第396話・ヌルいミッション
漫画版、明日更新です!!
お忘れ無く!
「ねぇ、あのお兄さん勝つかな…………?」
回収地点まで、真島は久里浜を抱きながら走っていた。
その速度は小学生とはいえ、人を抱えていると思えない。
50メートルを、たった7秒で走り抜けていく。
同じ速度で隣を並走していた秋山が、ニッと微笑む。
「大丈夫、わたし達は最強だから。あんな老いぼれになんか負けないって」
それは、錠前を誰よりも知るからこその信頼。
まずは、なんとしてもこの少女を特戦に引き渡す。
アイツはクズだが、絶対に勝ってくれると確信していた。
「真島くん、アレじゃない?」
まだ人通りは微塵も無いが、交差点に1台のLAVが停車していた。
中では、まだ若い陸自隊員が座っている。
助手席には、自衛隊に配備されていない対物狙撃銃があることから、特戦で間違いないだろう。
「アンタだな?」
久里浜を地面に降ろしながら、真島はサイドガラスをノック。
すると、中から隊員が出て来た。
「あぁ、救出ご苦労。…………もう1人いると城崎小隊長に聞いていたが?」
「今戦闘中だ、必ず勝つから心配すんな」
「そうか、では久里浜さんは手筈通り保護させてもらう。君らも早くここから離れた方が良い、直に封鎖が解除されて警察が押し寄せるだろう」
久里浜がLAVに乗り込もうとした時、彼女はペコリとお辞儀した。
「あのっ、お兄さんとお姉さん達……すごくかっこよかったです! やっぱり銃を使いこなせる人って凄い。わたしも将来、あんな奴らに負けないように銃を撃てるよう強くなります!」
「……そっ、まぁ頑張って」
「期待しないで待ってるよ」
久里浜が車両に乗り込むと同時、LAVは発進して行った。
これで憧れの特戦に入れる、後は勝利を収めた錠前と合流して、ここから離れるだけだ。
「なぁ、美咲……」
長年欲しかったものを手に入れた真島は、ふと呟いた。
「これで俺らは特戦に行けるわけだけど、なんか……思ってたより呆気なかったよな?」
「そうねー、確かに拍子抜けしちゃった。わたしら半グレの事務所潰しただけじゃん、やってることいつもと変わんねー」
そう言って、鞄から棒付きキャンディーを取り出して口へ。
いい加減錠前が来てもおかしくない時間だが、まだ来る様子が無い。
「特戦に行けても、こんなヌルいミッションばっかだったら嫌だな」
「言えてる、入隊試験だから簡単だったとはいえ……もう少し手ごたえが欲しかったよね。これじゃ実感も湧かないや」
軽く笑う秋山。
その直後、2人の傍に人影が現れた。
ようやく錠前が合流して来たのだろう、真島は皮肉気味に笑って――――
「よう勉、遅かったじゃない…………か」
目を疑った。
あり得ない、あって良いはずがない。
眼前の光景を、脳が完璧に拒絶する。
しかし、現実は強制的に非情な結果を見せつけた。
「あー、やはり少女は回収されてしまいましたか……。おまけで手に入れれば功績の足しになったのですがね」
ベッタリと血が付着したスーツの軍人。
スペツナズ大隊長、ロシア最強の男……ロマノフ少佐が立っていたのだ。
「なぜ…………お前がここに?」
その問いに、首を傾げたロマノフは一瞬思考。
次いで、彼らが欲する答えを……薄く笑いながら渡した。
「錠前勉は――――私が殺しました。それがどうしたのです?」
瞬間だった。
真島の鍛え抜かれた腕と胸筋が、一気に膨らむ。
秋山もまた、腰のナイフを神速で抜きながら、口内のキャンディーを吐き捨てた。
「そう」
「なら――――」
ロマノフへ、常人なら気絶しかねないレベルの殺気が向けられた。
「「死ね」」
秋山と真島が、瞬間移動のようなスピードで地を蹴るのと、片手にスペツナズ・ナイフをロマノフが構えるのは同時だった。




