第446話・配信事故
「ベルさん! お願いします!」
「了解マスター! 任せて!!」
第1特務小隊の連携は完璧だった。
動けなくなった久里浜へモンスターが肉薄するも、最初から想定内。
それより圧倒的に速い速度で、木から伸びたツタを掴んだ執行者ベルセリオンが、ターザンのように空中を疾走。
攻撃が当たる直前に、真横から久里浜を抱きかかえる形で掻っ攫った。
「むはぁー! ベルセリオンちゃーん! ありがとー!」
「ちょっ! 匂いを嗅ぐなぁッ!!」
愛しの執行者に救出され、大喜びの久里浜。
一方のモンスターは、自分が罠に嵌ったことを即座に認識。
対処行動へ移った。
「ブォォオッ!!」
頭上に魔法陣を浮かべると、そこから噴水のように爆裂魔法が噴射された。
シャワーのように爆発の雨が降り注ぐ。
木々が薙ぎ払われていく中、200メートル離れた木の上でライフルを構える男がいた。
「バカみたいな連射は、隙を作るだけだよ」
太い枝の上に座り、64式を構えていた坂本が発砲。
前髪に隠れた眼は、スコープ越しにタートル・ウォートホッグを捉えていた。
――――ダンダンダンッ――――!!!
飛翔した7.62ミリ弾は、木々を縫って敵の眉間へ撃ち込まれた。
これが熊なら致命打にもなるだろう。
しかし、相手は準1級神獣。
ダメージにはなっていたが、まだ命には届かない。
おまけに、その圧倒的な視力で遠方の坂本を発見した。
「おっ、気づくんだ。本気で隠れた僕を見つけたのは新海隊長以来だ」
そう言って、無線を起動。
合図を送った。
「今だよ、テオドールちゃん」
瞬間、神獣の真上に重なる影。
「透、四条! ちゃんと撮ってくださいね!」
全身に光り輝く魔力を纏った執行者テオドールが、上空へ跳び上がっていたのだ。
今の彼女は、前日に焼肉をお腹いっぱい食べたことで魔力出力大幅アップ中。
端的に言うならば――――
「20.3センチ――――『二連装・ショックカノン』!!!」
絶好調。
本気を出せば大天使にも致命傷を与えられる彼女は、真上から強烈な魔法を発射。
先ほどの敵の爆裂魔法が可愛く見えるレベルで、辺りに衝撃波をまき散らした。
【ほえドールちゃんカッケええええ!!!】
【坂本3曹ナイス援護!!】
【もうこの小隊だけで良いんじゃないかな?】
その様子を後方で撮影していた四条は、スマホをしまう。
透が近づいてきたのを見て、彼女はミュートを押した。
「どう? 視聴者数」
「良い感じ、これなら錠前1佐も満足すると思う」
「そっか、まぁ銃×魔法のシチュエーションで燃えんヤツはいないわな」
奥の方では、一連の連携を終えたみんながハイタッチしていた。
なお、久里浜だけはベルセリオンの体臭を嗅いだ罪でしばかれている。
「このまま何事もなく行けそうね」
言いながらミュートを切る。
そんな言葉を口走ったからだろうか。
透の脳が緊急の警鐘を鳴らした。
「ッ!!」
真上を見れば、上空高くに高エネルギーの球体が浮かんでいた。
ここで気づく。
さっきの爆裂魔法は陽動、このエネルギー体こそが本命だったのだ。
「”衿華”!!!」
「わっ!?」
弾かれたように動いた透が、四条を思い切り押し倒した。
ほぼ同時に、真上から爆裂魔法が降って来る。
攻撃はさっきまで四条がいた場所に直撃しており、クレーターを生み出した。
「いっつつ、大丈夫か?」
「うん、ありがとう”透”……」
至近距離で見つめ合う2人。
だが、透と四条は一番やってはいけないことをしていた。
【”エリカ”? 今……下の名前で呼んだ?】
【四条2曹も”透”って……】
【もしかして、この2人――――】
久里浜が配信の緊急停止を行おうとしたが、もう遅い。
【【【付き合ってるーッ!!?】】】
全世界に、2人の交際がバレた瞬間だった。
顔を赤らめ、密着状態で硬直するバカップル。
そして、この配信を……陸上総隊本部にいた”陸将階級”の男が見ており。
――――バキィッ――――!!!
持っていた始末書用のボールペンを、盛大にへし折った。




