第423話・ビーチバレー
配信10分前。
少し遊んでから準備を終えた透たちは、今回の企画を再確認していた。
「ビーチバレー……ですか?」
水着姿のテオドールに、スマホを持った透が返した。
「あぁ、俺とテオ。衿華とベルセリオンのチームに分かれて戦うんだ」
「なるほど、確かにそれは夏っぽいですね」
彼女は最近また学生向けアニメを見ていたらしく、この辺りの知識も十全。
近くでは、四条がカメラの最終調整をしていた。
こんな辺境で電波は大丈夫かと思ったが、ここはダンジョンなので座標的には東京と認識されるらしく、5G回線がバッチリ通っていた。
「そんなわけで、まずは準備運動から始めようと思う」
全員、ビーチバレーなど初体験。
審判はエクシリアが務めるとのことで、早速透とテオドールが即席のバトルフィールドに入った時だ。
「ウォーミングアップはフリーなんでしょ? せっかくだから、僕も遊ばせてよ」
「「ッ!!?」」
既に腕をクロスさせて準備運動をしていた錠前が、陽気に呟いた。
彼は立場上その力がバレるわけにはいかないので、本番では見守り担当。
しかし、人生初の南国バカンスでそんな退屈な真似はごめんだった。
「良いじゃない、普段仕事ばっかで可哀そうだもん。わたしがペアになるわ」
この意見に、ベルセリオンが快諾。
2人は初対面こそ散々なものだったが、現在では完全に関係が修復されており、互いに仲が良い。
そんな勢いと流れで、まさかの透とテオドールは現代最強の自衛官と戦うことになってしまった。
「くっそ、こうなったらテオ! ここで勝って錠前1佐に一泡吹かすぞ!」
「了解です! 透っ」
2人の決意に、錠前は恐ろしい笑みを見せていた。
互いに位置へつき、戦いの準備が開始される。
エクシリアの采配で、まず先行は”錠前・ベルセリオン”チームからとなった。
「言っときますけど1佐、リハーサルとはいえ本気でやらせてもらいますよ」
「はい! わたしと透の強さを思い知ってください」
自信満々で宣言。
先に結論だけ言っておこう。
2人共に、”本番でなくて良かった”と後に語ることとなった。
「試合――――始めッ!!」
エクシリアの声が響くと同時、錠前がボールを上に投げた。
開幕のジャンプ・サーブ、まずはここを防いで――――
「フンッ!!!」
魔眼を輝かせた錠前は、渾身の力でビーチボールを空中で叩いた。
――――ズドゴォッッ――――!!!!!!!!
アノマリーの全力を打ち付けられたボールは、一瞬でマッハ2を超えて透に突っ込んでいった。
ソニックブームの爆音と共にビーチが爆風で吹き荒れる中、透は相手が”最強”だったことを再認識。
受けれるか…………!? そうおもった時。
「させませんッ!!」
横から割って入ったテオドールが、全力で魔力を纏ったレシーブを披露。
火薬の炸裂音にも似た音と共に、ボールを真上へ打ち上げた。
「透! お願いします!!」
我に返った透は、慌てて降って来たボールをトスで上へ。
そこへ超加速しながら突っ込んだテオドールが、右手にさらなる力を込めた。
「20.3センチ――――『単装・ショックカノン』!!!」
ボールに直接魔法を当てることで、彼女は倍返しにも等しい威力のアタックを放った。
またも音速を超えて加速するボールへ反応したのは、姉のベルセリオンだ。
「まだまだね、テオドール!!」
「なっ!?」
飛び込みでソフト・ブロックを行った彼女は、見事なコントロールで錠前へパスした。
「良い動きだ」
降ってきたボールに対し、錠前は魔眼を使った原子レベルでの魔力操作を実行。
ジャンプしながら、その右手に紅いオーラを纏った。
「そぉれッ!!」
低めの気合一閃と共に渾身のアタック。
ボールは極超音速で、透の脇を突き抜けて行った。
「ッ…………!!!!!」
直前に危機察知能力を使って直撃を免れたは良いが、ボールは地面に激突。
まるで2000ポンドJDAMが落ちたかのような砂煙と爆音が響き、ヤシの木や設営した拠点、観戦組が吹っ飛ばされかける。
着地した錠前は、誰にも聞こえない声で呟く。
「やっぱ新海には当たらないか……」
煙が立ち込める中、錠前はニッコリと笑う。
「ごめんね新海ー、当てるつもりは無かったんだ」
「いや絶対狙ってましたよね!!?」
「大丈夫、お前なら避けれるだろ?」
不本意な顔をする透だが、肝心の審判がここで下った。
「そこまで!! 勝者、”錠前&ベルセリオン”チーム!!」
あまりにも規格外なビーチバレーを見て、久里浜が震えた。
「四条先輩、間違っても魔法使いや人外とスポーツとかしちゃダメですね……」
「全くです、この大きなクレーターは大急ぎで埋めましょう。あと、錠前1佐」
「なにー?」
「お判りだと思いますが、”出禁”です。あとそこのクレーターは1佐が直しておいてください」
※このボールは特殊な訓練を受けています。




