第458話・ウリエルの真意
ここに来ての大天使。
坂本は己のミスを全力で悔いた。
――――僕を庇わなければ、千華はやられずに済んだ……。
頼みの久里浜は、口からまだ血を垂れ流している。
さっきの一撃はそれほどに強烈で……、彼女の華奢な身体を無力化するには十分。
しかし。
「ゲホッ……、死ぬかと思った…………」
HK416A5を杖代わりにした久里浜が、咳き込みながらも立とうとする。
どうやら、砕けた防弾アーマーによってギリギリ耐えられたようだ。
それでも、坂本は彼女の状態の異常さに気づく。
愛銃として扱っているライフルを、無防備に杖として使っている。
こんな使用法は、久里浜にとって初めてだろう。
「勝負アリだな、手傷を追った2人の自衛官では私には勝てない」
「だったらなんだよ、言っとくけど降参とかしねーから」
「当っ然…………!」
腰からナイフを取り出した坂本は、ゆっくりと構えを取った。
久里浜もライフルを持つ力は無いので、腰のホルスターからG17拳銃を取り出す。
「来いよ。たとえお前に勝てなくても……腕の1本は持って行ってやる」
坂本と久里浜は、自衛官として服務の宣誓をした瞬間から、死ぬ覚悟などとうにできている。
せめて眼前の大天使に一矢報いて、最愛の恋人だけでも逃がす。
両者が同じ想いを抱きながら一歩踏み出した時だ。
「落ち着け、坂本3曹。久里浜士長。あいにくだが僕に敵意は無い。ありえない話だろうが単に君たちと話がしたかっただけだ」
「は…………?」
鞭をしまったウリエルが、空いた手で制止した。
「不意打ちの攻撃については謝罪する、理由も後でちゃんと話そう。まぁ口で言っても信じてもらえんだろうから――――まずはこれを」
そう言って取り出されたのは、透明なフラスコ。
中では緑色に光る液体が、タプタプと揺れていた。
ウリエルはそれを、坂本に素早く投げ渡す。
「えっ、なにこれ…………?」
「”回復ポーション”。っと言えば意味は伝わるかな? 彼女に無理矢理でも良いから飲ませてあげろ。即日で全快するだろう」
「いやいや、それで仲間に飲ますバカいんの? 信じられないんだけど?」
「そうよ! 飲みたくないんだけど!」
あくまで抵抗する2人。
だが、ウリエルは声色を変えなかった。
「もし私が君たちを殺す気なら、もうとっくにやってる。それが敵意の無い証拠だ。早くしろ、我慢しているようだが気を失う寸前だろう」
「クソっ……」
正直意味不明だったが、このままでは久里浜が倒れるのも事実。
慢心した自分のミスを呪い、もし千華がこれで死ぬようなら、すぐに自分も眼前の大天使を倒した後に自害すると決め、フラスコを口に持っていかせた。
「んぅ…………」
「吐いたばっかで辛いだろうけど、ごめん。頑張って飲んでくれ……」
ダメージが酷かったので、坂本が介抱する形。
グッと口に押し込み、咳き込むのも無視してなんとか全部飲ませる。
「大丈夫か? 千華っ」
「おえっ……まず、でも…………あれ?」
瞬間、久里浜はなんの問題も無く立ち上がった。
さっきまで銃を杖のようにしていた弱々しい姿はなく、完全にダメージが消えていた。
「ほ、ホントに治った…………」
「マジかよ…………」
ここまでなったなら、信じざるを得ない。
どうやらウリエルは、本当に敵意が無いようだ。
「……一応話は聞くよ、でもなんでわざわざ攻撃してきた? 話し合いが目的なら最初からそう言えば良いだろ」
坂本としては、治ったとはいえ最愛の彼女を痛めつけられたこと自体が腹立たしかった。
本当なら手元の64式を撃ちたかったが、なんとか残った理性で堪える。
「それについては本当にすまない、私はあくまで君たちの敵だからな…………話すのにも一芝居打つ必要があったんだ」
そこまで言って、ウリエルは自らの額を軽く叩いた。
「我々大天使は視界が共有、録画できるよう改造されていてな……後で仲間に詰め寄られても、攻撃したという証拠が必要だったんだ」
「それでもわかんねえよ、なんで敵なのにそんなことをする? 東京湾の空戦じゃ本気で戦ったろ」
苦言を呈す坂本に、あらためて正対したウリエルは鞭を消しながら続けた。
「簡単だ、私は騎士だからな――――”受けた恩”を返したかっただけだ」




