第414話・ロシア連邦の最期
本日漫画版更新です!!
遂に、特殊作戦群が登場します!!
――――モスクワ郊外、大統領専用地下シェルター内。
ロシア大統領の保護。
たった1人のために作られたこの施設は、地上から500メートル地下に存在する、ロシア最大級の防護施設だった。
平時は廃れた郊外に存在する、一種のホラースポット扱い。
だがその実、厚さ3万ミリクラスの複合特殊装甲材で守られたシェルターであり、米軍のバンカーバスターはおろか、2メガトン級核弾頭の直撃にも余裕で耐えられる設計。
大陸各地の軍事施設と特殊な有線ケーブルで繋がっており、EMP攻撃下でも全軍へ指示が可能。
デフコン発生時は、完全武装した500人の兵士が警備し、監視カメラと連動した機関銃が廊下を常時警戒。
まさに、ロシア連邦が誇る最強の軍事要塞だった。
「参謀総長……、この写真はなにかね?」
インターネットに流出していたのは、ロシア太平洋艦隊旗艦の『ヴァリャーグ』。
問題は、それが日本の横須賀市、よりにもよってあの忌々しい、日本海海戦の英雄艦――――戦艦『三笠』と一緒に写っていたことだ。
「君の説明では、すでに旗艦『ヴァリャーグ』の対艦ミサイル攻撃によって海上自衛隊艦隊は全滅。激しい艦砲射撃の下、北海道西端部へ上陸したとのことだが…………」
「あっ、あぁ…………」
「これはどういうことかな? なぜわが軍の誇る巡洋艦が日本に拿捕されている? 北海道に強襲上陸したのではなかったのかね!?」
「いや、それは…………」
「答えになってないぞッ!! どういうことだ!! 軍部は私に嘘をついたのか!!!」
モニター越しに、激怒の咆哮を飛ばす大統領。
そのあまりにも激しい剣幕、非情な現実、逃げられない粛清の恐怖、全ての感情がない交ぜになった結果――――
「ヒュッ」
ロシア軍参謀総長は、その場でショック死してしまった。
椅子から崩れ降ちて息絶えた相手を見て、ため息をついた大統領は通信を切る。
もう軍も、部下も誰も信用できない。
軍部は大ウソつき、他の閣僚も信用などできない。
だが引き返すことなど既に不可能、ロシアだけが死にゆく運命など、到底受け入れることはできない。
死ぬなら、”全員だ”。
ロシア国民を全員兵士として徴兵し、1億総突撃で日本・ウクライナへ攻撃を仕掛ける。
大統領として、戦時の権限を使えば可能。
死者は数千万人単位で出るだろうが、それは以前に大ソヴィエトが通った道。
今度は自分が、日本というナチズムを葬らなければならない。
全ては偉大なる共産主義の礎として――――
「歴史に名を残すってことかな?」
「ッ!!?」
掛けられた声に、すぐさま椅子を倒しながら振り返る。
部屋の端。
そこには、マルチカム迷彩を着込んだ1人の男が立っていた。
「やっ、初めまして」
そう気さくに挨拶したのは、現代最強の自衛官――――錠前勉だった。
口から出てくるのは、ネイティブのロシア語。
しかし大統領は、この存在が異常だということにすぐ気づいた。
「貴様……! 侵入者か!? 誰か!! 警備を送れ!!」
テーブル裏に仕込んであった非情警報装置を押し、すぐさま対応。
が、錠前は笑顔で手を横に振った。
「あー、ここの警備要員は”全員殺した”から。助けなんて来ないよ」
「ッ!!!」
あり得ない。
警備はロシアの誇る精鋭であるGRUが担当していた。
銃声など微塵も聞こえてこなかったのに、一体――――
「いやー、ロシア特殊部隊の質も落ちたねぇ。”アイツ”がもし存命だったらこうはいかなかったけど…………まぁそれは終わった過去だ」
「貴様、日本人だな? 政府の指示で斬首作戦に来た特殊部隊か」
その言葉に、錠前は楽しそうに笑いながら否定した。
「あっはは! 違う違う。ここには僕が独断で来たんだよ、日本政府は関係ない。もちろんアメリカもね」
「…………どういうことだ」
大統領の問いに、錠前は歩を進めながら返す。
「西側政府はまだ君を生かそうとしてるみたいだからね、停戦交渉に必要だからと。でも考えてごらんよ…………」
腰のホルスターから、G17拳銃を取り出してコッキングした。
「既に何十万も殺した独裁者、これから数千万人を殺そうとした巨悪が……反省なんてするはずがない。きっと目をくらまして、10年後にはまた我が国へ攻め入って来るだろう」
「なにを勝手な――――」
拳銃が発砲される。
弾丸は、大統領の右膝を正確に撃ち抜いた。
苦し気に床へ手をつく彼に、錠前は冷え切った魔眼で見降ろす。
「いいや攻める、お前ら共産主義者はそういう奴らだ。100年前から変わらない、人類の癌だよ」
「ぐぅっ…………!! 良いのか!? 一自衛官が政府の意思を無視してこんな所業を…………!! シビリアン・コントロールが聞いて呆れる! それが貴様ら民主主義国家の方便か!!」
「良いこと言うねぇ、確かにこれは完全に僕の独断だから。この場合は君が正論だ」
「だったら――――」
左膝が撃ち抜かれる。
悲痛な叫び声を上げる大統領を、錠前は容赦なく蹴り飛ばした。
「許されるとでも? 僕の目的は最初から変わらない、”日本の敵の殲滅”だ。たとえユーラシア全土が紛争地帯になろうと、また次の敵を殺せば良い話。君のような独裁者を生かす方が、正直理解できないんだよねー」
拳銃の照準を、次は脳天へ定める。
息を激しく吐きながら、大統領は顔を上げた。
「私は……! ロシア連邦の大統領だぞっ。お前のような凡夫とは違う! 特別なんだ!!」
「特別ねぇ……」
紅い魔眼は、いつか過ごした記憶を見ていた。
「僕も嫌ってくらい知ってるんだけど……いくら自分だけが強くて特別でも……、それで周りの人間が幸せとは決して限らないんだよ」
渇いた銃声が響いた。
僅か30分という短時間で、ロシア最強の地下要塞は陥落。
時のロシア大統領は暗殺された。
拳銃を下ろした錠前は、薄暗い部屋で…………紅く光る魔眼を背後へ向けた。
「次」
ロシア首脳部の全滅は、西側諸国を大いに混乱させた。
急遽臨時政府が立てられるも、秩序を失ったロシア連邦は分裂。
国家そのものが崩壊した。




