第460話・覚醒、因果の代行者
「ようやく破れましたね、絶対不可侵の危機察知能力……いえ。”因果改変能力”」
満足気にした林少佐は、床から必死に起き上がる透を見つめながら一言呟く。
「特級宝具――――『龍雲』。その効果は現実改変の阻止と、改変者への特攻。それでもこれだけ揺さぶってようやく打撃1発を通すのがせいぜいとは予想外でした」
「ゲホッ……。しくったよ、でまかせの嘘に一瞬でも引っかかっちまった」
「いいえ、今まで言ったことは全て事実ですよ。さっきはガブリエルに邪魔されて言えませんでしたが、改めて私の結論をお話しますよ――――あなたの異能についてね」
龍雲を構える林少佐。
透も銃を構えようとするが――――
「クソっ…………」
痛みで頭が回らず、体も3割ほどしか力が入らない。
新海透は、これまでその異能によって殴られる痛みとは無縁な人生を送って来た。
そのため、生まれて初めての激痛に脳が全く慣れておらず、現在……透には常人が感じる痛みの実に10倍にあたる体感激痛が走っていた。
常人であれば発狂するレベルのものだが、透は異次元の精神力で思考能力を保つ。
それも全て、答えを知りたいがため。
信じたくない、あのテオが自分を――――
「貴方の言う危機察知能力は、自らに及ぶ危機を事前に察知して回避するというものでしたね?」
「あぁ、それが……ゼェッ。なんだって因果なんて大それたもんになる?」
「不思議に思ったことはありませんでしたか? あなたのそれは、既に危機察知なんて生ぬるいものを遥かに超えている。もはや効果範囲は自身だけでなく、関りのある人間にまで広がっていないですか?」
「…………っ」
逆流してきた胃液を飲み込み、口元を拭う。
そういえば最近、防衛大臣の暗殺も察知したことを思い出す。
さらに遡れば、初めて新宿にテオドールを連れて行った頃から、ロシア部隊との戦闘で周辺全ての敵を探知できていた。
まだ思考が混濁する中、透はいさぎよく20式から銃剣だけを取った。
重いライフルを捨て、逆手に構える。
「あなたのそれは危機察知なんかではない、自らに害が及ぶ状況を”丸ごと改変”してしまうものです。本来当たっていたはずの攻撃も、因果を書き換えることで被弾しなかったことにしてしまう」
「そりゃ凄いな、まるでマンガだ。ジャパニーズ・カルチャーにハマり過ぎじゃねえ――――か!!!」
透が床を蹴り、相手へ一気に肉薄。
銃を捨てたことで、そのスピードは倍に上がっていた。
「無駄ですよ! この龍雲はあなたのような現実改変者に対抗する効果をもった宝具。もはや異能など関係――――」
そこまで言った瞬間だった。
――――キィンッ――――
「なっ…………!?」
突如鳴り響く耳鳴り。
直後に林少佐の脳に、一瞬だけ映像が流れた。
それは、1秒後の自分。
突っ込んで来た透に攻撃を避けられ、自らが斬り刻まれるという鮮烈なイメージ。
全身から鮮血が噴き出し、内臓がミンチにされるという”リアル過ぎる”映像。
「ッ!!!」
すぐさま攻撃を中止し、林少佐は慌てて横へ飛びのく。
透のナイフは勢いよく空を切るが……。
「どうした? 酷く驚いた様子だが」
不敵な笑みを見せる透に、林少佐は言い知れぬ不気味さを感じていた。
いや、体感させられていた。
今のは妄想ではない。
避けなければ、実際にああなっていた。
そう確信させるほどの絶対的なイメージ。
――――キィンッ――――
「くっ!!」
またも湧き上がるイメージ。
今度は、自分の胴体が文字通り中央から爆撃を受けたように吹き飛び、絶命するというもの。
――――死ぬッ!!
咄嗟に龍雲でガードした瞬間、林少佐はとてつもない力で弾き飛ばされた。
壁に激突し、玉座の間が大きく揺れる。
「ぐぅッ…………! な、なんだ……この攻撃は」
起き上がりながら、まだ自分の胴体が繋がっていることを確認。
明らかに今までの攻撃と違う。
林少佐は、眼前の”代行者”をギッと睨んだ。
「まさか……、今まで防御にのみ使っていた因果の改変を……攻撃に転用している!?」
一方の透は、表情を変えずにナイフを構えていた。
「お前に色々教えられても最初はピンと来なかった……、けど」
ナイフを逆手に持ち、刀身に膨大な魔力を纏う。
「初めて攻撃を食らったことでようやく自分の能力に気づけた……。初めて痛い思いして、初めてこの能力が特別なものなんだって気づけた」
――――キィンッ――――
「ッ!!!!」
その場を飛びのく林少佐。
見せられたイメージは、1秒後に全方位から飛翔してきた魔力の刃に斬り刻まれる光景。
案の定、倒れていた場所は粉々に吹っ飛んだ。
間違いない、この男は――――
「……見えているのですね? 私を殺せた世界線の光景が!」
「あぁ、お前を殺すイメージを……今まで危機察知として扱っていた要領で強く浮かべてる。そしたら世界が応えてくれるんだ、言う通りにしたら……”臨んだ未来”へ進ませてくれる」
「それが、さっきから続く現象の正体……ッ」
「あぁ、でもお前の持ってる宝具と、まだ慣れないせいで上手くいかない。けど――――」
”因果の代行者”――――新海透の瞳が、銀色の碧眼に染まった。
「今ならお前でも殺せそうだ」




