第454話・錠前勉に次ぐ使い手
――――『魔導封域』。
戦闘用に磨き上げられた、結界術の極地。
魔法結界の完全上位互換であり、展開された結界内では術者が好きに選択した魔法を、”絶対の先手”として付与できる。
ユグドラシル駐屯地でこれを食らったベルセリオンは、一度瀕死にまで追い込まれた。
また、上海をアノマリーごと更地にした錠前の奥義も、これと同じである。
つまり、展開した瞬間に決着がつくも同然。
勝ちを確信したエンデュミオンの前で、四条が叫ぶ。
「今です! ベルさん!!」
「ッ!?」
封域が完成するまであと5秒。
ハルバードの増幅効果で魔力を高めたベルセリオンと四条は、新たな技を発動した。
「「――――『簡式・魔装結界』!!」」
ベルセリオンと四条の2人を、薄い魔力の膜が覆った。
封域完成と同時に、エンデュミオンは即死技を繰り出そうとするが――――
「残念でしたー!」
「ぐっ!?」
獄炎の魔法はなぜか当たらず、代わりにベルセリオンのハルバード、そして四条が撃った89式の銃弾を浴びせられた。
すぐさま治癒魔法を発動して傷を癒しながら、相手の行ったカラクリを見抜く。
「『簡式・魔装結界』……。自身の周りに略式発動した結界を纏うことで……俺の封域を中和しているのか!」
「正解です、相手に封域使いがいるならば……当然対策すべきとして、ベルさんとあらゆる訓練をしました。わたしはあくまで地球人なので習得には苦労しましたが」
四条は自衛官としての任務の傍ら、ベルセリオンと極力一緒に訓練していた。
対となる透とテオドールは、その性格とスタイルからあまり共闘という手段を取らない。
しかし彼女ら2人は、ダンジョンマスター級の敵を見越してメタ対策を考案。
ベヒーモスと戦った錠前に結界術の基礎を教わり、四条はあの錠前勉に次ぐ結界術の使い手として成長した。
「まぁ、万能な魔法ではありませんが」
「だろうな、出力で言えば当然俺の封域が上回る。その小細工が持つ時間はせいぜい5分と無いだろう、それまで俺は封域でその結界を削り続ければ良い」
封域と結界では、断然封域の方が格上。
所詮は覚えたて、付け焼刃の結界術だ。
転生者として得たチート持ちの自分が、このような連中に負けるなど――――
「なにっ!?」
その場で膝をつくエンデュミオン。
思わず血を吐き、狼狽えながら口開く。
「なぜ傷が……回復しない!?」
エンデュミオンは全力で治癒魔法を発動しているが、どういうわけか銃弾によって空いた傷が治らない。
その様子を見た四条が、ドットサイトの照準をエンデュミオンへ向けた。
「言ったでしょう? こっちは治癒魔法も想定して作戦を組んでいたんです」
「俺に……がふっ! 何を撃ち込んだ!!」
「なんてことはありません。通常使うM855A1弾薬ではなく、”ホローポイント弾”を撃っただけです」
ホローポイント弾頭。
先端がAP弾のような尖った形状ではなく、窪みが空いた特殊な形状の対人弾薬。
人体を徹底的に破壊することに特化しており、着弾した箇所から人体内部を無尽蔵に跳ね回る。
極めつけは、体内へ侵入した弾丸が貫通せずバラバラに砕けながら残留する点。
つまり貫通しない。
四条はこの特性に目をつけ、治癒魔法使いのメタとして導入。
ホローポイント弾の弱点としてアーマーを貫通できない点があるが、相手が魔法頼りの魔導士なら容易にクリアできる。
現在、エンデュミオンに撃ち込まれた弾数は4発。
傷自体は容易に回復できても、体内に残った弾丸や砕けた破片が臓器を痛めつけ続けるのだ。
まさに、治癒魔法使いへの特攻に等しい弾薬だった。
【四条2曹つええええええ!!!】
【魔法、ここに破れたり!!】
【美人自衛官で執行者のマスターで、かつ魔法も使えるとか四条さん属性盛り過ぎ案件】
四条のヘルメット・カメラに映された映像に、視聴者たちが大きく盛り上がる。
「どうせそちらも配信しているのでしょう? どっちが配信者として勝つか――――ここで白黒つけましょう」
笑みを浮かべた四条が床を蹴るのと、エンデュミオンが鈍い動きで迎撃するのは同時だった。




