第4話・戦後初の武力行使
初めて入ったダンジョン内は、透たちの持つ常識を大きく打ち破ってきた。
「これは……、予想以上に奇妙だな」
屋内にも関わらず太陽のようなものがあり、周囲の風景はまるでローマのバチカンがごとき様相。
無人の欧風建築物がひしめき合い、遥か先には巨大な宮殿が見える。
「これ、どんな技術か知りませんけど……明らかに外の見た目に対して中の面積が釣り合ってませんね。空間が広すぎる」
坂本の言う通り、これが違和感の正体だった。
「そうだ、四条2曹」
「っ? なんでしょう?」
「多分大丈夫だと思うけど、インターネットには繋がったりする?」
ヘルメットのカメラと同調しているのだろう端末を取り出し、四条は安堵したように呟く。
「問題ありません、4G回線で安定しています。これなら生配信もいけるでしょう」
「ねぇ、できれば僕は映さないでもらいたいんだけど。地本のチャンネルに載るとか嫌なんで」
「ご安心を坂本3曹、配信を行うチャンネルは防衛省の本チャンネルですので。キッチリ映してあげますよ」
嫌そうな顔をする坂本だが、そもそも護衛の自分らが映らないのは無理がある。
透は坂本の肩を軽く叩いた。
「まっ、俺らが映ってもどうかなるわけじゃない。四条2曹。始めてくれ」
「はい」
端末が操作されると、四条の付けたヘルメットカメラからの映像が全世界に配信を始める。
秘密保全の関係から、音声は無く映像のみのお届けだ。
「ちなみに同接数は?」
「まだ始めたばかりですが、既に10万を超えてますね……総火演でもこうはなりません」
「だろうな、さて––––」
透は抱いていた20式小銃のコッキングレバーを引き、初弾を薬室へ送り込んだ。
坂本も同様の行動をする。
「敵が来たぞ」
「えっ? でもまだ何も気配はありませんよ……?」
困惑する四条に、64式を構えた坂本が答える。
「そういうのが分かるんだよ、ウチの隊長は」
しばらくして、縦に進んでいた自衛隊部隊に異変が起きる。
「前方! 何かいます!」
LAVの乗員が叫ぶと同時に、大通りの奥からあれよあれよと言う間に“異形”が現れた。
「なんだありゃ……」
こちらへ向かってくるのは、馬に乗った中世の騎士にも似た軍団だった。
全身鎧姿で、手には長いランスを持っている。
1つわかるのは、それらが明確に“敵意”を持っている点だ。
「距離300! 発砲開始!!」
車体上部に据えられた、MINIMI5.56ミリ軽機関銃が火を吹いた。
次いで、透たちの小銃もセミオートで撃ち始める。
音速を超えて発射された弾丸は、鎧を簡単に貫通して戦列を崩した。
特に軽機関銃の効果は絶大で、200発の連続射撃は文字通り敵を薙ぎ払ってしまうほど。
戦闘はほんの1分で終了し、重装騎兵はあっという間に殲滅された。
この間、配信のコメント欄は滝のように流れていた。
【自衛隊が撃ったぞ!! すげぇ! バカ強いぞ!】
【防衛予算増額されて、個人装備が良くなったのが助かった。こんな市街で89式は辛かっただろう】
【令和にこんな映像が見られるとは……】
白熱するコメント欄。
戦闘映像の公開は、ロシア・ウクライナ戦争を通して非常に重要だと防衛省は理解していた。
既に、同接数は50万を超えている。
「訳わかんないな……、連中。倒したらなんか結晶になったんだけど」
64式に付いた倍率スコープで、坂本が死体を確認。
血や肉ではなく、虹色の結晶が散らばっていた。
部隊が近づくと、四条はすぐさまそれを拾った。
「大丈夫なのか?」
透の声に、四条は困惑したように答える。
「宝石……でもない、かと言ってガラス繊維でもなさそう。技研に調査してもらわないとわからないですね」
「まぁそうでしょ、どう見ても普通の物質じゃなさそうだし」
マガジンを交換する坂本。
同じくリロードしていた透は、妙な悪寒を足元に覚えた。
「ッ!!」
根拠など無かったが、本能で四条を押し倒す。
「いったた……! 何をするんですか! って……えっ?」
見れば、石畳から突き抜けてきた“手”が、さっきまで四条がいた位置に生えていた。
もう1つ言うなら、それは透のブーツをガッチリ掴んでいる。
「坂本!!」
「ッ」
透の指示に超スピードで反応した坂本が、コンバットナイフで透を掴む手を切り裂いた。
足が自由になると同時、全力で叫ぶ。
「全員散らばれ!! 敵は下からも来るぞ!!」
部隊の中央から、次々と甲冑兵が生えてきたのだ。
この距離と位置では、迂闊に発砲もできない。
透は混乱する味方部隊から、四条の腕を掴んで引き離した。
今の自分の最優先任務は、この人間を守ること。
他の部隊だって練度は高い、すぐに体勢は立て直すだろう。
それまでの間、神出鬼没の敵から彼女との距離を置く必要があった。
「坂本! ポイントマンを任せる!! 先行して安全そうな建物を制圧しろ!」
「了解っ」
本隊から離れる形で、透の小隊は図らずも中央へ近づくこととなった。
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