第46話・適当に選んだ相手が駐屯地最強の男だった件
新海(最強)の上司もまた最強でなければ務まりません
ダンジョンにも夜は訪れる。
星空の下……、1人の自衛官が柵にもたれかかっていた。
「ふぅ……っ」
駐屯地の屋上で、第1特務小隊を監督するトップ––––錠前勉1佐はタバコを吸い込む。
年齢は1佐として異例の29歳らしく、顔つきもとても端正だ。
まだ若い内はやめとけと、以前特殊作戦群長たる城崎に叱られていたのだが……本人は特に気にしていないようだった。
「最近はタバコも値上がりが激しいなぁ、特にダンジョンの自販機は特別高くて良くない。いくら自衛官の待遇が改善されても、物価が上がったんじゃ意味ないね」
1人愚痴った錠前は、12時間ぶっ通しでの事務作業を経て一時的に休憩に来ていた。
新海たちが必死に働いてる中、自分だけ寝るなど監督者として許されないからだ。
1本を吸い終わる頃、そんな錠前の背後に気配が降り立った。
「呑気な男ですね、こんな深夜に無防備な休憩ですか……。手間が省けて助かるわ」
少女の声。
振り向けば、そこには見覚えのある人間がいた。
ニコチンに汚染された頭で、先日の配信を思い出す。
「やぁ、ベルセリオンくんだっけ? こないだは散々だったねぇ、上司に怒られなかった?」
名を呼ばれた執行者––––ベルセリオンは、冷たい眼差しで錠前を見つめた。
「ご自分の状況が理解できてないみたいね、わたしは貴方を消しに来たの。実力でもってね……」
「おぉー怖い、ちなみに理由を聞いても?」
どこまでも余裕しゃくしゃくな錠前に、ベルセリオンは身の丈ほどもある“ハルバード”を具現化しながら答えた。
「特に貴方である必要はないの、ただここまでわたしの顔に泥を塗った日本人を––––1人くらいダンジョンの肥やしにしないと面子が保てないから」
「そりゃ正直なことで、けどさぁ」
タバコの2本目に火を付けた錠前は、ニッと悪意の無い笑顔を見せた。
「結局、君の怠惰のツケ……だよね?」
「ッ!」
ハルバードが振り抜かれる。
大気が斬り裂かれ、衝撃波が屋上の一部を吹っ飛ばした。
パラパラと煙が舞う中、少しやり過ぎたかと思った矢先––––
「凄いな、武器を振るうだけでこの威力か。面白いねぇー」
現れたのは、切断された柵の傍でタバコを吸う錠前。
あり得ない、今のをかわしたと……?
「武器に秘密があるのかな、それとも君自身? もしかして……漫画に出てくる“魔力”ってやつだったり?」
「ッ……! 貴方に教える義理は無い。たまたま外れたのを手柄にしないで、偶然はそう何度も起こらないから」
再びハルバードを構えた彼女に、タバコを吸いながら錠前は警告する。
「やめといた方が良い、僕は今休憩中でね……幸いにも機嫌が良い。サッサと消えた方がそっちもダメージ少ないと思うんだよね」
「戯言を––––喰らえッ!!」
縦に構えたハルバードを、一気に振り下ろす。
「『空烈破断』!!」
またも屋上で爆発が発生する。
真っ直ぐ伸びた衝撃波が、屋上のコンクリートや柵を吹っ飛ばした。
今度こそ勝ちを確信したベルセリオンは、ドヤ顔で煙を見つめる。
「ふぅ、これで我が主––––“ダンジョン・マスター”のお仕置きは回避できるわね。フフッ、さすが天才のわたし……最初から無能な部下じゃなくて自分が戦場に出れば良かったんだわ」
ルンとする彼女の鼻に––––“タバコの臭い”が突いた。
「ゲホゲホッ、さっきと同じパターンだよこれ……瓦礫臭いんだけど。ちゃんと学習してる?」
またも、破断面のすぐ横でタバコを吸う錠前1佐が現れた。
大量の疑問符がベルセリオンを襲う中、目の前で1本目の吸い殻が踏みつけられる。
「一応警告はしたよ? 君は誰でも良いとか言ってたけど––––本当に運が悪いんだね」
一服を終えた錠前が、服の位置を微調整した。
「申し訳ないけど僕、この駐屯地で一番強いから」
怪物級の殺意が悪寒を走らせた。
一瞬の出来事である。
まばたきする間に詰められ、顎下から強烈な掌底をベルセリオンは食らったのだ。
2本目のタバコが、荒んだ屋上に落ちた。
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