第435話・本命の一撃
本日漫画版更新日です!
今では執行者の体臭を求める変態キャラと化した久里浜が、まだ狂犬としてイキってた頃の可愛らしい時期が描写されています。
久里浜は特に力を入れてもらってるので、必読です!
執行者エクシリアの暗殺。
確かに完遂されれば、第1特務小隊にとって大きなダメージとなるだろう。
しかし、特級神獣すら用いたこの作戦も、林少佐にとってはただの陽動。
ゴアマンティスもアレで死ぬ神獣では無い。
さらに”本命”は別で行動していた。
「そうか、匿っていた執行者の女の子は無事だったんだね? 城崎群長」
――――市ヶ谷、防衛省。
防衛大臣執務室の電話を取っていたのは、最近新しく就任したばかりの防衛大臣だった。
中国・ロシア崩壊、ダンジョン攻略。
これらのワールドニュースにインパクトで負けていたが、最近日本では政変が起こっていた。
「えぇ、多少の損害はありましたが、任務は達成しました」
「アレが多少…………なのかな? 映像ではC4爆薬を使ってるのが見えたけど」
「そうでもせんと倒せなかったということです。いずれにせよ、メディアへのカバーストーリーはお任せします、鎌田防衛大臣」
鎌田と呼ばれた男は、困った顔で電話を切った。
「参ったなぁ、あんな派手な事件をどう誤魔化せって言うんだ……。就任早々に大変だ。城崎っていう特戦群長は聞いてた通りに無茶苦茶だ」
つい先日、政権与党の総裁であり総理大臣を務めていた政治家が、その席を降りた。
全国を巻き込んだ激しい総裁選の末、保守派筆頭の女性議員が勝利。
第4エリア侵攻前日に首班指名が行われ、初の女性総理大臣を中心とした新しい内閣が誕生していた。
新首相は防衛強化・国土強靭化・積極財政を掲げたいかにも敵が多いタイプ。
国民からの支持はとても高いが、いかんせん発足して日が浅い。
政治的に甘い部分があるところを、的確に突かれた格好だ。
「敵は強いなぁ…………とにかく、首相に伝えんと。忙しいだろうがダンジョン関係は最優先だ」
鎌田は上着を着て、すぐに省内を出た。
一応電話は盗聴対策をしているが、これほどのインシデントは顔合わせで話さねばならない。
もう敵はいないと断定し、迎えをチャーター。
車に乗って、すぐさま首相官邸へ移動していた時だ――――
「うわっ!!」
乗っていた車が急ブレーキを掛けた。
Gで吹っ飛ばされそうになったが、シートベルトが強く阻止。
鎌田は前のめりで叫ぶ。
「なんだ、飛び出しか!?」
「い、いえ……! 道路の真ん中に人が…………!」
ライトに照らされた先には、1人の男が立っていた。
「あっはは、林少佐の言ってた通りじゃん。日本の政治家って無防備だねー」
翼を広げて笑顔を見せたのは、”大天使サリエル”。
本能で危機を察知した鎌田は、運転手にすぐさまバックを命じた。
「ごめんよー、自衛隊の偉いさんを殺すのが僕らの本当の目的だからさ。ぶっちゃけ裏切り者のエクシリアなんか――――」
彼の腕に、神々しく輝く剣が具現化した。
ガブリエルの宝具に次ぐ”特級宝具”、『フェニキア』。
持ち主に多大なバフを掛けつつ、武器自身も非常に強大な威力を発揮する。
ベルセリオン戦では勿体ぶったが、今回は最初から全力。
惜しみなく特級クラスの宝具を使うと決めていた。
「興味ないんだよねぇ。じゃ、大人しく死んでちょうだい」
バックしていく車に、剣が振られようとした時――――
「んがっ!!?」
赤信号を無視して、1台の黒い車がサリエルを轢き飛ばした。
大きく宙を舞ってアスファルトに落下した大天使は、その目を相手へ向ける。
エンジンが故障し、煙を上げる車から……1人の男が出て来た。
「ふぅー、間一髪ってところかな?」
「は? 誰だよ……お前」
見上げた先――――ライトに照らされたのは、スーツ姿をした強面の男。
「スパイに名乗る必要があるのか? お前だな、大天使サリエルってのは」
公安外事課第3係、真島雄二が不敵な笑みを浮かべていた。
「はぁ!? なんで僕のことバレてんのさ!」
「あのなぁ、あんだけ騒ぎを起こして陽動に気づかないほど、国家機構ってのはバカじゃねえぞ。まっ、最後の決め手はあるヤツの”直感”だったけどな」
サリエルは高速で思考を整理。
第4エリアから転移する際、林少佐に言われたことを思い出す。
『もし敵がこちらの意図を察知しているのならば、ほぼ負けたようなものです。その時は特級神獣を諦めて、大人しく帰ってくるよう』
だが、この忠告を素直に聞くほど劣勢とは思えなかった。
「もしかして君1人かい? 他の応援はいないの?」
「役所は忙しいんだ、本当ならパートナーのバカ女も連れて来たかったんだが……さすがにお前相手は手に余ると思ってな。今日はソロだ」
「僕が天界の大天使と知ってわざわざ1人で? つくづく舐めてんなぁ!!」
『フェニキア』を構えるサリエル。
大天使の体からは、爆風と共に黄金のオーラが溢れ出た。
だが、真島は拳銃どころかナイフすら取り出さない。
ただ、隙が微塵も無いファイティングポーズを構えた。
「勉から聞いてるぜ? 残機が少ないらしいな、今ここでゼロにしてやるよ」
「錠前勉の知り合いか、なら――――まず君からぶっ殺してやんよ!!」