第448話・邂逅と解明
「着いたな、ここがお城か。近くで見ると本当にファンタジーだな」
「えぇ、ラビリンス・タワーとはまた違ったイメージです。あっちはどちらかというと高層ビルのようでしたから」
準1級神獣を退け、途中で盛大なお付き合いバレがあったものの、第1特務小隊は島の中央にまで来ていた。
入口の前に立った時、透の脳内では朝にした会話が過る。
――――林少佐……、中国が崩壊したのにまだダンジョン勢力と手を組んでる。一体何が目的なんだ?
透からすれば、もう任務も無い軍人が戦いに固執する理由が全くわからない。
よほどの理由があるのかもしれないと、自衛官ながらに考える。
「よし、目標は玉座の間だ。そこに制御室への入り口があるかもしれん。各自連携しつつしっかり進むぞ」
今のところは順調。
このままチームとして固まって進めば、あらゆる対応ができる。
そう思いながら透が扉に踏み込んだ時だ。
「ッ!!!」
城内に足を踏み入れた瞬間、透の危機察知能力が発動した。
刹那の間で、彼は叫ぶ。
「全員!! 一歩下がれ!!!」
彼の声が轟くと同時に、足元に”転移魔法陣”が出現。
全員の目の前で、透は強制転移させられてしまった。
「透さん!!」
「隊長!!!」
「透!!!」
慌てて全員が掛け寄るが、そこに透の姿は欠片も残っていない。
ここで、魔法熟練者のエクシリアが収めるように口開いた。
「自立可動式のトラップ転移魔法……、やられたわね。彼の危機察知能力を逆手に取ったんだわ」
「師匠! 透は無事なのですか!?」
「どこかへ転移させられただけだから、大丈夫なはず……。新海透の警告が無かったら全員がやられていたわね」
突然のリーダーの消失。
これで第1特務小隊は、実質監督官と小隊長の2名を一時的に失ったこととなる。
だが、訓練された自衛官の行動は早かった。
「指揮を引き継ぎます! テオドールさんは単独で透さんの捜索を! わたしとベルさんは東塔から、久里浜士長と坂本3曹は西塔から玉座の間を目指してください!!」
残った中で一番階級の高い四条が、迅速に命令を下す。
このような事態に備えて、命令系統は徹底的に調整してあった。
上官が死んでも、戦闘を続行するのが軍隊だ。
「良いですけど四条、透が玉座の間にいる確信はあるのですか!?」
このテオドールの問いに、四条は明確にかつハッキリと答えた。
「”直感”です!」
◇
「初めまして、新海透3尉」
「……」
――――玉座の間。
転移させられた透の前に、1人の中国人が立っていた。
若く端正な顔つきで、人民解放軍の佐官服に身を包んでいる。
間違いない、こいつが――――
「林少佐……、で間違いないな?」
20式小銃を構えながら質問すると、眼前の軍人は優しく微笑む。
「えぇ、いきなりつまらない手を使ってしまいすみません。ですが、あなたなら仲間のために自分1人が犠牲になると確信していましたよ」
「そりゃ大層な信用だな、俺が自分だけ助かる下衆だったらどうしたよ?」
「はっはっは、そんな男に世界を魅了する器は宿りませんよ。日本の英雄――――新海透3尉?」
どうやら、向こうは自分のことをかなりしっかり知っているようだった。
隙なく小銃を構えながら、周囲を伺う。
ここは玉座の間で違いない、四条たちはおそらく無事。
敵の狙いは最初から自分だけだったと推定。
大天使サリエルの姿が見えないのが気がかりだったが、なぜいないのかはひとまず置いておく。
「単刀直入に聞く、俺になんの用だ。祖国が崩壊し、鎖を失った軍人がなぜまだダンジョンで戦う」
透の質問に、林少佐はニッと笑った。
「少し、話をしませんか? 10分で良い……テーマは」
人差し指を立てた林少佐は、全く想像もしていなかった言葉を繰り出す。
「これからの”世界と君”、そして”執行者の役割”について」




