第443話・遍く世界の中心
「【ラビリンスタワー】? もう攻略済みの場所ですよね? なぜそこを……」
パイロットの疑問はもっともだったが、錠前は数か月前のことを思い出す。
「あそこは執行者が初めて姿を現した場所だ。前までは何も思わなかったが、”魔眼”を手に入れてからずっと何か違和感を感じてたんだよねぇ」
「違和感……ですか」
「そっ、第1エリアで姿すら見せなかった特別な少女たち。彼女たちの出会いは全てあの塔だ、普通に考えて――――何かあると思わない?」
「まさか、第4エリアは陽動でそっちに制御室が?」
「それはわからないね、でも今まで調査もロクにされていなかったんだ……。この眼で確かめに行く価値はあると思うんだよね」
ヘリが雪原の上空へ。
通り道である第3エリアに差し掛かったのだ。
こちらも奴隷化されていたエルフたちを既に解放し、現在は関西と関東の2か所に分散して、国が主導して一体化を進めている。
前任から引き継いだ新政権の担当大臣は、改めてエルフの人権と伝統を尊重しつつ、未来に日本人と上手く共生できるよう指示。
現在は日本の文化やルールを学ばせており、将来的には日本人と差異が無いレベルにまで一体化させるつもりらしい。
そんな思い出の第3エリア上空を通りながら、錠前は続けた。
「僕って最強だからさ、相手は常に僕のこと監視してるだろうし……こうして撤退するフリでもしないと、なかなか自由に動けないんだよねー」
魔眼をコックピット越しに広がる青空へ向けながら、ニッと笑みを浮かべる。
「そっちは頼んだよ新海、僕もできることをやるからさ」
◇
――――第4エリア、中央巨城。
中央部の大広間で立っていた林少佐は、錠前を乗せたヘリを見届けて満足気にしていた。
近くでは、白色の羽根を広げた金髪の男。
「なるほど、僕や特級をわざわざ敵地に送ったのは、こういうことか……やっぱ君凄いね。知日派なことはある」
背後で打撲痕だらけとなった大天使サリエルが、嬉しそうに話しかけた。
本来なら治癒魔法で全快したいところだが、真島は天性のセンスで魔力回路をピンポイントで殴っていた。
そのため、現在治癒ができない状態にある。
「日本の政治家は保身、利権、国家衰退という名の自己の安寧が大好きな連中が大半ですからね。少し尻を炙ればこんなもんでしょう」
「おかげで、錠前勉と戦う心配は無くなったわけじゃん? 最初からこうしておけば良かったよ」
林少佐の目的は、大臣暗殺でも無差別攻撃でもない。
首都が安全ではないと日本国民および政治家に再認識させ、分断を画策。
さらに我が身可愛い連中を刺激し、錠前勉をダンジョンから追い出すことこそが目的。
全ては、本命のために――――
「フフッ、早く会いたいものですね。新海透に…………」
椅子に座った林少佐へ、サリエルは口開く。
「錠前勉を追い払った理由が、新海透に会うため……か。アイツにそんな価値あんの?」
疑問符を浮かべるサリエル。
特級や大天使を使用し、日本本土を恐怖に陥れてまでやりかたかったこと。
それは、林少佐が誰にも邪魔されないシチュエーションで新海透と会うためだった。
せっかくの邂逅、あまりに強すぎる錠前勉にいられては困るのだ。
「ありますよ、彼はいずれ……錠前勉に並ぶ傑物になる。いや、もうなりかけている……そんな男とどうしても会ってみたい。彼が”執行者の意味”や”遍く世界の中心”にいる気がするのです」
「…………それは直感かい?」
「確信ですよ、私に彼のような才能はありませんから」
そこまで言った林少佐へ、サリエルが不敵な笑みを浮かべる。
「ところで、もう本当に錠前勉の心配はしなくて良いんだよね?」
「まぁそうですね、あの男が素直に下がった可能性は低いですが……今のところは」
「実はさっき連中の拠点の近くに転移ポータルを作ったんだ♪、そこから奇襲して一気に壊滅させようかなと。そうすれば手間も省けるっしょ」
見れば、広間にヒビ割れた空間が浮いている。
サリエルがこしらえた、転移ポータルだ。
しばし真顔で考える林少佐。
自分の”ある仮説”が正しければ、現時点で第1特務小隊はいかなる手段を用いても――――
「えぇ、お好きにどうぞ」
「よっしゃ! じゃあせっかくだから親愛なる天界市民に配信しながら突撃だ! 新海透以外は皆殺しでいっちゃうぜぇ!!」
林少佐は、少しサリエルから距離を取った。




