第427話・当然の帰結、次なる一手
ロブスターによる襲撃は、配信を通じて世界中に生配信された。
第1特務小隊のチートぶりに、同接数は過去最高の2億を超えようとしていた。
そんな中で、この騒動を仕掛けた張本人はスマホを見つめ――――
「やはり、こうなりますか」
――――第4エリア・中央巨城。
玉座の間で椅子に座りながら、中国国家安全部の林少佐は頬杖をついていた。
その顔は特に思うこともなさそうで、あまりにも当然の結果を目にした人間のそれだ。
「ねー! せっかく海から奇襲しようとしたのに、なんで情報教えたりするかなー! 上手くいけば誰か1人くらい殺せたかもしれないのに」
真横で文句を述べたのは、金髪の若い男だった。
名をサリエル。
天界の大天使であり、ウリエルと同格の存在だ。
彼もまた、今回の第4エリア防衛に駆り出されていた。
「希望的観測すぎますね、それ。たかだか2級の群れで第1特務小隊を殺せるなら、君たちはこんなに苦労していないでしょう?」
「それはそうだけどさー、何も助言する必要は無くない? わざわざハイパフォーマンスが発揮できるようにしてどうすんのさ」
サリエルのタラタラ文句に、林少佐は冷静に返した。
「ハイパフォーマンスが見たかったからこそですよ。おかげで、知りたいことは大体わかりました」
「は!? えっ、マジ?」
思わずため息をつく林少佐。
こんなポンコツが偵察担当なことに、元スパイとしては呆れるものがあった。
まぁ、せいぜいが異世界の移民だ。
国家機構のような洗練さなど、はなから期待していない。
「そうですね、貴方でもわかるよう箇条書きでまとめましょうか」
「ねぇ、僕のことバカにしてね?」
「してませんよ、じゃあ並べますね。今の配信でわかったのがこれです」
スマホのメモ帳に、素早いフリック入力で文字を打ち込んだ。
・錠前勉は魔法が使用できない、または使用が極めて困難な状況にある。
・持ち込まれた武器は重機関銃の他に、自動擲弾発射機。M250のような汎用機関銃と予備もある。
・沖合に攻撃ヘリが飛んでいる。
・執行者の魔法練度が上昇している。効率改善の他に、バリエーションも増やした可能性が高い。
・想定では3級までだったが、2級のモンスターを結晶化させずに無力化している。
・新海透の指揮能力は向上している、戦術レベルなら錠前勉以上の場合もアリ。
「まだまだありますが、ザッと並べただけでもこれです。もし助言無しの本当の奇襲だったら、執行者が雑に魔法を撃っておしまいだったでしょうね。ヘリの存在や自動擲弾発射機、錠前勉に執行者関連も不確定要素を残すところでした」
林少佐の分析に、サリエルは驚嘆の表情を示す。
「……ウリエルやガブリエルが、君を高く買ってる理由が少しわかったよ」
「少しではなく、全部わかってほしいんですがね」
「とにかく! 錠前勉は魔法使えないんだね!? だったらチャンスじゃん! すぐにでも特級神獣ぶつけて仕掛けよう!」
「はぁっ。まだ錠前勉だけしか目に入ってないんですか? もう一回殺されますよ?」
目を細めながらそう警告した林少佐は、窓の外を見つめた。
「錠前勉はもちろん最大の脅威ですが、他のメンバーもいまや防衛省が定める”特級”の区分に入る傑物たちです。かつて存在した”最強殺し”のロマノフ少佐にはまだ届かないが、陳大佐に匹敵するかそれ以上…………下手に仕掛けず待つことが我々の仕事ですよ」
「ちぇーっ」
「待つのは苦手ですか?」
「そりゃね」
「ではこうしましょう」
柏手を打った林少佐は、その顔に笑みを浮かべた。
「特級を1体使います、ただし――――そいつの役目はあくまで陽動。殺害標的は今”東京”にいますから」




