第43話・ベルセリオンの悪夢の始まり
––––ダンジョン内部 とある場所。
西洋風の絢爛な個室で、1人の少女が椅子に座ってのんびりくつろいでいた。
蒼色の髪をサイドテールに纏め、黒色の長袖とプリーツスカートが特徴的な金眼の女の子。
細い足は白い肌に覆われており、華奢な身体をより印象付けさせた。
「今日も紅茶が美味しい」
彼女は名をベルセリオン。
ダンジョンの執行者である彼女は、絶賛ティータイム中だった。
「フフッ、“2個前の世界”から持って来た茶葉だけど……今日という日を記念するにはちょうど良いか。成熟された葉と、適切な湯加減……まさに天才のわたしに相応しい味ですね」
今頃日本人は、ワイバーンに食い殺されている事だろう。
彼女自身、今日初めてダンジョン内で日本人を見て些かの違いがあるのは知ったが、さして脅威でもない。
空の騎士たるワイバーンは1個前の世界で引き入れた存在だったが、この世界でも猛威を振るうだろう。
––––コンコンッ––––
部屋がノックされた。
「あのっ、ご休憩中のところすみませんベルセリオン様。急ぎお伝えしたいことが……」
心の中で舌打ちする。
人が至福の時間を過ごしている時に、なんと無粋な部下だろう……。
「今は休憩中なの、後にできないかしら?」
「それが、可及的速やかにお伝えしなければならない事案でして……」
全くと思いつつ、部下の入室を許可した。
ダンジョン管理人のゴブリン・ロードが、大汗をかいてベルセリオンの前に立つ。
くだらない。
日本人についての報告など、後からいくらでも聞けるというのに––––
「ダンジョン外へ襲撃に出たアット・ドール部族のワイバーン140体が……昨夜全滅しました」
「フーン、全滅ねぇ」
紅茶を飲み込んで、ついでに固まった思考も飲み込む。
全滅……。
………………全滅ッ!!?
「フフッ、耳が悪くなったかしら。よく聞こえなかったわ……もう一度言ってくれる?」
「ですから全滅です! 5時間前に!!」
「……ワイバーンが? 日本人じゃなくて?」
「全く体系もわからない魔法によって、全滅させられました! 村長も死亡––––日本人の被害はゼロです!!」
ベルセリオンのカップを持つ手が震え出す。
一度ティーコースターに置き、全く理解できないと言った表情で返した。
「……なぜそんな重要な情報を今になって持って来たの?」
「ベルセリオン様が夜の間は、一切連絡を寄越すなと言っておられたので……」
「…………っ」
余裕を誇ったポーカーフェイスが崩れ始める。
そういえば、勝ちを確信して熟睡したんだった。
「じょ、情報部の話と違うじゃない。ヤツらは唯一神への信仰を忘れたゆえに……その精神力を削られた最弱種。最低限の魔法しか使えないと報告を受けたんだけど?」
「た、確かにそうですが……こればかりは情報部に聞かないと」
「じゃあその情報部をすぐ呼んで、わたし自ら問いただすから」
「いえ、それなんですけど……情報部は現在機能しておりません」
「はぁっ!? なんで!?」
思わず叫んだベルセリオンに、ゴブリンが言いにくそうに呟いた。
「べ、ベルセリオン様が先日––––気持ちの良い情報をくれた情報部全員に、休暇をあげたではないですか。今部屋には誰もいません」
「…………!!!」
ぐぬぬと呻いた彼女は、そういえばそんなことを言った記憶があった。
次のオモチャになる日本人がどれだけ弱いかだけ答えさせて、良い報告だったから気まぐれに決定したのだ。
偵察も戦力分析も彼らの仕事なので、ベルセリオンはただ聞くだけの立場だった。
「報酬を与えているのよ……? 怠惰は許されない。そんなことが我が主に知れたら……」
恐ろしい悪寒がベルセリオンを襲う。
そもそもワイバーンを殲滅できる魔法って何!?
空の上から一方的に炎を浴びせるだけの仕事が、なぜ満足にできないの!?
だが、まだ慌てるような段階じゃない。
「情報部の休暇は取り消して、今すぐっ! それにラビリンス・タワーで日本人にはさっき会ったけど、奴らは翼を持っていない。階段の無い最上階には絶対辿り着けないわ!」
そうだ、きっと偶然が味方したに過ぎない。
元々あの部族は傲慢で油断しがちだったし、何か相当やらかしたのだろう。
胃がキリキリと痛む……。
ベルセリオンは、すっかり冷え切った紅茶を––––香りも感じず飲まざるを得なかった。
本人は気づいていないが……彼女の悪夢は、これから始まるのだ。
耳障りの良い報告しか求めなくなる、独裁体制を極めた組織の末路です。
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