第40話・絶対に攻略できない設定
それはあまりに突然だった。
ボスを倒し、みんなが笑い、さぁ撤収しようかと思った矢先の出来事である。
300メートル上の天井からイカヅチが走り、部屋の中央に落ちたのだ。
塔全体が激しく揺れ、透たちは爆風に耐える。
爆煙には、人影が映っていた……。
「––––最弱の民族……。唯一神への信仰を忘れ、己を律することもできない人類種の最底辺。それが日本人だったはず」
煙から現れたのは、蒼色の髪をサイドテールに纏めた“女の子”だった。
黒が基調の長袖とプリーツスカートを着ており、身長は久里浜よりもさらに小さい。
あまりに急な登場に、その場の全員が面食らう中––––
「残念だったな、その最弱に攻略されちまったよ……ここは」
唯一前に出た透が、20式を構える。
増援からもらったマガジンのおかげで、引き金をひけばいつでも撃てる状態だ。
「……肯定、そうみたいね。どうやら––––あなた達はわたしが考えていた日本人とは全然違うみたい」
「名前を聞かせてもらおうか、だったらトリガーを引くのは少し待ってやる」
透の直感で、今即座に撃つのは悪手だと警鐘が鳴らされる。
ここは、できるだけ情報を抜くべきだ。
ヤツの正体を、知らなければならない。
「––––わたしの名はベルセリオン、執行者にしてこのダンジョンを統べる守護者よ。本来このダンジョンは、攻略されることを前提に造っていない」
「攻略されないように造った? 意味がわからんな、現に俺たちは攻略しちまったが……」
「えぇ、おかげで我が主は大変機嫌が悪くなってしまった」
忌々しげに見つめてくる金眼は、透の持つ銃を指差した。
「このダンジョンは、そんな変な鉄の塊で攻略されるはずじゃなかった。あなた達––––“魔法”は使わないの? レベルはいくつ?」
本気で不思議がっているベルセリオンに、透はドットサイトを顔の前に置きながら答える。
「あいにくここは科学の世界だ。異世界ファンタジーじゃない……スキルやレベルも無ければ、魔法なんてものも存在しない。地球じゃそんなの迷信だ」
透の言葉に、彼女は本気で驚いているようだった。
そのリアクションに、隣へ立つ坂本が答え合わせをするように呟く。
「隊長、多分ですけど……このダンジョンにとってイレギュラーは僕たちの方です」
「どういうことだ?」
「普通のゲームだと適正レベルや推奨武器が、ダンジョンへ入る前に必ずありますよね」
「あぁ」
「おそらくですけど、ここは本来……剣や魔法で挑まれる設計だったんだと思います。でも何かの手違いで––––」
「魔法もスキルも迷信の……、この世界へ来てしまった」
理解する透。
ようやく状況が整理できたのだろうベルセリオンも、語気を強めながら言葉を放つ。
「おかしい、まさか世界線を間違えた……? 科学なんて迷信のはず、こんな世界存在して良いわけがない」
「良いも悪いも、現実だ。良いか––––1回しか言わないぞ」
透も語気を強めた。
「ダンジョンの制御権を寄越せ、俺たちはこのデカブツを東京湾から退けなくちゃならないんだ」
自衛隊の目的は、最初から一貫している。
東京上空に居座るこれを、一刻も早く人気の無い場所へ移さねばならないのだ。
だが執行者ベルセリオンは、不機嫌そうに返した。
「最底辺の民族がわたしに指図するか、魔法も使えない弱小に答える道理など––––」
銃声が響く。
言い終わる前に、ベルセリオンの腹部に5つの穴が空いた。
数瞬よろけた彼女は、怒気に満ちた顔を透へ向ける。
「あり得ない、その攻撃が魔法じゃないなら……一体なんなの? 高速魔法でもこんなものは無い」
「やっぱそれ本体じゃないっぽいな、撃っても無駄か……」
「えぇ、これは身代わり––––あなた達には用件を伝えに来ただけだもの」
「じゃあサッサと言え、次は口を狙うぞ」
照準を定める透に、ベルセリオンは笑みを見せた。
「この区画はまだクリアされていない、タワー最上部の“クリスタル”を奪わない限りは、攻略判定にならないのよ」
彼女の言葉に、四条が疑問を持つ。
「入り口からここまで道はほぼ1本でした、階段なんてどこにも……」
「えぇそうよ、階段なんてありはしない」
「階段が、無い……?」
タワーの最上部に行かなければ、攻略にはならない。
そしてそこに至る階段は存在しない。
つまり––––
「なるほどこれは悪趣味だ、最初からクリアさせる気なんて毛頭無いわけだな」
透の言葉に、光へ包まれたベルセリオンが頬を吊り上げる。
「残念だったわね、あなた達は絶対にクリアできない。せいぜい主を興じさせてちょうだい」
粒子となって消えるベルセリオン。
だが情報を整理する間も無く、信じがたい報告が外の部隊から入って来た。
『こちら第1戦車小隊! タワーの上部から大量の空飛ぶトカゲ……いや、“ワイバーン”が飛び出した!! 真っ直ぐダンジョンの出口へ向かって飛んで行っている!!』
40話を読んでくださりありがとうございます!
「少しでも続きが読みたい」
「面白かった!」
「こういうダンジョン×自衛隊流行れ!」
と思った方はブックマークや感想、そして↓↓↓にある『⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎』を是非『★★★★★』にしてください!!
特に★★★★★評価は本当に励みになります!!! 是非お願いします!!




