第453話・大人の責任を果たさないヤツは、絶対に許しません
「貴様らなどこの俺1人で十分だ、飯を食ってずいぶんと元気になったな? ベルセリオン」
「おかげさまでねっ、このクズ保護者!!」
恨みを込めて、ベルセリオンは踵落としを繰り出す。
タメが大きかったのでアッサリかわされたが、想定内。
高速で回り込んだ四条が、89式の銃剣を突き立てた。
エンデュミオンが即座にグリフォニアでガードすると、刃同士で火花が散る。
「わからんな、俺はそれなりに貴様ら執行者を目に掛けてやっていたが?」
「彼女たちは空腹でした、気にしていたなら食事くらい振舞っても良かったのでは?」
「はっ、何を言うかと思えば”そんなこと”か? ガキに飯をたらふく食わせるなど贅沢の極み。食事とは大人が優先するものだ」
直後に、エンデュミオンは持っている宝具に掛かる力が増していることに気づく。
気のせいかと思ったそれは、明確に四条から怒気という形で溢れ出ていた。
「このクズ野郎は……、どうもぶん殴らなければいけないようですね」
「ははっ、ぶん殴るだと? 女に過ぎないお前がこの俺を殴るなど――――」
瞬間、エンデュミオンの視界が半分以上潰れた。
刃をはじき返した四条が、全力で銃床を用いた打撃を繰り出したのだ。
彼女の体から、光り輝く魔力が大量に溢れ出す。
「食事は大人が優先? そんな考えだから執行者に愛想を尽かされたと理解できないんですよ!」
「ガフッ!? この……アマがぁ!!」
エンデュミオンが剣を振るうが、そのどれもが四条にとっては浅くノロい斬撃。
彼女の黒いショートヘアが、魔力によって美しく輝く。
その荘厳さと裏腹に、溢れ出るは怒りの感情。
「ベルさん!!」
「おっけぇマスター!!」
ベルセリオンがハルバードを地面に叩きつけると、転移魔法が発動。
彼女と四条の位置を瞬時に入れ替えた。
「なにっ!?」
四条の顔に向かって放たれた一撃は、入れ替わった身長の低いベルセリオンの頭上を掠める。
大きな隙を晒した相手に、執行者は既に構えを取っていた。
「『空裂破断』!!!」
「がぁああッ!!?」
怒りと恨みを込めた一撃が、エンデュミオンを吹っ飛ばした。
壁が崩落し、部屋が大きく揺れる。
もちろん、制御装置とは反対の方向へ叩きつけた。
「あーあ、こんなロクデナシに仕えてた自分が恥ずかしいわ。アンタに教えてやりたいわよ……、エリカや秋山……この世界の日本人がどれだけわたしに優しさをくれたか」
ハルバードを軽々振りながら、ベルセリオンは本気で忠誠を誓う現在のマスターの隣に立った。
彼女ら2人は、第4エリア攻略にあたり訓練を続けていた。
想定される敵がいよいよ大物に絞られてきたことで、これまでのような銃頼りや執行者単独ではキツイと判断。
透とテオドールが単独思考だった一方で、戦いのコンビネーションを極限まで磨き上げていたのだ。
「優しさか、聞いて呆れるな。執行者ともあろう者がほだされおって」
瓦礫を蹴り飛ばしながら、血を流したエンデュミオンが出てくる。
満腹かつ愛情たっぷり状態のベルセリオンの一撃は、かなり効いているようだった。
「あいにく、執行者の意味や役割なんてわたし知らないのよねぇー。それで嫌な仕事するくらいなら、みんなで美味しいご飯を食べて生きたいわ」
至極まっとうな意見に、四条も続いた。
「そちらの日本では知りませんが、こっちの日本では子供は宝です。ベルさんほどの子どもを飢えさせるなど言語道断。大人として到底許されません」
「はっ……戯言を。試しに聞いてみれば実にくだらん価値観だ、耳に真水を流された方が遥かにマシだな」
そこまで言ったエンデュミオンは、空いていた左手を顔の前まで上げる。
「今一度教えてやろう、俺と貴様らの――――埋めようの無い絶対的な差をな!」
人差し指と中指で印を結んだエンデュミオンは、全身から他を圧倒する一撃必殺の奥義を展開した。
「――――『魔導封域』――――」




