第422話・第4エリアのボス
「フッフ、相変わらず凄い小隊ですね。敵陣でバカンスとか……普通しないでしょう。面白いなぁ」
だだっ広い石造りの部屋で、中国国家安全部の士官服で身を包んだ若い男がいた。
「やはり他の軍隊とは違いますね、良い意味でも悪い意味でも日本人らしい」
そう呟いた林少佐は、身体を預ける古びた玉座に体重を掛けた。
かなりリラックスした様子の彼を見て、隣で立っていた金髪の男が苦言を呈した。
「良いのか? 奇襲するならベストだと思うのだが」
高身長で見下ろしながら、大天使ウリエルは呟いた。
この2人、どこか気が合うのか最近一緒にいることが多い。
別に仲良しという自覚はないが、話しやすいのは確かだった。
「やめた方が良いでしょう、新海透に錠前勉。執行者まで全員勢揃いだ。奇襲したところで殺されるのがオチですよ」
「だが、このままという訳にもいかんだろう? この城は”天界”に繋がる最後の関所……奪われれば、次元エンジンのあるエデンの間まで一直線だ」
「まっ、それもそうですね。けど仕掛けるのは1級のモンスターまででお願いします」
疑問符を浮かべたウリエルに、林少佐は頬を手に乗せた。
「特級の神獣は消耗したくないでしょう? そして、本当に連中を葬りたいなら――――相手からこの城へ踏み込むのを待つしか無い」
「正気か? さっきの私の言葉を聞いていただろう。ここが最後の防壁なんだぞ」
「だからこそですよ、全員一緒にいられては勝ち目なんて無いんです。だから分散してこの城へ攻めて来たタイミングで迎撃する。我々の勝ち筋はもうこれしか無い」
「…………」
林少佐の言う通りだった。
今は魔法が使えないとはいえ、錠前が最強のアノマリーである事実に変わりはない。
執行者もまた、ウリエル自身が東京で干戈を交えた身として、その強さは知っている。
「忘れないでください、私たちの目的はあくまで時間稼ぎ。君らのボスである”破壊神イヴ”が目覚めるまでのね」
「……そうだな、イヴ様が目覚めれば全て終わる。執行者は元より錠前勉もなんとかなるかもしれない、我々としては、こうしてビーチで遊んでもらっていた方が良いわけか」
「その通りです。まっ、私には別の目的もありますがね」
「ほう、ぜひ聞かせてもらいたいな。予想だが――――お前がまだ祖国に帰らない理由がそれか?」
ニッと笑みを見せながら、林少佐は呟いた。
「えぇ、私は新海透に会いたいんですよ。奇襲などというくだらないシチュエーションではなく、この最後の砦で迎え撃つボスとして」
「単独で来てくれる保証があるのか? そもそも、錠前勉が代わりに来たら意味が無いだろう」
「いいえ、彼は来ますよ。絶対にね……」
「確証はあるのか? お前のアテが外れれば、ガブリエルのプランも崩れるんだぞ?」
疑わしそうな眼を向ける大天使に、林少佐は確信をもって返した。
「敢えて言うなら”直感”ですかね、どうも彼とは……この場で会う気がしてならない」
「そうか、お前がそう言うならきっとそうなんだろう」
足元に魔法陣を浮かべたウリエルは、転移魔法で去って行った。
玉座の間に1人残った林少佐は、楽し気に笑う。
「国とか正義はもう私にとってどうでもいい、今はただ……この衝動に身を任せてみようじゃないか」
広い空間に、指を鳴らす音が響いた。




