第439話・決死! 本土防衛戦!
――――爆撃開始まであと3分。
部屋に駆け込んだ特戦第1中隊の小隊長たちは、大急ぎで離脱準備を進めていた。
予め用意していた、ファーストエイド・キットを開く。
「キャスター! この点滴全部引っこ抜くで! 出血するからすぐに止血剤貼れよ!!」
「わかった、だが1本ずつ抜け! 安全第一……ギリギリまで粘るぞ」
ご存じの通り、エクシリアは未だ瀕死状態。
本来、執行者はどんな怪我でも一晩寝れば全快する特殊体質。
にも関わらず、彼女は目を覚まさない。
錠前と幻体エクシリアの憶測では、体を貫いたガブリエルの特級宝具が原因らしかった。
「よし、全部抜いたな! アサシン、この針を彼女の腕に刺せ!」
「なんやこれ?」
「携帯型の強力な鎮静剤だ、オピオイド系だからモルヒネの仲間だな。1パックで36時間は目を覚まさない。ほんの僅かな苦痛が死に繋がりかねん……これを注入しながら脱出する」
言われた通り、チューブ付きの針を速やかに刺す。
一瞬顔を見るが、美しい寝顔は穏やかなままだった。
懸命な作業は続く。
「次は酸素吸入器だ! これも携帯型だから博打だが……やらんよかマシだ!」
彼女の生命を維持するため、用意していた全ての医療器具を繋げていく。
この間に、アーチャーは脱出する窓から下げる懸垂降下用のロープを準備。
セイバーはAEDを確保した後、ドアに銃口を向けていた。
「よし!! 全部繋いだで!!」
最低限の生命維持装置を繋ぎ、いよいよ彼女を運び出そうとした瞬間だった。
――――ビーーーーッッ――――!!!
「「「「ッ!!!!」」」」
全員の腕時計が、けたたましく鳴り渡った。
それは、事前に仕掛けていた”攻撃開始”の合図だった。
――――時間切れ。
上半身を強大な姿に変えたゴアマンティスの前に、陸上自衛隊 中央即応連隊が次々と車両で立ちはだかった。
『CPよりシールド各車、攻撃開始』
各LAVの銃座から顔を出した隊員たちは、その肩に一際大きな武器を背負った。
「目標ロック、撃てぇッ!!!」
道路上に展開したLAV部隊から、一斉に01式対戦車誘導弾が発射された。
ロケット噴射で加速したHEAT弾頭は、ゴアマンティスの全身へ命中。
爆炎で覆うと同時に、車内から追加の01式を用意。
「第2射、撃てッ!!」
いよいよ自衛隊本隊との交戦が開始された。
攻撃を受けたゴアマンティスは、被弾した部位をジュクジュクと再生。
信じられないことに、01式の斉射を浴びても致命打には届かなかった。
「根が伸びてきてるぞ!! 退避! 退避!!」
胸から飛び出した肉の根が、車両部隊へ突っ込む。
3両が弾き飛ばされ、1両が飲み込まれようとしていた。
「車両放棄!! 総員退避!!」
中に乗っていた自衛官たちは、間一髪で根の檻から脱出。
だが、数秒後にLAVは肉の中へ取り込まれてしまった。
吹き飛ばされた3両のLAVも黒煙を噴いており、負傷した隊員たちが発砲しながら車両を離れる。
――――バンバンッ――――!!!
そんな中、火災で照らされていたゴアマンティスに上空から強烈なライトが浴びせられた。
木更津から駆け付けた、陸上自衛隊のAH-1S対戦車ヘリコプター2機だった。
「A01からCP、目標が地上部隊を攻撃中。至急発砲許可を求める」
『CPからA01、了解。射撃開始。繰り返す、射撃開始』
ガンカメラの照準を合わせ、ガンナーが射撃ボタンを押した。
唸るような機械音と同時、連続した発砲音が響く。
機首に付いたM197ガトリング砲が、ゴアマンティスの頭部へ火を噴いた。
「撃て!! 撃ちまくれッ!!」
ホバリング状態で、20ミリ機関砲が放たれ続ける。
装甲車すら容易に引き裂く攻撃だが、ゴアマンティスの表皮をめくるだけ。
すかさず武装変更を行う。
「ハイドラロケット、TOW、全弾発射!!!」
スタブウィングから吊り下げられた、コブラの誇る最強の兵器が使用される。
70ミリロケットランチャー、およびTOW対戦車ミサイルが連続で撃ち込まれた。
激しい爆炎がなびく下で、崩落寸前の病院から影が出てくる。
「急げ!! 早く降りろ!!」
「わかっとるわ!!!」
執行者エクシリアを救出した特殊作戦群が、決死のロープ降下を行っていた。
彼らの頭上では、おどろおどろしいゴアマンティスの声が鳴り渡る。
瓦礫が降る中で、なんとか脱出に成功。
黒煙に包まれた特級神獣へ、振り返った時だ。
「マジかよ……」
高速で伸びた肉の根が、100メートルは離れたコブラの内1機に叩きつけられた。
テールローターを吹き飛ばされたヘリが、揚力の制御も効かなくなり、回転しながら落下を始める。
「メーデー! メーデー!! 操縦不能!! 墜落する!!」




