表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
457/484

第457話・錠前「ちょっと高かったんだけど、これは良い品物だよー」

 

「さて、サッサと終わらせるわよ」


 もう彼女は、狂犬(愛玩動物)ではない。

 日本でも屈指の練度……おそらくCQB戦闘においては、あの現代最強――――錠前勉に限りなく近い傑物へと成長していた。


 そんな彼女へ、他でもない錠前勉はある物を与えていた。


「慎也、数と手口はわかった?」


「目測だけど相手は5体、距離60メートル。魔法の弾速は電動ガンの初速ほどかな」


「オッケー、じゃあ”アレ”使ってサッサと片付けましょう。1分稼いで」


 闇の中で、久里浜が何かを取り出し始める。

 坂本もだんだんと目が慣れてきたが、やはりスコープが使えない不利は大きい。

 ならばと、彼は1分稼ぐため床に伏せた。


「魔法が当たったら俺死ぬかもだから、巻きでよろしく」


「了解、慌てず急ぐ」


 返事を受け取ると同時に、坂本がバイポッドで立てた64式をリズミカルに連射し始めた。

 見えている訳ではない。

 久里浜に相手の意識が向かないようにする、いわば制圧射撃だった。


「あと30秒っ」


 連射が続く。

 マズルフラッシュで姿が見えることを狙ったが、なぜか相手の姿は全く見えない。


「まいったな、透明化魔法かよ」


 答えはすぐにわかった。

 相手はなんらかの誓約――――おそらく探知能力の限定化と引き換えに、完全な透明化を行っている。

 この狭い通路を閃光で照らしても全く見えないということが、確実な証左だった。


「いっつ!!」


 それは突然だった。

 飛んできた数本の電気の矢が、坂本の肩とヘルメットに直撃したのだ。


 頭部はヘルメットが致命傷を防いでくれたものの、出血と脳震盪を。

 肩にいたっては完全に貫通しており、真っ赤な鮮血が迷彩服を濡らした。

 激烈な痛みが襲うが、坂本は前髪に隠れた眼を決して閉じない。


「やれ!! 千華!!!」


 64式が弾切れを起こし、再び暗闇が通路を覆う。


「コォオッ…………」


 2人から100メートル離れた通路の上に、5体のローブを纏ったゴブリンが浮かんでいた。

 ”準1級神獣”『ゴブリン・メイジ』。

 透明化で一方的な優勢を取っていたのは、このモンスターたちだ。


 彼らは静寂が再び訪れたことを確認すると、さっき銃火で照らされた2人の自衛官へ杖を向けた。

 勝負は5秒後に決まる。

 トドメの魔法が放たれようとした時――――


 ――――パシュッ――――


「カッ…………!!?」


 飛翔してきた5.56ミリM855A1弾薬は、超音速でゴブリン・メイジの内1体を貫いた。

 正確に急所を撃ちぬいており、ダブルタップでアッサリ葬られる。


「やっぱり、姿は消せても”体温”までは消せないわね」


 この1分で、久里浜の持つHK416A5は変貌していた。

 いつもならコンパクトなホロサイトが乗っていた場所に、ずんぐりとしたスコープが設置されている。

 米国製の1個数百万円はくだらない――――”FLIR(サーモグラフィー・スコープ)”だ。


 さらには発砲時のマズルフラッシュを9割以上カットする、消音器(サプレッサー)まで銃口に装着されていた。


 今、久里浜の視界にはハッキリと敵の姿が見えていた。


「ぶちかませ」


 肩を抑えながら呟いた坂本の言葉を合図に、久里浜は躊躇なくトリガーを引く。


「カッ!?」


「アッ!」


 仕留め損ないが無いよう、ダブルタップで正確に撃ち抜いていく。

 たった10秒で、通路に展開していたゴブリン・メイジは結晶化してしまった。

 敵が全滅したことを確認すると、久里浜はHK416A5に付いたフラッシュライトを点灯する。


 1000ルーメンの強烈な光は、立ち上がった血だらけの坂本の姿を映した。


「初被弾おめでと、おかげで助かったわ」


「1発でも外してたらしょうちしなかったよ……」


「立ってるの辛いでしょ? そこ座って、すぐ治療する」


 傷は浅い、ベルセリオンと合流すれば彼女の治癒魔法で全快できるので、繋ぎの止血と消毒だけすれば良い。

 だが、久里浜の狂犬としての嗅覚は新たな危機を察知した。


「うおっ!?」


 行動は最速だった。

 座ろうとしていた坂本を、久里浜が全力で押しのけたのだ。

 直後、彼女は銃を構えようとするが――――


「あぐッ!?」


 通路の奥から音速で飛んできた光の鞭が、彼女の腹部に致命的な強打を与えた。

 中の防弾アーマーが砕け散り、衝撃が体内で跳ね回る。


「げぼっ…………!」


 膝をついた久里浜は、口から思わず嘔吐してしまう。

 血混じりの胃液が、石畳に染み込んだ。


「千華!!!」


 起き上がった坂本が、すぐさま倒れかけた久里浜を支えた。

 すると、通路の消えていた松明が一斉に灯る。


「負傷した仲間を庇い、自らが致命傷を負う……か。やはりこの世界の日本人は立派だな。エンデュミオンや他の世界の日本人とは全然違う」


 坂本の前髪で隠れた眼は、殺意をもってその声に向けられた。


「やはり、私の見立ては間違っていなかったと見えるな」


 通路から現れたのは、金髪と背中から生えた翼、顔以外の全身を覆う鎧で固めた――――”大天使ウリエル”だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
……………そう動くのか、彼は………。 でも彼は自分の「見立て」の証明になり得る「久里浜が傷付いた坂本を自らの死傷を顧みずに庇う展開」を見出し、そうなる様にわざと光鞭での打撃という庇い易い単体攻撃方法を…
うーわ、ある意味一番厄介な奴が配置されてるじゃん…。、
顔以外を全身鎧で固めて銃も効かないとは・・・特濃ハバネロ溶液を霧吹きで吹き付けたら効きますかね?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ