第405話・罪の代償
「ムフフー、いっぱい買ってしまいました」
PXの前を、1人の可愛げな少女が歩いていた。
背中まで伸びた銀髪を揺らし、パーカーに包まれた両腕で、ビニール袋に入った大量のスナック菓子を抱えている。
お気になベージュ色のショートパンツから伸びた細い足が、ルンルンと歩を進めた。
彼女の名は執行者テオドール。
異世界から来た侵略者であり、現在は新海透の眷属として駐屯地で暮らしている。
今の趣味はアニメとゲーム、動画鑑賞。
運動はそこらのアスリートより得意なくせに、インドアが大好き。
「アンタ最近お菓子食べすぎじゃない? 油断してると肥えるわよ?」
鈴のように綺麗な声は、テオドールの真上から響いた。
3頭身のミニサイズとなった師匠である、エクシリアが彼女の頭にチョコンと乗っていたのだ。
「まぁまぁ師匠、透にバレなければ問題ありません。晩御飯だってちゃんと残さず食べてますし、大丈夫です」
「いやいやそうじゃなくてね、アンタいくらスタイル良いからって……そんなに食べてるとマジで太っちゃうわよ?」
「師匠は心配性ですね」
「はぁ、この弟子は……最近ドンドン日本人化が進んでるわね」
テオドールは、稀に姉や他の自衛官とサッカーや野球をすれど、定期的な運動をあまり好まない。
勉学に追われる身である彼女の最近の楽しみは、夜にポテチとジュースを肴にアニメを見ること。
ガジェットオタクの坂本の勧めで、有機ELの2K解像度タブレットを購入。
彼女が部屋でだらける姿は、到底異世界人とは思えないもの。
今日もきょうとて、宴をしようとしていたテオドールへ――――
「あ」
「おっと」
偶然、曲がり角で透と出くわした。
迂闊、お菓子を買ったことでご機嫌になり油断していた。
当然ながら、マスターは彼女の抱える大量のお菓子を訝し気に見つめた。
「なぁテオ、そのお菓子なに?」
こういうお説教モードの透は、いつもより声が少し低い。
子供特有の鋭利な感覚で察したテオドールは、すぐさま対処を行った。
「部屋の3人で分けて食べるので、数日分を買いだめしました」
嘘である。
この女、1人で一晩の内に食べてしまうつもりだ。
一方、そんな悪知恵をつけた執行者のマスターである透は、表情を変えずに続けた。
「ベルセリオンはスナック菓子あんま好きじゃなかったよな? で、エクシリアが食える量なんて限られてないか?」
一瞬で看破。
やはり、このマスターは観察眼も尋常ではない。
嘘を早速見破られたテオドールに、透は膝を折って同じ目線にした。
「お菓子の量はお互いに約束した分って決めてるよな? これ、明らかに多い気がするんだけど? なんで5種も20%増量ポテチが入ってんだよ」
もはやここまで迫られたからには、言い訳も無意味。
「ふむ、仕方ありませんね」
潔く諦めたテオドールは、ビニールの中をゴソゴソと漁って――――
「はい、1つだけですよ?」
買収を試みた。
あまりにも拙い眷属の行動に、透はつい。
「できるわけないだろ、安すぎか」
高速でツッコミを入れた。
切り札が通じなかったことで、テオドールはスンとなってしまう。
「透ならこれでイケると久里浜に教えてもらったのですけど…………」
純情な眷属が、最近やたらとクソガキムーヴをかますようになった一因が判明した。
どうやら、駐屯地内に情操教育に悪い人間がいるようだ。
久里浜には、後で隊長としてお灸を据えることを確定させつつ……気になっていたことを聞いた。
「っつーかテオ、最近部屋でダラダラしてばっかじゃねえか? そんなに怠けてると戦闘になった時キツイだろ」
「大丈夫です、これでも執行者ですから。多少なら問題ありません」
自信満々な慢心執行者へ、透は1つ提案した。
「じゃあ、試しに肩回してみろ。絶対こってるから」
この言葉に、テオドールは怠そうな顔を隠さなかった。
「えぇ……? 別にこってなんか――――」
そう言って、思い切り肩をグルグルと回し始める。
さすがにそんないきなりは…………。
透が警告を発しようとしたが、一歩遅かった。
――――ゴキッッッッ――――
「ほえ゛ッ゛ッ゛」
濁った声を出すと同時、執行者テオドールは地獄の底へと叩き落とされた。
透いわく、世界のアイドルが出して良い音と声じゃなかったそうです




