第441話・決着、VS特級神獣ゴアマンティス
全力ダッシュをしていた特戦小隊長たちは、なんとかコブラの前にたどり着いた。
「はぁっ! はぁっ、上手く着陸したやん。さすがに木更津のヘリパイや」
背中にエクシリアを背負ったアサシンが、MP7A2を握りながら呟いた。
彼の言う通り、ヘリは大破こそしているものの燃料への着火を免れている。
なにより、あの状況で道路にソフトランディングを決めるのだから、大したものだ。
「行くぞ、キャスターはファーストエイドの準備を」
「了解」
近くで、戦車砲の激しい砲撃音が響いている。
自分たちが任務を終えない限り、16式戦闘車は離脱できない。
まさに、時間との勝負だった。
「おい、大丈夫か!」
大破したコブラに近づくと、コックピットの中で隊員たちが手を振った。
安堵が包む。
どうやら、窓が歪んで脱出できないらしい。
今は工具など持ち合わせていないので、結果として––––
「踏ん張れやキャスター!!! もっと力入れろ!!!」
「ぬぅああああああああああああッ!!!!」
特戦の方々は、己のフィジカル一本で窓を外した。
パイロットたちは足や腕を骨折していたが、まだ動けそうだった。
「歩けるか?」
「あぁ、肩だけ貸してくれ……」
「任せろ。キャスター、ルーラーに報告! パイロット救助、徒歩にて爆撃ポイントから離脱する」
「了解、先に行け。俺はF-2を爆撃地点まで誘導する」
特戦が背中を向ける一方で、16式部隊も決死の戦闘を行っていた。
市街地を時計回りに旋回し、お得意の行進間射撃でゴアマンティスを撃ちまくる。
もはや相手は人型の大樹、肉の樹とでも言うべき姿に変貌しており、105ミリ砲を用いても有効打が生まれない。
陸上総隊の予想を、遥かに超える耐久力だった。
「2時上方!! 根が3本接近!! 捕まります!!」
「回避は間に合わん! ブローニングで叩き落とす!!」
車長がハッチから身を乗り出すと、設置してあったM2重機関銃を素早くコッキング。
フルオートで12.7ミリAP弾を撃ちまくった。
1本、2本、3本と熟練の曹に相応しい腕で叩き落とした。
「反撃だ!! 弾種変更徹甲!! 小隊集中行進射――――撃てッ!!!」
――――ドパパパパンッ――――!!!
ビルの隙間を縫って放たれた105ミリAPDS弾は、ゴアマンティスの胸に風穴を開けた。
普通の生物ならこれでKOだが、相手は特級神獣。
これでも命には届かなかった。
しかし――――
「16各車! こちら16!! 僅かだが再生が鈍くなっている! 効いてるぞ! ありったけ撃ちまくれ!!!」
時速70キロで走行しながら、砲塔を横に向けて斉射。
強烈なマズルフラッシュが、無人の市街を明るく照らす。
「残弾は!?」
「HE残弾0!! APが残り3!!!」
「了解!! CP!! 聞こえるか? 現在1個小隊残弾僅か!! そろそろ限界だ!!」
既に10分が経過した。
予定時刻ちょうど、車長の額に汗が浮かんだ時だ。
『こちらCP、Sがパイロットを連れて離脱に成功した! これより特戦の誘導でF-2が爆撃を開始する! 大至急離脱せよ!!』
「了解!!」
合わせて、都心の上空にジェットエンジンの爆音が響いてきた。
百里を離陸したF-2戦闘機2機が、戦域へ突入してきたのだ。
戦闘の音と光で叩き起こされた民間人たちも、いよいよ事態がおかしいと感じている。
もはやこの戦いは、秘密裏になどできない。
巻き起こった激戦は都民によって撮影され、やがて世界に拡散されるだろう。
明日の朝刊には、自衛隊が首都で爆撃を行ったという紙面が飾られる。
もちろん、批判は殺到するだろう。
今までのような、結界内やヘリでの局所攻撃とはまるで違う。
しかし、自衛隊の使命はあくまで”国民の防衛”。
このまま無尽蔵に増殖を行う特級神獣を、野放しにすることはできない。
まさしく汚名上等。
市ヶ谷で指揮を執る四条陸将は、責任問題も覚悟の上。
重ねて怯まぬよう命令し、またパイロットも躊躇なく火器管制のスイッチを入れた。
「クリアードアタック! クリアードアタック!」
F-2が上空で攻撃コースに入った。
ゴアマンティスも気づいたが、遥か高空のジェット戦闘機にはさすがに対応が間に合わない。
「ファイア、レディ……ナウ!」
投下スイッチが押された。
ロック機構が外れ、航空自衛隊の切り札――――”2000ポンドJDAM-ER”が解放される。
「爆弾投下」
2機のF-2から、4発のJDAM-ERが落とされた。
特戦の誘導によって正確に落下したそれは、ゴアマンティスの根本と頭部に2発ずつ命中。
東京を照らす巨大な爆炎を立ち昇らせた。
「クリティカルヒット!!」
市ヶ谷、首相官邸の地下に設置されたスクリーンには、付近を飛行するOH-1偵察ヘリからのリアルタイム映像が映し出される。
2000ポンド爆弾の威力はまさしく桁違いで、爆風は周囲数ブロックを一瞬で破砕。
爆心地となった自衛隊中央病院は跡形も残らず、そして…………。
――――ズズゥンッ――――!!!
燃え上がったゴアマンティスは、支えを失って倒れ込んだ。
全身が音を立てて崩れると同時、見たことのないほど大量の魔力結晶をまき散らした。
戦闘を見届けた四条陸将は、安堵する幹部たちの中で1人ため息をつく。
「しばらく眠れん日が続くな……」
――――翌日。
ゴアマンティスとの戦闘は大々的に報道され、更地となった自衛隊中央病院とその周辺が世界中に流された。
世論はダンジョン攻略派がまだ多数を占めていたが、一部では講和派も台頭。
全ての原因は自衛隊にあると報道するオールドメディアと、それらと真っ向から対立するネットユーザーが激しく論争を交わす。
加えてこちらは報道されなかったが、サリエルによる防衛大臣暗殺未遂の影響も大きかった。
完全に無防備だった政治家たちは、いつ暗殺されるかわからないと動揺し、就任したばかりの女性首相に一喝される始末。
また、これを受けて野党第一党で情報収集に長けた議員が防衛省に要求を行った。
内容は――――
「錠前勉を千代田区に置け、これは都民を守るためだ」
それが建前なのはわかっていた、本当は自分たち政治家を守れというあからさまな要求。
だが責任問題に追われ、大臣まで暗殺されかけた防衛省に拒否する余力は無く、錠前勉の第4エリアからの撤退が正式に決定された。




