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第403話・結成、第1特務小隊

 

 ――――自衛隊、兵庫地方協力本部。


 主に自衛隊の広報を目的とするこの施設は、入隊希望者の玄関口として機能していた。

 活動内容は勧誘、地域イベントの出席、アニメや漫画の協力など多岐に渡る。


 そんな事務所内で、1人の若く端麗な女性自衛官が困惑の表情を見せていた。


「えっ、ダンジョン配信……わたしがですか?」


 本部長の前で、パソコン作業中だった陸上自衛官――――四条衿華は驚いた様子で自身を差した。

 ニュースで東京が大変なことになっているとは聞いていたが、まさか自分に白羽の矢が立つとは思ってもいなかったのだ。


「そうだねぇ、市ヶ谷から急に指名が来ちゃって……。悪いけど今から八尾駐屯地まで行ってくれない? UH-1がもう待機してるらしいから、空路でそのままダンジョンに突入。現地で護衛部隊と合流して」


「……わたしじゃなく、東京地本の人間ではダメだったのですか? ここ関西ですよ?」


「能力を鑑みた結果の判断だそうだ、外でLAVが待ってる。時間の猶予無いからすぐ行ってもらえるかな? ホント急でごめんね」


「いえ、問題ありません」


 そう、錠前が送ったメールは配信小隊への四条衿華の指名。

 防衛大臣直轄にして、異例の権限を持つ1等陸佐の命令には誰も逆らえない。


 ――――ただ1人を除いて。


「おや、これはこれは四条陸将。そちらからお電話なんて珍しい……今日は空からJDAMでも降りますかね?」


 市ヶ谷の個室で衛星電話を持った錠前は、とぼけた笑顔を見せた。

 だが、電話口の向こうにいる恩師は全く正反対の様子。


『それで誤魔化せると思うなよ錠前1佐。お前だな? 衿華を例の配信小隊に指名したのは』


「…………」


 その怒気は、たとえ電話口でも並みの人間なら卒倒するレベル。

 陸将の本気の怒りは、さらに続いた。


『あれは既に中即連の隊員で決まっていたはずだ、答えろ。返答次第では今すぐに朝霞(ここ)を発って貴様を殺しに行く』


 相変わらずな恩師の様子に、錠前は長い足を組みながら飄々と返す。


「役者不足だったので僕が降ろしました、今回の任務は日本の未来が懸かった超重要ミッション。陸将の娘さんについてはかねがね伺っていましてね」


『ほう?』


「去年に行われた日米合同演習(アイアン・フィスト)、その対抗で参加した米海兵隊の3個小隊を、彼女が臨時で指揮した部隊が壊滅させたとか……」


 嫌らしい笑みで、錠前は続けた。


「その実績もあって九州の水陸機動団へ、今年配属されるはずだった……。でも、なぜか彼女は平和な関西の広報官に。これ――――おかしいですよね?」


『……何が言いたい?』


「とぼけないでくださいよ陸将、貴方でしょう。彼女の赴任先を人事に干渉して変えさせたのは」


 四条陸将は、隊では隠しているが相当な親バカだ。

 これは中央幕僚でも知らないことであり、普段の四条陸将を知るものならあり得ないと断言するだろう。

 しかし、錠前は防大時代の雑談で知る機会があった。


 大事な娘がいること、できれば自衛隊には入って欲しくないこと、そしてイカれた狂人である錠前にだけはなんとしても会わせたくないこと。

 なので、伝手を使ってなんとなく探りを入れていた。


 それが、見事にビンゴだったわけだ。


「自衛官は服務の宣誓を行った防人です、それを娘だからと前線から遠ざけるのは……少々不味くないですかね?」


『それは脅しかね? 錠前1佐』


「えぇ、既に中央幕僚の過半数は僕の側に立ちました。もう足掻いたところで、娘さんのダンジョン派遣は止められませんよ」


『そこまでして衿華をダンジョンに送りたい理由はなんだ? 錠前1佐、お前ほどの人間が理由もなく選ぶはずは無いだろう? 答えろ』


 待ってましたと言わんばかりに、錠前は前のめりになった。


「簡単ですよ。さっきも言った通り……これは長年日本が待ち望んでいた転機になるかもしれない。そんな大事な任務を、半端なヤツにやって欲しくないんですよ」


『衿華なら、果たせると?』


「僕の勘に狂いが無ければ。四条2曹は貴方の娘……そして実績を鑑みても水機団の精鋭クラス、広報の経験もあるし、今回の任務には適任です」


 しばらく沈黙した四条は、教師時代と変わらない声で返した。


『――――娘を預けてやる。ただし、上官のお前がヘタをこけば……命は無いと思え』


 四条陸将は本気だ。

 娘への愛情はねじ曲がっているが、それだけにこの脅しは本物だろうと確信できる。

 だが、錠前は微塵も動揺せず答えた。


「問題ありません、”最高の護衛”を用意しております。陸将は朝霞でのんびり果報をお待ちください」


 こうして、陸上自衛官――――新海透と、四条衿華のダンジョン派遣が決定した。

 錠前は、さらに補佐として特級射手の認定を持つ坂本3曹へも加入を指示。


 ここに、第1特務小隊が編制された。


 日本初となる異例の配信部隊は、後に日本を……いや世界を大きく変えてしまう。


 ――――ダンジョン外郭。


「あなた達でしょうか? わたしの護衛を担当するっていう自衛官は」


 ヘリを降り立った四条は、眼前の新米3尉へ話しかける。


 そして、時は戻って現在――――


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― 新着の感想 ―
四条パパは握力ゴリラっぽいw 生憎、今現在の錠前さんは頭を180度回転させても無事なのよなぁ
配属後50回のコールが残っていたことから子煩悩とは思っていたが、配属先変えるほどだったんかい…権力乱用したらし返されたとかとんだ皮肉 四条がパパ呼びしてるから、プライベートではちょっとキモチワルイ接し…
四条先生…あんた、殺せる気なんだなw 狂える親バカの力をもってすれば一矢くらいは報いれるかもしれんw
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