第437話・真島VS大天使サリエル
先に仕掛けたのはサリエルだった。
宝具を振り、その衝撃波で一気にアスファルトを吹っ飛ばす。
その威力は特級の名にふさわしく規格外で、100メートルに渡って道路をえぐり取った。
「なんだ、もう終わりか。やっぱ口だけの烏合だったね」
煙が立ち込める中、サリエルは勝ちを確信。
油断して武器を下ろした瞬間だった。
「誰が烏合だって?」
「ッ!!」
煙の中から飛び出て来た真島が、強烈な右ストレートを打ち込む。
間一髪でガードするが、宝具越しに衝撃が伝わるほどだった。
直後に真島は姿勢を転換し、これまた鉄球のような威力の蹴りを叩きつけた。
「ちぃいッ!!」
一度距離を置いたサリエルは、眼前の公安へ尋ねた。
「……錠前勉の知り合いが、ただの雑魚なわけないか。名前は?」
「真島だ、こう見えて執行者の保護者もしている」
「保護者ぁ? お前みたいなヤツが関りあるなんて聞いてないんだけど」
「それは残念、なら――――」
そこまで言って、真島は胸ポケットから1個のガラス玉を取り出す。
「これが証拠だ」
ガラス玉を落とす。
地面に落ちて砕けた瞬間、彼らの半径5キロが現実世界から隔離された。
この光景に、サリエルは思わず歯ぎしりする。
「『魔法結界』!? なんで魔導士でもないお前が!?」
「勉に譲ってもらったんだ、万一人口密集地で戦闘をする時の保険にな」
真島が使ったのは、技研で量産が開始された『簡易魔法結界発生器』
その効果、媒体となる結晶が砕けた座標を中心として半径5キロを、仮想の領域としてコピー。
指定した生物以外を除き、独立した閉鎖空間へ閉じ込めるものだった。
今回の場合なら、いわばこの結界はバトルフィールド。
「さぁ、これでお互いに全力が出せるな」
サリエルは冷静に分析をしていた。
わざわざ媒体を使った以上、真島自身は魔力を使用できない。
結界成立の要件は、おそらく”どちらかの敵意の消滅”。
誓約としてはシンプルだが、それゆえに強度は非常に高い。
力づくで破るのには、時間が掛かるだろう。
「面白い! じゃあお前をぶっ殺してサッサと出てやるよ!! 僕らが”特級”と名の付く宝具や神獣を出す時は、限りなく本気だからね!」
ゆえに答えもシンプル。
またも距離を保って、衝撃波を放つ。
「ワンパターンなんだよ」
しかし、真島に同じ手は通じない。
衝撃波の範囲が縦軸に固定されていることを見抜き、ステップで軽く回避。
一気に肉薄して、拳を顎へ打ち付けた。
「がふっ!」
「良い武器だが、強力ゆえに――――」
再び剣が振られるが、まるで軌道がバレているかのように当たらない。
「使い手が甘えちまってる、テオドールちゃん達の方が成熟してるぜ」
「ガキと一緒にすんなよッ」
サリエルはラッシュの隙を突き、宝具を地面に突き刺した。
「『地殻崩し』!!!」
周囲3キロに渡って、地盤が崩壊した。
液状化し、マグニチュード9に匹敵する揺れの中では立つことなどできない。
これで一方的に空から斬り刻もうと思ったが、
「ぬぅんッ!!!」
空中へ飛翔しようとしたサリエルを、真島は顔面を掴むことで阻止。
そのまま後頭部を真下へ叩きつけた。
「はぁ!?」
「逃げんなよ、聞いたぜ? 前に美咲が世話になったらしいな」
揺れ動く地面の上にも関わらず、真島は一切体勢を崩していない。
驚異的、もはや人外とも言える体幹で、バランスを取っていた。
「悪いが俺は任官拒否してからもトレーニングを欠かさなかった、平和ボケしてた美容員とは違うぜ?」
「くそッ!!!」
––––なんてタフネス!! まるで特級のゴーレムと殴り合ってる気分だ!!
「うらぁッ!!!」
抑え込んでくる指の隙間から、目を砲台としてレーザーを発射。
常人なら回避不可能のそれを、真島はアッサリ見切る。
お返しとばかりに、顔面へ拳が次々叩き込まれた。
「おっらぁぁぁぁあああああ!!!!!!」
「ぬぅああああああああぁぁぁあッ!!!」
マシンガンのごとく降り注ぐパンチを、サリエルは10発以上食らってからなんとか離脱。
それでも、受けたダメージは深刻だった。
魔力を纏ってもいないにも関わらず、攻撃の威力が執行者並みに高かった。
10メートル距離を置いたが、既に真島は走り込んでいる。
脳震盪と出血で視界が滲むが、怯んでいる隙は無い。
「舐めてんなよぉッ! ポリ公がぁ!!!」
魔力の使用量から渋っていたが、真島相手に手加減はできないと判断。
フェニキアに魔力を込め、一気に振りかぶる。
「『惑星螺旋斬り』!!!」
300メートル級ビルを粉砕する斬撃の嵐が、サリエルから放たれる。
吹き荒ぶ死の波を、真島は瓦礫を踏み越えてなお肉薄。
だがダメージは避けられず、脇や腕から大量に出血した。
「それだけか!!!」
それでも、かつて最強に食らいついた男は止まらない。
スーツを真っ赤に染めながらも、真島は射程距離まで接近。
「ごっはぁ!!?」
サリエルの腹へ、渾身の掌底突きをお見舞いした。
ビルが全方位で倒壊する中、互いに荒い息を吐く。
「魔力の無い人間がこれほどとはね…………、正直舐めてたよ」
「俺もだ、小物臭から少し疑ってたが、俺の拳を10発以上受けて生きてる奴は初めて見る」
サリエルの脳内に、林少佐の言葉が過った。
このままやっても、勝てる確率は半々。
ならば取るべき最善策は――――
「『惑星螺旋斬り』!!!」
再びの大技。
だが一度見ていたので、真島は被弾なく回避。
攻撃を避け切ったところで、彼はすぐに気づく。
「ちっ!」
背後の空間に、大きな裂傷が発生していた。
大天使が操る特級宝具の力によって、魔法結界が崩壊寸前となっていたのだ。
間違いない、逃げる気だ。
「させるかよッ!!!」
すかさず走り込む真島。
「――――覚えておくよ、錠前勉以外も十分脅威だとね。今日は良い勉強になった」
振られた拳は空を切る。
もう結界のどこにも、サリエルの姿は無かった。
結界成立の要件が失われたことで、真島は通常空間に放り出される。
「……大天使か、思ってた以上に厄介だな」
ひとまず治療のため、真島は携帯で氷見を呼び出す。
後は得た情報を、錠前に送るだけ。
そう思っていた時だった。
「うおっ!!」
かなり離れた方角から、凄まじい爆発音が響いた。
同時に、真上を完全武装の”AH-1S”対戦車ヘリ2機が低空で飛んで行った。
音、そしてヘリが向かった方角は――――”自衛隊中央病院”。