第407話・いざ、組み立て配信!
「うわっ、これ全部アンタの買ったやつ? 引くわー」
――――新海、坂本の共同部屋。
シンプルで清潔に保たれたここで、久里浜はギョッとした表情で荷物の山を見つめていた。
「そうだよ、前の新宿じゃ結局買えなかったからな。ネットで一括注文した」
「にしたって多過ぎよ、”PC組む”のにこんな必要な訳?」
そう、坂本は以前からゲーミングデスクトップPCを欲していた。
本当なら新宿で吟味したかったが、ロシア部隊の妨害によって断念。
仕方なく、ネットショッピングで購入したのだ。
「でも絵面は良いですよ、サムネイルはこれにしましょう」
カメラをセットしていた四条が、満足気に一言。
そう、今回は坂本のPC組み立てを配信するのだ。
メンバーは坂本、久里浜、四条の3人。
透は仕事で忙しいので、この場にはいない。
ではなぜこの配信に至ったか。
前にも懸念があった通り、第1特務小隊のメインコンテンツが執行者に偏り過ぎると問題が多い。
彼女らの魅力に負けないよう、自分たちも頑張る必要があるのだ。
「わたし、仕事でノートPCしか触ったことないから……こんなの見てるだけで怖いわね」
「うん、知ってる。だから今回の組み立ては”千華にやってもらう”」
「は…………?」
時間が止まった。
口を開けながら自身を指差した久里浜は、数秒掛けて意味を理解する。
「ちょっっっと待って!! それどういうことよ!?」
彼氏の肩を掴み、ガクガクとゆすりながら叫ぶ。
「えっ、言葉通りじゃん。このPCは千華に組んでもらうから」
「なんでわたしなのよ!! アンタのなんだから自分で組めば良いじゃない!!」
「は? 僕がやったら一瞬で配信終わるだろうが。慣れないひよこのお前がやった方が、配信としても盛り上がるし」
「ぐぬぬ……」と歯ぎしりする久里浜。
「四条先輩は良いんですか!? 素人がやったって面白い保証無いですよ!?」
「わたしとしては、坂本3曹が光の速さで組み上げるよりも良いと思うのですが」
「そんな…………!!」
「副隊長からの命令です、やってください。千華ちゃん」
自衛官は上官に絶対服従。
命令とあれば、やるしかない。
大量のPCパーツを机に置き、その前でカメラがセットされた。
「では、配信を開始します」
スマホをタップすると、いつもの配信が開始された。
【今日は自作PCやるってマジ?】
【自衛隊ってゲーミングPC大丈夫なんだ】
【おい待て、パーツ見えるけど全部やべえ値段のだぞ!!】
【さすが危険地帯の公務員、お金はたくさん持ってるんだな】
【命懸けの仕事だぞ、当然だ】
久里浜の心臓が早鐘のように打ち鳴らされる。
銃ならいくらでも分解できるが、PCとなると全く自信が無い。
だが、これも仕事なのでやるしかないのも事実。
特戦に戻ったら、これより難しい任務なんていくらでもある。
こんなところで、つまづいていられなかった。
【坂本3曹が組むの?】
【普通に考えてそうだろ】
【じゃあなんて久里浜士長が一緒に映ってるんだ?】
この疑問に、早速坂本が答えた。
「あっ、今日組むのは僕のPCだけど、実際にやるのはこいつです」
指差された久里浜が、ビクリと震えた。
この言葉に、コメント欄も動揺を見せる。
だが、ベテランである坂本が付いているので、ひとまず壊すことは無いだろうと判断。
各パーツの説明の後、早速組み立てが開始された。
「じゃあ、まずマザーボードにCPUをセットしてくれ」
「しーぴーゆぅ?」
「人間で言う脳みそみたいなパーツだ」
その説明に、久里浜はポケットからパステルカラーの私物スマホを取り出した。
「ねぇ、わたしのスマホと比べてどんくらい違うの? 一応今年に買った最新機種なんだけど」
「そうだな……、そのスマホをお前とするなら、このCPUは10式戦車だ」
「全然ランク違うじゃん!!」
「あと、この9950X3Dってパーツは12万円するから、セットするときに壊すなよ」
「単体でわたしのスマホと同じ値段!? やっぱPCおかしい! 怖い!!」
「いいから、サッサとセットして」
坂本に促されて、小さなパーツを指でつまむ。
「えっと、この溝にはめれば良いのね……? で、入れたらこっちのレバーを……えいっ」
硬い固定器具だったので、久里浜はつい力を込めてしまった。
――――バキッ――――!!
表に付いていたカバーが、凄まじい音を立てて外れた。
本日漫画版更新してます! ぜひそちらもお読みください!!
コインを使えば、久里浜の登場回まで読めます!!




