第428話・喫食!! 異世界海産物
本日漫画版更新!!
見開きカラーで、いよいよ久里浜が全面登場です。
時刻は午後6時過ぎ――――
無事に敵を退けた第1特務小隊は、いよいよお待ちかねのBBQ大会を開催しようとしていた。
波の音が響く夜の海岸には炭火焼機が並び、ライトで照らされた陣地内にこれでもかと並べられたクーラーボックス。
錠前の奢りでちょっと奮発した肉、新鮮な野菜、氷水で満たされた中に浮かぶキンキンのジュース。
まさしく、”宴”が開催されようとしていた。
「むはぁーっ! 煌びやかに光る肉、絢爛なお魚たち!! まさに今日という日を祝福してるわね!」
テンション爆上げの久里浜が、水着姿で大きなクーラーボックスを開けた。
中からはジューシーな上ロース、脂身たっぷりの上カルビ、柔らかそうな上リブロース、特上ハラミなどが大量に出された。
また、サイドメニューとして現地調達した『レッドサーモン』や、『グランド・ロブスター』も今回の晩餐に加わる予定だ。
いずれも錠前の魔眼と執行者の検査によって、生で食べても問題ないことが判明。
仕留めたテオドールの腕が良かったのか、無力化はほぼ完璧。
不思議なことに血抜きは必要なく、味の劣化はしていなさそうだ。
「ところでさ、この異世界海産物は誰が捌くんだ? 言っとくけど俺や坂本はカップ麺くらいしか作れねーぞ」
自信満々で情けないことを言う透に、水着姿の四条が珍しくしたり顔を見せた。
「ご安心ください、異世界産だろうとわたしなら捌けます」
「マジ? お前料理できたのか」
「普段は食堂で済ませているから披露の機会はありませんでしたが、これくらいの女子力はありますよ?」
「あっ、確かに。そういえば前に秋山さんとデザート作ってたな」
頼もしい恋人は、早速まな板に『レッドサーモン』を乗せて――――
「ほっ」
「「「おぉっ」」」
見事な技で、鱗を削いで見せた。
続いて身を切っていき、まるで一流料理人かのようなお手前で皿に盛っていく。
「酢はあいにく持ってきてませんが、醤油はあるのでお刺身にしましょう。お肉の前の前菜にはちょうど良いかと」
【なるほど、味の濃い肉を先に食ったら味覚が狂うもんな】
【良いなぁ、異世界産海産物…………】
【俺は四条2曹の方が欲しい……、こんなん恋人にしたい男で溢れるだろ】
【こんな美人さんに盛ってもらったお刺身を食いてえ】
コメント欄が羨望で満たされる。
もしこの場で四条が透と恋仲になっているとバレれば、おそらく日本中の呪詛が彼に襲い掛かるだろう。
まぁ、透は執行者テオドールを眷属にしているので、呪殺の類は加護により効かないが……。
「さぁ、まずはお刺身からどうぞ!! 坂本3曹はお肉を焼く準備してくださいね」
「えっ、なんで?」
「サーフィン対決で負けたじゃないですか、取り置いておくので安心してください」
「生殺し過ぎんでしょー」
そんな彼とは対照的に、お箸を持った久里浜が目を輝かせた。
「い、いただきます!」
早速一切れ、小さな口で頬張った。
噛んでみて、彼女は目を見開く。
「あっまッ! サーモンみたいな舌ざわりと油なのに、マグロの旨味が喧嘩せずに共存してる!」
「ま、マジか……俺もいただきます」
続いて透も一口。
瞬間、今まで感じたことのない味が舌の上で踊った。
――――うめぇ……ッ、全く異なる味が争うことなく共存してる。噛むたびに旨味と油が溢れ出してきて、永遠に楽しめそうだ!
ほどなくして飲み込み、透は思わず顔を綻ばせた。
「めっちゃうめぇッ!!」
「フフッ、まだまだ。次はロブスターを行きますよ」
と言っても、かなり巨大だ。
通常の包丁やハンマーでは、ビクともしないだろう。
「ベルさん、お願いします」
「オッケー、マスター」
何もない空間から宝具”ハルバード”を取り出した彼女は、重量にして数十キロはくだらないその武器を軽々と振るった。
「よっと」
硬い甲殻が斬り飛ばされ、中からぷりぷりの柔らかい身が姿を現した。
「そぉれっ!」
――――バカッ――――!
砕けた殻ごと引っ張ると、中身が一気に引っこ抜けた。
薄紅色のそれは、ライトに輝いて眩く光っていた。
地球産は茹でるものだが、透は豪快にかぶりつく。
「う、うっまッ!!」
抜群の食感と同時に、天然の塩気が舌に乗せられた。
まるで大きな骨付き肉を頬張っているかのようで、透はあっという間に持っていた分を食べ尽くした。
「おいひぃ~!」
傍では、同じく殻を持って丸かじりしていた久里浜が、トロ顔を晒していた。
異世界の海産物、これなら十分地球産と張り合えるだろう。
【ほぅ、ロブスターか。少々手間が掛かるが、テルミドールにしていただきたいな】
【ベルちゃんマジでメロい、早く帰って来て】
やたら”食通”なコメントと、ベルセリオンに脳を焼かれたらしい人のコメントが流れた。
「なぁテオ、ダンジョン勢力時代は欠食だったけど、こういうのを食おうとは思わなかったのか?」
「んー……ありませんでしたね、ダンジョンのモンスターは等しくエンデュミオンの”資源”。勝手に食べるなんてできませんでしたし、そもそも海産物を生で食べる発想が無かったです」
「あー、そういうパターンか」
モグモグとおかわりを頬張る透。
幸せそうなマスターの横顔。
それを隣で眺めていたテオドールは、ふと……”半年前”のことを思い出していた。




