第419話・リベンジ、そして突入
――――翌朝。
「ふあぁ……透、今日は朝ご飯ヘリの機内で食べるのではなかったですか?」
幼く眠そうな声。
食堂へ向かう廊下を歩きながら、執行者テオドールはアホ毛をピコピコと動かしつつ聞いた。
そんな疑問符を浮かべる眷属に、透は笑みを見せた。
「予定変更だ、お前ら用に特別な献立があるんだよ」
「特別……? よくわかりませんが、わかりました」
途中で四条とベルセリオンも合流し、一同は食堂へ。
室内に入ると、何やら塩を混ぜた濃厚な香りが漂って来た。
「これは……ラーメン? と、透! まさかこれが朝ごはんですか!?」
驚愕の表情を示すテオドールに、透は背中を押しながら笑顔で返した。
「そのまさかだ、朝からちょっと重いと思うが…………。試しに食ってみてくれないか?」
トレイを持って受け取り場所に向かうと、真剣な顔をした給養員が出迎えた。
彼らは麺の入ったそれに、たっぷり出汁を取った低温スープを投入。
その美を追求したかのようなラーメンに、テオドールが目を輝かす。
「こ、これは……っ!」
本日の献立は、”アッサリ塩レモン・ラーメン”
プチトマトの入ったそれは彩りに満ちており、2人の食欲を一気に刺激した。
たとえ朝だろうと、絶対に食わして見せる。
給養員たちの意地とプライド、リベンジの闘志が感じられる一品だった。
席に座り、フォークを手に取る。
「昨日と同じじゃなければ良いのですが…………」
小さく呟いた彼女は、姉のベルセリオンと一緒に一口目をすすった。
––––瞬間。
「むぐっ!!」
「んっ!??」
2人を襲ったのは、アッサリとは名ばかりの強烈濃厚な塩ベースのコク。
しかもただ濃いのではなく、朝から食べても全く問題ない後味。
濃い油と塩で舌が塗り潰された途端に、レモンの爽やかさが浄化するように口内で満ちる。
鳥の旨み成分による味の充満、そこから続く怒涛のリセットは禁断症状の発露にも似ていて、半端ではない中毒性を誇っていた。
しばらく悶絶した執行者2人は、ようやく中の物を飲み込んで――――
「ほえぇ……」
「ふぇー!」
無様に鳴き声を出させられた。
「よっっっっし!!!!! 鳴いたぁ!!!!」
「おお!! おおおぉぉぉおおおおおッ!!!!」
「やったぞぉおおおおおおおお!!!!!!」
厨房の方角から、給養員の歓喜の雄叫びがこだました。
困惑する2人に、奥から班長がやって来た。
「今日は朝からこんな重い食べ物を出して申し訳ない、でも……失望させてしまった以上、なんとしてもラーメンでリベンジしたかったのです」
「えと、どういうこと?」
「昨日2人に食べてもらったラーメンは、タレを入れ忘れた未完成品でした。証拠に、味が全く纏まっていなかったでしょう?」
それとなく顔を合わせ、頷く2人。
「君たちには本当に申し訳ないことをした、今日のラーメンはその謝罪とリベンジの意味を含めて、なんとしても召し上がって欲しかった」
「そ、そういうことでしたか……」
なぜ朝っぱらからラーメンなのか、ようやく納得。
悪態の1つくらいは甘んじて受け入れようと覚悟していた班長だったが、2人はフォークを置いた。
「別に気にしてませんよ。いつも美味しいご飯を作っていただいているのですから、たまのミスでとやかく言うほど小さくはありません」
「同じくね、いつもありがと」
厨房の奥から、男たちの号泣する声が聞こえてくる。
彼女らの返答に、班長は深く頭を下げた。
これにて一件落着。
心置きなくダンジョン攻略に行けるというものだ――――
◇
––––5時間後。
「ふんっ!」
「ほっ!」
煌めく太陽が照らす海岸沿い。
白い砂浜から青い海へ足を踏み入れた錠前と久里浜は、水着姿で飛び跳ねた。
「「めんそーれぇえ!!!」」
超絶笑顔の2人を、砂浜でバーベキューの準備をしながら全員が見つめる。
第4エリア、攻略開始――――
ラスト2章です、どうぞ最後までお付き合いください。




