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第449話・因果の代行者

 

 これからの世界と自分、そして執行者の役割。

 眼前の少佐は、確かにそう言った。

 あまりにもスケールがデカすぎて、透からすれば困惑しかない。


「……それを俺に話して、なんの意味がある」


「なんの意味? 君は自分がどういう存在かまだ理解できていないのか?」


「ただの自衛官だ、あとテオの親。それ以上でも以下でもない。悪いが敵地で長々と話す真似はできねーよ」


 銃を持っているのはこっちだ。

 イヤホン型の無線機は、転移の影響で電子機器が故障してしまっている。

 一刻も早く、部隊と合流しなければ――――


「ッ!!」


 透は考えるよりも早く、自らが持っていた20式を盾のように前面へ押し出した。

 同時に、正面から飛翔してきたナイフが金属音を立てて銃に激突。

 彼の手から、ライフルが地面に落ちた。


「さすがの反応、仕留めるつもりだったんですがね」


 ナイフを投擲した林少佐が、薄く笑みを浮かべる。

 あり得ない、小さなナイフの投擲で普通銃は弾かれないはず。


「…………話をするんじゃなかったのか?」


「しますよ、君なら必ず防ぐと確信していましたから」


 直感で感じる。

 この男は、今まで対峙してきたどの敵よりも”強い”。

 自分に危機察知能力が無ければ、確実に今ので殺されていた。


「っというのも、確信以前に今の君は殺せないでしょう。どんな手段を用いてもね」


「どういう意味だよ」


「君は今まで不思議に思ったことは無かったですか? いくらなんでも、上手くいきすぎているんですよ……この世界の日本は」


 ふと昨晩のことを思い出す。

 今までの勝利、苦戦はしたが綱渡りで最後には絶対に勝っていた。

 疑問が、徐々に実感を帯びていく。


「ダンジョンの出現で……、この宇宙には無数の平行世界が存在すると判明しました。その中には全ての可能性があり、並列に存在する……私も最初はそう思っていました」


「量子力学の話か? それと俺になんの関係がある」


「あるんですよ、なにせ――――」


 正対した林少佐は、ウリエルと議論を突き詰めた先の結論を口開く。


「今我々がいるこの世界こそ――――”(あまね)く世界の終着点”だからです」


 常識が覆される。

 自分よりも高名な学者たちが数世紀掛けて築き上げた理論が、たった一言で崩壊する。


「終着点? そんな陰謀論を話すために俺を呼んだのか?」


 その場しのぎのブラフ。

 床に落ちた20式は近い、2秒もあれば拾える。

 透は話を聞きながら、冷静に反撃のチャンスをうかがっていた。


「世界は並行じゃない、まるで駅のように終点へレールで繋がっている。通過地点に過ぎない世界は、最終的に統合され――――消滅します」


「解せないな、どういう理屈で世界が消えるんだ?」


「それは貴方が娘のように扱っている、執行者テオドールの生まれた世界を思い出せば済むでしょう」


 否定がカウンターのように返って来る。

 以前にエクシリアから、テオドールやベルセリオンの生まれた世界はアノマリーによって消滅させられたと聞いた。


 ダンジョンは無作為に世界を渡っていたのではない。

 レールの上を走る電車のように、順番で世界を滅ぼして回ったのだ。

 ”通過駅”に過ぎない世界へ外部からダンジョンという魔力を呼び込み、アノマリーを起こして立ち寄った世界を消していく。


 それは、最初から決められていた必然。


「因果……という言葉をご存じですか? 新海3尉」


 自分の思考を、林少佐は理解している。

 この話は、ただの大ボラではない。

 現代に現れたダンジョンというファンタジーが持ってきた、一種の”答え合わせ”。


「本来世界に1人しかいない執行者が3人も揃い、君たちの活躍でダンジョンはこの世界で停止。挙句には唯一アノマリーすら倒せた……なぜだと思います?」


「さぁ、浅学なもんで」


 透が答える。


 林少佐は、この瞬間を待っていた。

 この一瞬のために錠前勉を追い払い、1対1の環境を作り上げた。

 全ては、眼前の”特異点”へ真実を告げるため。


「新海透3尉、あなたがこの世界の”中心”――――因果そのものだからですよ」


 語られた言葉を咀嚼するのに、透は数秒を要した。

 当然だろう、世界の中心だなどと言われてアッサリ理解できる人間はいない。

 それを悟った林少佐は、矢継ぎ早に回答を続けた。


「あなたがいなければ、第1エリアは解放されず…………日本がここまで強くなることは無かった」


「あなたがいなければ、執行者をダンジョンの鎖から解き放てず…………因果は破滅を巡っていた」


「あなたがいなければ、リヴァイアサンを倒すこともできず、とっくに世界は滅んでいた」


「あなたがいたからこそ、日本はこうして勝ち続けている。あなたは因果に守られ、また因果を履行する”世界の中心”――――”世界の代行者”なのですよ」


 これは、林少佐がダンジョン勢力と手を組んだからこそ辿り着いた究極の結論。

 ダンジョン出現から1つ1つ日本破滅のチェックポイントを設定した時、そこには必ず新海透の存在があった。

 何度シミュレーションを行っても、世界が続行されるには彼が必要。


 新海透こそが、”因果の代行者”なのだと。


「まっ、錠前勉のように因果の理から外れた者もいますが……。今はただ、君にこうして私なりの推論を伝えれて良かったよ」


「それを言うためだけに、俺をここへ呼んだのか」


「いえ、違いますよ」


 林少佐の目が、殺意を帯びたものへ変わる。


「これはあくまで通過点、本題は君を殺すことです。日本の永遠の勝利……それによって履行される因果を覆すためにね。銃を拾うのには2秒は掛かるでしょう? それより先に私はあなたを仕留めます」


「長い前置きだったな、いかにもインテリらしいよ」


「君が生きている限り、中国は――――私の家族は永遠に救われない。因果など関係ない、そのためだけに私は生きて来た」


 林少佐が動こうとした時――――


 ――――バゴォンッ――――!!!


「「ッ!!?」」


 天井が派手に崩落、瓦礫と一緒に少女が降ってきた。


「透!!」


 今際の際で駆け付けたのは、彼の眷属――――執行者テオドールだった。


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― 新着の感想 ―
林少佐、やっぱりご家族を祖国に残したままなのかな… 祖国があっても無くても、家族が生きてもいなくても、確かに幸福とは言いづらいよな。 天使どもが時間の巻き戻しが出来るとか言うのなら、彼奴等に着いてるの…
世界というのが星1個なのか宇宙全体のことなのか、ちょっとわかりづらいんですよね… ・76話によると星(地球とか火星とか)に1匹レベルにも見えるんだけど、328話は宇宙全体の話をしている。でもベヒーモス…
悲しき獣やで、少佐… 君もこちらに来て肥え少佐にならないか?
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