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第442話・眷属はマスターに似る

 

「ほえぇ……、美味しいですぅ」


 ――――第4エリア、ビーチ。


 快眠から起きて歯を磨いた執行者テオドールが、朝ごはんのチョコバーを食べていた。

 砂浜は相変わらず陽光に照らされており、さざ波を見ながらの優雅なお食事。


 今日の恰好は常夏の気候に合わせて、半袖の薄いパーカーとベージュ色のショートパンツ。

 幸せそうな顔でモグモグする彼女だが、それを訝し気な顔で見つめる女の子が1人……。


「テオドール、ちょっと良いかしら」


 実の姉である執行者ベルセリオンが、制服姿で近づいた。


「モグッ、なーに? お姉ちゃん」


 不思議そうな顔をするテオドール。

 次の瞬間、ベルセリオンはバッと彼女のパーカーと肌着を上にめくった。


 目の前に、色白で柔らかい妹のお腹が現れる。

 それを見た姉は、即座に呟く。


「ちょっと太ってない?」


「太ってない」


「肥えてるわよね?」


「肥えてないもん」


 あくまで否定を続けるテオドール。

 だが、現在進行形でチョコバーをモグモグと頬張っているので、説得力など欠片も存在しない。

 服をめくられるよりも、食事を優先する図太さ。


 パーカーから手を離したベルセリオンは、金色の目を細めた。


「お姉ちゃん命令よ、島を3周走ってきなさい」


「えぇ……、面倒くさい」


「アンタ目を離したらすぐインドア趣味するでしょ、せっかくビーチに来てるんだから運動しなさい」


 それを見ていたマスターの透も、腰に手を当てながら同調する。


「テオ、お姉ちゃんの言う事は聞かなきゃダメだぞ」


 起死回生は不可。

 逃れられないと幼い感性で悟ったテオドールは――――


「ほえん」


 とても情けない声で返事をした後、渋々ランニングをしに走っていく。

 それを見届けた透も、そそくさと錠前がいるテントに向かう。

 ため息をつくベルセリオン、そこへ背後から近づく影があった。


「お疲れ様ですベルさん、お姉ちゃんは大変ですね」


 笑顔でそう話したのは、彼女のマスターである四条エリカだった。

 服装は昨日と同じで、ラフな半袖シャツに白色のショートパンツと涼しい恰好。

 改めて見ても腕や足は細く綺麗で、アイドルのようなスタイルが薄着で強調されている。


 透は早朝にそれを見て、「なんで長ズボン持ってきてないんだよ…………」と、また独占欲を爆発させた。

 が、四条は暑いのが単に嫌なので無視している。


「お姉ちゃん道が板についてきましたね」


「テオドールは良い子だけど、ほっとくと怠惰に走る癖があるから……たまにこうして言わなきゃなのよね。それもこれも、マスターの新海透が原因なんだけど」


 ベルセリオンの言う通りだった。

 もうみんな知っていることだが、透とテオドールは恐ろしいほどに共通点がある。

 言うならば超似たもの同士。


 趣味はお互いにインドア系で、不摂生なんて気にもしない。

 人たらしな部分が目立ち、のほほーんとした雰囲気まで一緒。

 横に並べたら、さながら本物の親子に見えるだろう。


 ちなみに不摂生については、透がこのあいだ大好物だった”ウイスキーのエナドリ割り”を、四条にかなりガチで説教された。

 その様子を陰でビビりながら見ていた坂本と久里浜いわく、


『透!! その最悪な飲み方止めてって前に言ったわよね!? どれだけ酔いが早く回ると思ってるの!? 大人ならもっと常識的なお酒の楽しみ方をしてよ!!』


 っと、言うような感じでマジ説教をされ、透は四条をここまで心配させてしまったことに本気で反省させられた。

 また、四条のタメ語を初めて聞いた坂本と久里浜は、互いに絶対に彼女へ逆らわないよう決意したとか。


 そんな感じなので、透は自分が不摂生なのでテオドールのスタイルに強く言えないのだ。


「ってかそもそも、新海透は人に厳しく言うのが苦手っぽいのよねぇ……。だからわたしがこうして時々お説教するわけ」


「透さんは理解できますが、彼女の師匠のエクシリアさんはどうなんです? 昔は死にかけるまでしごく鬼の教官と聞いてましたが」


「あっちもダメね、最近はテオドールを甘やかしてばっかよ」


 エクシリアは今でこそ味方になったが、元は最後まで手強い敵だった。

 実際、過去に行われた2回の戦いではテオドールに完勝。

 瀕死の重傷にまで追い込んでおり、挙句トドメまで刺そうとした。


 立場上仕方なかったとはいえ、エクシリアは今でも当時を「師匠失格だった…………」と落ち込んだ様子で語っており、たとえテオドールが許しても激しい罪悪感を抱いている様子。

 その反動か、他人に迷惑を掛けない限りはお説教などまるでできないらしい。


「フフッ、まぁ……お互い大変ですね」


「まったくよ、エリカも新海透をしっかり面倒見てあげてね」


「えぇ、けど……そこが好きでもあるんですが」


 穏やかに笑う四条。


 一方で、海岸に1機のUH-1ヘリコプターが着陸してくる。

 荷物を纏めた錠前に、透が近づいた。


「それでは錠前1佐、あとはお任せください」


「うん、頼んだよ。悪いね……最後まで一緒にいれなくて」


「とんでもありません、1佐も任務頑張ってください」


 霞ヶ関からの要請で、錠前は単身本土へ呼び戻されていた。

 正直、かなり痛い状況だった。

 こんな孤島でも、現代最強の自衛官がいればどうとでもなると少し思っていたからだ。


「あっ、新海に1つ教えとくね」


 ローターから生まれる風を背中に、錠前はサングラスを上にあげた。


「”林少佐”って男に注意しな、おそらくそいつが今回の騒動の親玉だ」


「林少佐……中国人ですか?」


「あぁ、サリエルと戦った雄二が聞いたらしい。今までにいなかった策士だ、大丈夫だとは思うけど……用心しな」


「了解です」


 錠前を乗せたヘリを、ビーチに並んだメンバーが敬礼で見送る。

 島を旋回したUH-1は、大陸方面へ進路を取った。


「さてっと、ここまでは想定内かな。悪いね、来てもらって」


「いえ、城崎群長の指示なので」


 コックピットに近づく錠前に、パイロットが返す。

 彼はユグドラシル駐屯地配属の隊員ではない、特殊作戦群の輸送を担当する部隊の精鋭パイロットだった。


「このまま命令通り本土へ?」


「いや、”首相”から極秘で命令の上書きが来た。僕はぼくにできることをやれとさ。それが国益に繋がるらしい。ってなわけで目的地は第2エリア――――【ラビリンス・タワー】だ」


本日漫画版更新です!

扉絵の久里浜がめっちゃタクティカルで、全人類に見て欲しいカッコよさなので、ぜひご覧ください!

これは間違いなくガンオタをこじらせたヤベー女です

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― 新着の感想 ―
(推定)首相さんはカッケーと勝手に認定しました。 なお、今回は一泊できて良かったね、錠前くん…(ほろり) 沖縄戦の時は日帰りだった気がするし…(パフェでも差し入れて上げたいっ!!)
ほえん、頂きました!
ダメなお姉ちゃんがしっかりしたら妹が肥えたw
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