第440話・決死の抵抗
撃墜が確定したコブラだったが、操縦手は最後まで諦めなかった。
操縦桿をめいいっぱい引いて、機首を上げれるだけあげたのだ。
「うおっ!!」
儚い抵抗は最後に実った。
建造物への直撃を避けたコブラは、誰もいない道路に軟着陸。
回転を止めないローターが地面を削り、凄まじい衝撃が中の隊員を襲った。
しかし、直前に火器を撃ち切っていたことも幸いして、爆発は免れた。
それでも、防衛線の崩壊は明らかだ。
「コブラ墜落!! 繰り返す! コブラ墜落!!」
『CPよりシールド各隊へ、総員退避!! 至急目標から離れろ!!』
ヘリの墜落を受けて、地上部隊も撤退を開始。
情報を木更津駐屯地→朝霞駐屯地の経由で受け取った市ヶ谷にある防衛省の地下では、幹部たちが唸っていた。
その中には、中央即応連隊を直轄する陸上総隊――――その指揮官が座っていた。
「まさか対戦ヘリが落とされるとは……、いかがしますか? ”四条陸将”」
幹部の1人に声を掛けられたのは、かつて錠前勉、真島雄二、秋山美咲という弩級問題児をマトモな社会人に育て上げた歴戦の自衛官。
「動揺をするんじゃない、パイロットの生死が確認できない限りフェーズ3に移れん。現場で通信可能な戦力はまだいるか?」
あまりに落ち着いた、迫力のある声。
四条陸将は、まず中即連が存在する宇都宮駐屯地に回線を繋げた。
内容は現場に残れる戦力はあるかの質問だったが、いかんせん今回は性急が過ぎた。
APCを含めた重装甲車両は即応できず、歩兵での対処が限界。
それもTOWが効かなかったとなると、LAVに乗っただけの隊員を近くには置けないとのことだった。
しかし、そこは当然想定内。
少し渋ったが、四条陸将は次に習志野駐屯地へ通信を繋いだ。
「ご無沙汰です、城崎群長」
声を掛けたのは、特殊作戦群長の城崎陸将補。
”防衛大の一件”があるのでこの男は個人的に嫌っているが、公使は混同しない(娘を除く)のが四条の主義。
『これは四条陸将、まぁこの状況です。用件はなにですかな?』
さすがにレスポンスが早い。
四条は早速本題に入った。
「お前のとこの隊員が近場にいるはずだ。さっきこっちのコブラが1機落とされてな、危険は承知しているが……パイロットの生存確認と救助をお願いしたい」
『了解しました、現場にいるのはあの錠前1佐が鍛え抜いた日本屈指の精鋭です。10分いただければクリアできます』
「すまない、時間稼ぎはこちらで行う」
通信を切る。
正面の大画面モニターを見つめながら、四条陸将は息を吐いた。
「16MCVはいつ現着する?」
「朝霞を出発した4両が、間もなく」
「距離を保って機動しながら撃ち続けろ。Sによるパイロットの救助が完了次第、作戦をフェーズ3へ移す」
「了解、朝霞へそう伝えます」
ゴアマンティスの肉の根が、コブラの撃墜地点へジワジワと近づいていく。
すると、その近くに移動する部隊の名前が表示された。
――――ピッ――――
部隊名は簡潔に”S”とだけ表記。
あの速度なら、5分でコブラまでたどり着くだろう。
同時に、こちらへ向かっていた16式機動戦闘車小隊が戦域へ突入した。
その軽い車体と、タイヤの恩恵によりあの兵器は高速道路を使用できる。
まさに、日本の国土に最適化された戦闘車だ。
『フェーズ2延長、Sがパイロットの救出を終えるまで時間を稼げ。砲撃開始』
「了解、砲撃開始します」
道路に展開したMCV部隊が、もはや遠方からでも視認できるゴアマンティスへ照準を向けた。
「目標、正面の敵頭部。弾種対榴、小隊集中――――撃てッ!!!」
爆音と共に、16式に搭載された105ミリ戦車砲が放たれた。
4つの砲弾は美しい軌道を描き、全てがゴアマンティスの顔面へ直撃する。
煙の中からは、損傷しつつもやはり再生を行う敵が現れた。
「よしっ、全車陣地転換!! かき回せ!!」
巡行速度80キロ以上を誇る16式が、その機動力を生かして攪乱を開始。
一方で、特殊作戦群は目視でスクラップと化したコブラを視認した。
 




