第404話・最強が望んだ未来
「って感じかなー。どう? 面白かった?」
時は戻って現在――――
シューティングレンジの椅子に座りながら、錠前は昔話を話し終えた。
「へぇー、1佐にもそんな時代があったんすね」
「驚きました……、まさか父が錠前1佐の教師をやっていたとは……」
話を聞き終わり、透と四条は感嘆した様子で振り返った。
もちろんであるが、錠前が話した内容は思い出した青春時代のほんの一部分。
特戦の任務や久里浜、真島や秋山と決別したことは話していない。
あくまで、最小限を語ったに過ぎなかった。
それは、錠前にとって誰にも渡したくない宝物だから。
「でもその頃から1佐は強かったんですか……、やっぱり最強ですね」
間抜けた笑顔を見せる透に、思わずほくそ笑む錠前。
「アレ、なんか変なこと言いました?」
「いや、別にぃ?」
胸中でつぶやく。
––––お前と同じ能力に殺されかけたんだけどなぁー、っと。
「あっ!! 新海隊長! 四条せんぱーい!」
響いたのは、活発な声。
見れば、ライフルを担いだ久里浜と坂本が歩いてきていた。
「おー2人共、今日も練習か?」
透の声に、相変わらず目元を髪で隠した坂本が答える。
「はい、このチビが今日も僕にボコされたいってお願いしてくるんで」
「はぁ!? そっちの64式はスコープ付きでわたしは等倍のホロサイトよ!? スコアに違いが出るのは当然じゃない!!」
「国民の税金で作った弾丸を外すお前が鍛錬不足なだけ、悔しかったら特戦の意地見せろ」
「あったまキタ!! 今日こそわからせてあげるんだから!!!」
そう言って、お気に入りのHK416A5を机に置く。
ジャラジャラと弾丸を袋から出す中で、眺めていた錠前が聞いた。
「久里浜士長」
「はい、なんですか1佐?」
顔を上げた久里浜の顔は、とても充実しているように見えた。
その上で、あえて聞いてみる。
「ウチの小隊、楽しい?」
「……そうですね、最初は変な部隊だと思ったんですが。慣れてくると居心地は良いですね、なにより――――」
マガジンに弾薬を詰めながら、元気に答えた。
「好きな銃を好きなだけ撃てるので、最高です」
「そうか、良かったよ」
脳裏に10年前のホテルで会った姿が思い浮かぶが、当の久里浜は錠前を覚えていないらしい。
あれから、本当に頑張って来たのだということだけはわかった。
「あれー、みんな揃ってる。珍しいねー」
どこか気だるげな声に、四条が反応した。
「おや、秋山さん……そちらこそどうしたのですか? ここシューティングレンジですよ?」
パーカーにジーンズというラフな私服姿の秋山が、優しい笑顔で手を振った。
四条や久里浜に負けず、スタイルがとても良いのでどこかのモデルのようだ。
「あぁ、ベルちゃんのこと探しててさー。四条さんなら知ってるかもって思って、隊員さんに聞いたらここにいるって言ってたから」
「ベルさんなら、グラウンドでテオドールさん達と一緒にサッカーをしてくると言ってましたよ?」
「そうなんだ、じゃあ後で向かおうかな。試作のマスカットケーキができたから食べてもらいたいなーって思っ…………。錠前君、なにその変な笑み?」
「いや、ごめん…………ねぇ美咲」
「なに?」
「子供って好き?」
唐突な錠前の質問に、秋山は拳を握りしめた。
「当然、あの小中学生くらいの子が一番可愛いんじゃん。特にベルちゃんは甘いお菓子を食べさせたらふえふえ鳴いてさ、それがすっごくかわいくって…………なんでニヤついてんの?」
「いや……っ、ブフッ。別に?」
「変なの……。そうだ、真島くんから連絡あったよ?」
「雄二から?」
「うん、今度は九州でお土産買ったから執行者ちゃん達に渡してくれって」
「またぁ? 今月何度目だよ、買いすぎじゃね?」
「すっかりメロっちゃってるよねー、まぁわたしも同じ穴のムジナなんだけど」
そうこうしている内に、坂本と久里浜の射撃練習が始まった。
渇いた銃声が響く中で、歓喜と応援の声が入り混じる。
錠前は脳裏であの日の夕方をふと思い出したが…………。
「――――どうしたんですか1佐? 自分の顔になんか付いてます?」
もう会えないと思っていた親友、この世で一番信頼できる部下たち。
何より――――ようやく見つけられた100年に1人の逸材を前に、もうあんな寂しい思いはしなくて良いのだなと安堵。
席を立ちながら、上官らしく余裕の笑みを見せた。
「別に♪」
以上で錠前過去編は終了です、1か月に渡りお付き合いいただき、ありがとうございました。
最初は書かないつもりだったのですが、物語の原点となるお話でもあったので、今思うと書いて良かったです。
特に、過去編を通じて色んな疑問を回収できたので、まぁ万事オーケーでしょう。
それに、現代の錠前がどこか嬉しそうな理由が描けて良かったです。
今でも青は――――澄んでいる。




