第421話・独占欲爆発
注意、五寸釘と藁人形は売り切れとなります。
「えっ、どういう…………こと?」
困惑して水鉄砲を下ろす四条に、透は真っ赤な顔を手で押さえながら続けた。
「いや、なんつーか……あぁ!! もう!!!」
色々と吹っ切れた透は、思った通りの感情そのままをぶつけた。
その姿は、日本の英雄ではなく1人の純情な男子。
「衿華の水着姿は可愛すぎんだよ! なんだそのスタイル! 普段迷彩服だからわかり辛いけどめっちゃ華奢じゃん!! 肌なんか宝石みたいで、しかもその身体でなんで俺と体術互角なんだよ!! アニメのヒロインか!!」
「その言葉は、うっ、嬉しいけど…………! それと配信出ちゃいけない理由はなにっ!?」
「お前のその姿は”俺だけのモノ”にしたいんだよ!! 衿華の肌を身内以外には見せたく無いんだ!!」
「ッ…………!!!」
新米カップルによる、新米カップルらしいやり取り。
透は飾ることなく、バカ正直に本音をぶつけてしまった。
この美しく、可憐な恋人は絶対に守らなけらばならない。
まして、仕事とはいえ不特定多数に見せるなど言語道断。
この女性は、自分だけの恋人なのだ。
「ッ……、と、透がそこまで言うなら……わかった」
「ホントか?」
「う、うん。カメラに映る時はカーディガンちゃんと着るね。下はさっき履いてたショートパンツを履くから、透は安心して」
「本当は生足すら晒したくねぇ…………っ」
「もうっ、本当わがままね。日本の英雄が形無しだよ?」
「良い、お前の前では1人の男でいたいから…………」
クスクスと、からかうように笑う衿華。
それがどこまでも明るくて、透にとっては尊いものだった。
「さっ、そろそろ行こっ! もうみんな揃ってるよ」
「あ、あぁ! 待たせちゃ悪いな」
砂浜に戻ると、既に着替えを終えた面々が拠点構築を進めていた。
「あっ、やっと透が来ました」
「エリカー! 浮き輪ふくらますの手伝ってー!」
執行者姉妹も、持ってきた新品の水着姿。
フリルの付いた女児向けのもので、テオドールが黒色。
ベルセリオンが白色と、姉妹カラーのコーデだった。
やはり2人共、スタイル抜群のアイドル体型。
「四条せんぱーい! 水着超似合ってます!! エッチで超かわいいです!!」
走って来た久里浜は、ビキニの上からショートパンツを重ねたラフなスタイル。
水着があるので問題はないが、チャックが全快なので一瞬透は目のやり場に困った。
お前も十分エロいだろうと、透は思わず胸中でツッコむ。
「千華ちゃんも似合ってますよ、さては坂本3曹の好みですね?」
奥で弾薬箱を運んでいた坂本が、ビクリと震えるのが見えた。
「みんな揃ったねー、配信は後1時間後に始めるよ。しばらくは陣地設営と自由時間だから、好きにしといて良いよー」
拠点構築の指揮を執っていた錠前が、こちらへ手を振る。
今は執行者用の浮き輪と、重機関銃の設置を進めているようだった。
同時並行している作業のギャップが凄まじいが、第1特務小隊とはこういうものだ。
透と四条が作業に加わったのを確認した錠前が、目を輝かす。
「じゃ、重機関銃の配置終わったから。バーベキューの準備よろしくー!」
そう言って、海へと走り出す錠前。
これを見た久里浜も、「ズルいです1佐!!」と追いかけて――――
「「めんそーれぇえ!!」」
2人揃って、とても楽しそうに飛び跳ねた。
「錠前1佐!! なんか見たことないヒトデみたいな生き物います!!」
「マジ!? なんだこれ! 技研に渡したら大喜びするだろ!」
「ってうわぁ!! 水噴いたぁ!! 慎也ぁ!! 助けてぇ!!!」
「アッハッハッハ!!!」
大はしゃぎする特戦組。
まるで高校生のようなテンションだが、普段が国営ブラックの公務員なので、一度羽目が外れるとこうなってしまうのだ。
その様子を見ていた四条へ、透は手を掴んだ。
「お、俺らも遊ぼうぜ……! その、こんな機会滅多にないしさ」
彼のお誘いに、四条は少しキョトンとした後。
「うん、行こ!」
眩い太陽のような笑顔を向けた。
走り去っていくマスターたちを見届けながら、エクシリアが呟く。
「フフッ、青春ね」
「青春? 師匠、どういう意味ですか?」
「2、3年もすればわかるわよテオドール。わたし達も行きましょう」
バカンスを満喫する第1特務小隊。
その様子を、中央にそびえる城から眺める者がいた。




