第426話・海岸上陸阻止作戦
「よーし、海岸を防衛線とするA-2号を発動するよー! 総員戦闘準備!」
椅子から起き上がった錠前が、傍に立て掛けてあった6.8ミリ『M7』自動小銃をコッキングしながら指示した。
四条と久里浜もそれぞれの配置に走り、水着姿のままライフルを手に取った。
「先輩! 防弾チョッキは良いんですか!?」
「ダンジョンのモンスターにはほぼ無意味ですからね、なら動きやすい方がアドバンテージになります。弾薬箱をこっちへ!」
透と坂本もまた、重機関銃と自動擲弾発射機をコッキングする。
「透、ここで迎撃するのですか?」
傍に走ってきたテオドールが、沖合を見ながら質問した。
「あぁ、縦深と遮蔽が無いから少し辛いが、上陸前に叩く」
「わかりました、ではお手伝いします。お姉ちゃん!!」
テオドールが声を掛けると、遠くにいたベルセリオンが両手に魔法陣を浮かべた。
一体なにをするつもりなのかと思ったが、答えはすぐにわかる。
「「創成魔法――――『グレート・フォートレス』!!」」
ここでまさかの、2人揃って新技披露。
透たちが陣取っていた砂浜が隆起し、凄まじい勢いで変形していったのだ。
平野だった海岸部は、たった20秒で巨大な”城塞”へと変貌した。
各々の射撃陣地はトーチカを有した高台となり、まさしく要塞と呼ぶに相応しい陣地となった。
元が砂なのに大丈夫かと思ったが――――
「ご心配なく、結界術の応用で強度は担保しています。鉄筋コンクリート造りに等しいですよ。その代わり、維持で精一杯なので敵はみんなに任せます」
「ははっ、すげえな……! これなら――――」
見晴らしの良くなった視界で、透は重機関銃を海へ向けた。
「一方的に撃ち放題だ」
直後に、浅瀬から敵が姿を現した。
「ギシャアアッ!!」
それはロブスターにも似た外見だが、地球のモノとはゴツさが違う。
両腕のハサミはより巨大で、背中には棘が生い茂っている。
「あれは『グランド・ロブスター』ね、2級モンスター。硬い甲殻と圧倒的な個体数で敵を圧倒するわ」
近くに来たエクシリアが、素早く説明。
こうしている間にも、海は敵で覆い尽くされていった。
事前の準備と、執行者の魔法が無ければ少し危なかったかもしれない。
「撃ち方始め!!」
要塞から、一斉に火が噴かれた。
放たれた銃弾は『グランド・ロブスター』の外殻をアッサリ貫き、一瞬で結晶に変えてしまう。
また、四条や久里浜もセミオートで精密に射撃。
大体5発も当てれば、致命打になるようだった。
「坂本! 薙ぎ払え!!」
「ウッス」
城塞でしっかり固定された自動擲弾発射機を、坂本は操った。
――――ポンポンポンポンッ――――!!
間抜けた音が響いた直後、海岸線が爆発で覆われた。
40ミリ榴弾を連射できるこれは、当たれば周囲を爆風と破片で無差別に殺傷する。
ベルトリンクによる自動給弾のため、トリガーを絞る限りいくらでも発射できた。
行軍してきたロブスター群が、文字通り焼き払われていく。
【ツエエエェェエエエ!!!】
【まるでノルマンディー上陸作戦みたいだな】
【入れ食い状態だ】
透が重機関銃を撃ちまくっていると、やがて銃身が赤く染まった。
連射の影響で、オーバーヒートしてしまったのだ。
「カバー!!」
透が叫ぶと、四条と久里浜が足元に置いてあった手榴弾を投擲。
爆発で敵が怯むと同時、屋上に登っていた錠前が『M7』ライフルを射撃。
クラス4アーマーすら容易に貫通する6.8ミリAP弾は、正確な照準で1体1発のペースで粉砕していく。
「おっと」
しかし、M7はマガジンに20発しか入らないのですぐ弾切れを起こす。
敵からすればチャンス到来なのだが――――
「なんちゃって」
後ろから引っ張り上げたのは、同じく6.8ミリAP弾を撃てる『M250』次世代機関銃。
砂の屋根にバイポッドを高速で立てると、錠前は3バーストで射撃。
200連ボックスマガジンなので、制圧力はまさしく最強クラスだった。
「よしっ! 銃身交換終わり! マガジンも替えた!!」
第1特務小隊の連携は完璧だった。
海岸線のほぼ全域を、重機関銃と自動擲弾発射機でカバー。
その隙を、他の3人の小火器が見事な技術で支える。
ロブスターたちにとってほんの10メートルに過ぎない城塞が、今は100メートルを超える壁のように感じるほどだ。
そして、本命はやって来た。
『こちらガーディアン、誘導弾の射程に入った。注意されたし。送れ』
「バーナー4、了解! 全員伏せて!!!!』
無線機を繋げていた久里浜が叫ぶ。
沖合から飛んできたAH-64E攻撃ヘリコプターが、距離6キロでヘルファイア対地ミサイルを発射。
新たに上陸しようとしていた敵部隊を、木っ端微塵に吹っ飛ばした。
まだ爆炎が晴れぬ中、ガーディアンはさらに前進。
『武装変更、掃射開始』
次いで、距離2.5キロで機首の30ミリ・チェーンガンを発砲。
これは弾頭が炸裂タイプのもので、1発が坂本の撃っているグレネードランチャーより高威力。
それがマシンガンと同じ速度で連射され、おまけに高性能赤外線カメラで照準するので、上陸をしようとしていたロブスター群は一瞬で壊滅してしまった。
敵の残りが数体になったタイミングで、透が発射を中止する。
「テオ! 残った敵はお前が倒してきてくれないか?」
「ほえ? なぜですか?」
疑問符を浮かべる眷属に、透は笑みを見せた。
「異世界のロブスター、日本人としては……”食ってみたい”んだよ」
「なるほど、お任せください!」
数分後、魔法の維持を姉に少しだけ任せたテオドールによって、ロブスターを結晶化させずに無力化。
今晩のご飯のバリエーションが、大きく増える結果となった。




