った透は、ナイフをゆっくり下ろした。
「アンタの親が落とした財布は、ちゃんと届いたか?」
「ッ!?」
少佐の目が見開かれる。
ありえない、いくらなんでもそんな偶然は――――
「なんてな、試しに聞いてみただけだよ。でも、その反応だと当たりかな?」
ブラフ。
しかし、肯定の返事をしたも同然だった。
「ははっ、なんて偶然だ……まさか貴方が拾っていたとは。しかしなぜ私の親だと?」
「入ってた身分証明書をウッカリ見ちゃってさ、アンタと苗字が一緒な上に顔が似てたんだ。最初に名前を聞いた時……なんとなくそんな気がしてた」
「……えぇ、しっかり届きましたよ。おかげで母は日本旅行を心から楽しむことができた。本当に感謝しています」
「そうか、良かった……ずっと気になってたんだ」
呟いた透の瞳が、銀色から元の目へ戻った。
それは、戦闘の終結を意味していた。
全身の力が抜けて、林少佐は座り込んだ。
「質問には答えましたよ? サッサと私を殺すのが貴方の任務では?」
「あのなぁ、もう敵意も武器も無いヤツを殺したがる奴がいるかよ。まして、アンタみたいな知日派の中国人は珍しいからな」
「残酷な真実を告げた仇敵を、そんな温情モドキで生かすと? 少々甘すぎませんかね」
「うっせ、お前が”殺されたがってる”のはバレバレなんだよ」
初めて肩を震わせる林少佐。
ナイフをしまい、落ちていた20式を拾いにいく。
マガジンはちょうど空になっており、胸元のポーチを開いた。
「テオが俺を殺すことが世界の必然? そんな使命は負わせねえし許さないよ。大人はあの子たちがただ美味しいご飯をお腹いっぱい食べて、幸せそうに笑う未来を作るだけだ」
「理解できませんね、それも世界の代行者としての意思ですか?」
「いいや」
マガジンを交換しながら、代行者――――否。
新海透は呆れ顔で続けた。
「俺は別に操り人形じゃないぞ、今までの人生――――全部”俺が選択”して生きて来た。テオのマスターになるって決めたのも、大事な彼女に告ったのも全部俺の自由意志だ。世界とか因果とかマジで関係ない」
「……本気で言ってるのですか? それが自由意志だという証拠はあるのですか?」
「俺はお前をいつでも殺せる、でもしない。殺されたがってる奴の自殺を手伝う趣味は無いからな。それが証拠」
あまりにあっけからんとした返しに、思わず呆然とする林少佐。
直後に、思わず彼は吹き出す。
「さすがに、器が違いますね……っ」
そう、彼は代行者という存在以前に1人の自衛官。
肝心の部分を忘れていたことに笑ってしまう。
「しかし……私をどうするのですか? 戦犯として処罰でも?」
「今の中国は共産党が崩壊して、世界経済を道づれに崩壊寸前だ。アンタが戦うのは家族のためだろ? だったら――――」
銃のボルトを前進させた透は、ニッと笑う。
「アンタが中国を立て直したら良い、きっと……良い国になれると思う。今度こそ良い隣人としてな」
「はっ…………」
林少佐はここでようやく完全な負けを認めた。
彼は独善的なポピュリストでもなければ、無責任なグローバリストでもない。
1人の純粋な善人なのだ。
「これは随分と、大変な仕事になりそうだ……。まずは民主化から始めなければなりませんね」
決着は着いた。
林少佐に手を差し伸べた時――――
――――バゴォオンッ――――!!!!
天井が大きく崩落して、何かが落ちて来た。




