第420話・上陸! 第4エリア!
――――第4エリア、西岸ビーチ。
青い海、白い宝石のような砂浜。
照り付ける太陽の下で、第1特務小隊は無事に上陸した。
先駆けてAH-64E攻撃ヘリが、島を偵察している。
威力偵察も兼ねて数回森林へ機銃掃射をしたが、反応は無し。
安全と判断して、CH-47J輸送ヘリが着陸。
中からは、続々と今回の攻略パーティーが降りて来た。
「うわっ、あっつ! 本当に沖縄じゃない」
「ユグドラシル駐屯地が東京と同じ気候でしたから、寒暖差が響きますねー」
太陽に目を眩ませながら、久里浜と四条が上陸。
2人とも半袖やノースリーブのシャツに、ショートパンツを合わせた夏スタイル。
「千華、あんまクーラーボックス揺らさないで。炭酸開けた時に爆弾になるから」
「あー。バッグ重いから早く降ろそうぜ」
次いで、坂本と透が上陸。
こちらも薄手のシャツと丈長のハーフパンツという、なかなか普段ではお目に掛かれない恰好。
いずれも、新宿遠征で調達したものだ。
「おぉっ! 常夏のビーチです! これはテンションが上がります!」
「まぁ、記憶が無いだけでわたしらは来た事あるかもだけど…………」
「じゃあ初体験と変わんないわ、楽しめば良いんじゃなーい?」
両手に合わせて20キロはある荷物を持ちながら、執行者テオドールとベルセリオンが降りて来た。
銀髪の上には、相変わらずミニサイズのエクシリアが座っている。
こちらも四条や久里浜と同じような格好で、薄手のシャツと短パン、ビーチサンダルだ。
涼しさ抜群、太陽が栄養満点で艶々な肌を輝かせていた。
――――そして。
「イェーイ!! 念願だった夏のビーチ! やっとバカンスらしいことができるよー」
Tシャツにアロハ色のパンツ、目にはサングラスを掛けた錠前が、意気揚々と上陸した。
やはりこちらも、拠点設営に必要な荷物を持っている。
上官の珍しいはしゃぎように、透が振り向いた。
「そうか、錠前1佐は沖縄旅行をダンジョンマスターの妨害で楽しめませんでしたからね」
何カ月か前、まだベルセリオンやエクシリアが敵だった頃だ。
1年ぶりの休暇として選んだ沖縄で、錠前は那覇を壊滅させようとしていたエクシリアたちとバッタリ邂逅。
ボコボコにしたは良いが、結局旅行はお預けとなったのだ。
「もう馬鹿らしくなって途中から数えてないけど、500日ぶりの休暇代わりになるかな。さすがの僕でもキツイものがあったよ」
「うげぇ……、わたしなんて前やった46連勤でも嫌なのに。1佐になると大変そう」
そちらもずいぶん大概なことに気づいていない久里浜が、荷物をビーチに置いた。
情報通り、ここは海水浴にうってつけ。
予定としては、ビーチで遊ぶシーンを配信して、国民に優勢をアピールする。
もちろん防備に手抜かりは無い。
上空では交代式でドローンが見張っており、要請があれば近隣を飛んでいるAH-64Eが火力支援に駆け付ける。
設置型のM2重機関銃や、各種軽機関銃。
また特戦で配備されている自動擲弾発射機や、それぞれの愛銃も完備。
夏、海、美女、銃。
今回の配信は、古き自衛隊の固定観念を破壊する目的で行われる。
なので、
「よーし! 全員水着に着替えなっさい、配信前の自由時間も設けるから、しっかり息抜きしてね。あっ、もちろんライフルは持っとけよー」
各々が散る中、先に男組が速攻で着替えを済ました。
理由は、着替え中の奇襲に対応するため。
なので、交代で女子たちが奥の着替えスペースへ入って行った。
「解放感凄いな」
風が全身を撫でる。
いずれも自衛官として鍛え抜いた肉体を強調するかのような、サーフパンツ姿が映えるスタイル。
特に錠前は普段着痩せして見えるタイプなので、脱ぐとかなり筋肉がある。
これなら確かに、あのフィジカルモンスター真島雄二と互角に殴り合える見た目だ。
「1佐は事務作業メインっすよね? 普通筋肉落ちると思うんですけど」
坂本の問いに、錠前は笑いながら答えた。
「昔超強いヤツと戦ってさ? それ以来、外国の特殊部隊に負けないよう技術と一緒にフィジカルも鍛えるようにしたんだ。”勘の良いヤツ”が相手だと手こずっちゃうから」
そんな2人の会話を尻目に、透は林の奥へ入っていた。
「衿華ー、着替え終わったか?」
「あっ、うん。今出るね」
口調が違う。
透と2人きりの時だけしてくれる、お飾りなしの”本当の性格”だった。
胸のドキドキが止まらない。
眼前に掛けられた布の奥で、この世で最愛の人間が着替えている。
その事実に、透は高揚を隠しきれなかった。
――――大丈夫、このために錠前1佐や秋山さんにアドバイスを貰ったんだ。本心、感じた本音を伝えれば良い。
そう覚悟を決めていた時、布が開けられた。
「どう? 似合ってる……?」
「ッ…………!!!」
「な、なにか言ってよ。気合入れたんだから、初めての南国だしいっぱい遊びたかったの!」
水鉄砲片手に立つ可愛すぎる恋人へ、透は思わず叫んだ。
「やっぱそれで配信映るの無しにしてくんねぇ!!?」
「えぇっ!!?」
新海透は、独占欲が強い男だった。
挿絵作:コミカライズ版担当、いか先生。




