第444話・炸裂! ほえほえショックカノン!!
「ふぅっ、ランニングというのはやはり物好きのすることですね。早く涼しいテントで宇宙戦艦のアニメが見たいです」
島の3分の2を走り終えたテオドールが、一息つきながらビーチを歩いていた。
元々執行者時代から、運動というのは面倒だと思っていた彼女。
敵だった頃は、その境遇から上級指揮官として部下の前で幼さを隠していたが……今ではすっかり年相応の性格に。
こうして保護者から言われて初めて、面倒ごとをやるに至るのだ。
「さて、ここらで少し休憩を……おや?」
見れば、海岸の一角に”ヒビ割れた空間”があるではないか。
近づいたテオドールは、すぐさまそれを触った。
「珍しいですね、ポータルがあるじゃないですか」
ダンジョン内は、結界術によって不自然に拡張されている。
なので、たまにこうして空間が傷ついて裂傷を起こすのだ。
「どこに繋がってるのでしょう、何か膜があってわかりませんねー」
普通はわかるものだが、何やらノイズが走っていてよく見えない。
しかし、今の彼女にとっては好都合だった。
幼い顔に悪い笑みが浮かべられる。
「空や海に撃つとバレてしまいますからね、せっかくですからここに捨てさせていただきましょう」
テオドールを膨大な量の魔力が包み、銀髪が淡く輝く。
そう、彼女は魔法を撃つことで大量のカロリーを消費し、言うならばズルしようとしていた。
攻撃魔法はダイエット代わりになるが、付随被害から普段は訓練時以外固く使用を禁じられている。
だが、このポータルにぶち込めばバレずに発散できるのだ。
島を3周分走ったと言える技となると、アレしかない。
執行者テオドールは、全身全霊の力で魔法を放った。
「48センチ――――【三連装・ショックカノン】!!!」
両手を思い切りポータルに叩きつけ、本気の大魔法を撃ち込む。
青い衝撃ビームは、一滴の欠片もなく吸い込まれて――――
◇
「じゃ、行ってくるよ。執行者の生首をお土産に期待してな。林少佐」
城の中で、今まさにポータルをくぐろうとしていた大天使サリエルを、青い光が照らした。
「えっ? なんの光――――」
それがサリエルの最後の言葉だった。
ポータルを突き破って飛び出て来たのは、今さっき海岸でテオドールが発射したショックカノン。
ほぼゼロ距離にも等しい距離で直撃を食らったサリエルは、
「ミッ!!!!」
虫のような断末魔を上げると同時に、一瞬で蒸発。
ベルセリオン戦に続いて、2度目の死を迎えることとなった。
一応復活はあと1回だけできるが、もうこの時点で第4エリアからの戦線離脱は確定。
つまり、リタイア。
少し離れた場所で見ていた林少佐は、「やはりか……」と一言。
また、お城の方で大爆発が起きたのを遠目で見たテオドールは、困り顔で頭をかきながら…………。
「……、まぁ、敵が暴れたということにしますか」
全ての責任を敵に押し付け、カロリーを排出してスッキリした足取りで拠点に帰って行った。
一連の流れで大天使サリエルは戦闘不能。
また透たちも敵が仕掛けてきたのかと思い、予定を繰り上げて中央への侵攻を開始した。




