第433話・最強の宣言
――――第4エリア、陣地内。
ライトに照らされた砂浜へ置いた椅子に座り、錠前勉は本を読んでいた。
穏やかな波の音、南国の気持ちいい風、それらが合わさって最高のリラックス空間を演出。
人生でもっとも有意義な読書タイムだった。
読んでいるマンガは、某呪いが巡る少年向け作品。
巻数は“26巻”、ちょうど読み終える寸前だ。
そこへ、声を掛ける者が1人。
「あっ、ここにいたんですね。錠前1佐」
「ん?」
光の遮断率100%なサングラスを上げると、そこにはシャワーを浴びた後であろう透が立っていた。
ラフな半袖とサーフパンツ姿の彼に、その上司は優しく微笑んだ。
「どしたの新海、なにか報告事かい?」
「あーいえ、テオたちの寝かしつけが終わったんで、少し暇になってしまいまして……」
「このグレートな上官とお喋りしたくなったってこと? 良いよ、隣座んな」
「どうも」
腰を掛ける。
見上げた夜空は、満天の星空で満ちていた。
そのどれもが幻想的で、東京都内では決して拝めない景色だった。
「不思議だよねー、ダンジョンの中なのに星が見える。しかも地球から見た星図とは全く違うんだもん」
「これ、実際に存在してるんですかね?」
「あるにはあるんだろうけど、多分ロケットを飛ばしてもたどり着かないよ。結界術の応用かなー……全く別の星から見た景色を、プロジェクターみたいに投影してるんだろうね」
「……そんな規格外な魔法。欠食だった執行者、今相手してるダンマスや大天使にできるんすかね?」
透の疑問に、錠前はすぐさま答えた。
「百パー無いね、アイツらにそんな高等な芸はできないよ。できるとしたら、僕と同じスペックの”眼”を持ったヤツかな」
ふと思い出す。
錠前がベヒーモスと呼ばれるアノマリーを上海で討伐した際、その魂は大天使たちに持ち去られた。
目的は、連中のボスである”破壊神イヴ”の復活。
彼らいわく、錠前の魔眼と並ぶ”神眼”なるものを有した存在らしかった。
「じゃあ、このダンジョンを作ったってのも…………」
「十中八九、そのイヴとかいうヤツでしょ」
透の気が重くなる。
今までなんとか勝ってきてはいるが、そのどれもが一歩ルートをミスっていれば詰んでいた。
リヴァイアサン戦では、執行者テオドールを味方にしていなければ敵のビームで海自艦隊が全滅しただろう。
沖縄での神獣を用いた自爆攻撃も、運よく錠前がその場にいなければ韓国と同じ末路を辿っていた。
一見圧勝しているように見えるが、ギリギリの勝ち筋を拾えているだけ。
ほんの少しの狂いがあれば、形勢はすぐに逆転するだろう。
特に、そのイヴという存在があまりにも未知数だった。
彼らはこうも言った、”イヴが復活すれば全て終わる”と。
このダンジョンそのものを生み出した、まさしく神のような存在が……おそらく近い内に立ちはだかる。
そんな部下の不安を察したのだろう、本を畳んだ錠前がニッと笑った。
「なに不安がってんだよ新海、らしくないよー?」
「いや……すみません、ついマイナスの思考が。連中の言うことが事実だったらちょっとヤバいかもなって」
「それは直感?」
「…………そう思いたくはないですね」
「はっはっは! 新海の直感は当たるからねー。まぁ確かに、相手が相手。さすがの僕でもちょっとキツイかも」
なんて言いつつ、一切笑みを崩さない錠前。
そんな頼もしい”最強な”上官に、透はふと聞いた。
本心から、聞きたくてたまらなくなった。
「1佐なら……、相手が神だろうと負けないですよね?」
1秒だけ考えた錠前は、夜空を見上げながら返した。
「――――勝つさ」