表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
395/454

第395話・最強殺し

 

 ――――”油断”。


 それは人間であれば、誰もが一度は体験する危険な瞬間。

 どんなに戦闘力が高い猛獣でも、獲物を狩った瞬間無防備になるのと同じく。


 錠前勉という”まだ若い”男にも、その歯牙は襲い掛かった。


「アンタ……、どこに隠れてたよ?」


 笑いながら汗をかく錠前に、背後で刃を持ったロマノフは同じく笑みを見せた。


「気にしないでくれ、知ったところで意味は無いんだから」


 迎撃は即座に行われた。

 錠前は腰のホルスターから高速でG17を抜くと、連続で発砲。

 同時に、秋山も携帯していたナイフを投擲した。


「へぇ、まだ動けるんだ」


 ナイフを瞬時に身体から抜きながら、攻撃を簡単に回避したロマノフ少佐は感心。

 一旦距離を取ったが、錠前の胸からは多量の出血がうかがえた。


「勉!!!」


 駆け寄ろうとした真島を、錠前は手で制止した。


「大丈夫だ! ちょっと風穴開けられたが……ギリギリで致命傷は避けた。それよりも久里浜さんを回収地点へ! アイツの相手は俺がやる」


「ッ!!」


 既に手負いとなった錠前。

 真島は加勢したい気持ちでいっぱいだったが、ここは己の親友を信頼することとした。

 大丈夫だ、この男なら絶対に勝つと。


「わかった、必ず倒してくれよ」


「久里浜さん! こっち!」


 少女を連れて、真島と秋山は全力で走り去る。

 その様子を眺めながら、ロマノフはナイフを握り直した。


「ありゃりゃ……逃がしちゃった。できれば君はさっきので仕留めたかったんだけどね」


「腕が鈍ったんじゃねえか? 平和な日本勤務はキツイだろ? 汗かいてんぞ」


「そういう君も冷や汗が止まってませんよ? 初めてでしょ、こうしてダメージ受けたの」


 ゆっくり歩きながらロマノフは不気味に笑った。


「君みたいな天才に、正面から戦って勝てる見込みはまず無い。だから削りました、久里浜千華の救出成功の緩み……おかげで、防大最強の君をこうしてぶっ刺せたわけだ」


「あっそう!!」


 市街地だが、手加減できる相手ではないと判断。

 錠前はMK18を構え、即座に発砲。

 確実に頭を捉えた射撃だったが――――


「良い判断です、ここで躊躇わないあたりやっぱ優秀だ」


 弾丸は、ロマノフ少佐を掠めて後方へ飛んで行った。

 かわした……にしては、動きがおかしい。

 錠前はマガジンが空になるまで撃ったが、信じられないことに命中弾はゼロ。


 相手は、最小限の動きで攻撃を避けていた。

 こいつにライフルの類は効かないと即断し、ナイフへ切り替えて肉薄を試みる。

 常人では見切ることも不可能な斬撃を繰り出すが、これもロマノフはアッサリ回避。


 さすがの錠前も、これには困惑した。


「なぜ攻撃が当たらないか、気になりますか?」


「さぁ、勘が良いとか?」


「ほう、概ね正解です」


 ロマノフもナイフを逆手に持ち、錠前と鍔迫り合いを展開。

 火花が散る中、無表情で続けた。


「私は小さい頃から、身の危険を察知することに長けていました。ロシア軍に入ってからは、その感覚がさらに強くなった」


 あり得ない光景。

 今まで誰も見切れなかった錠前の鬼神ラッシュを、ロマノフは涼しい顔で捌くのだ。

 まさか、こいつ……本当に。


「私はそれを――――”危機察知能力”と名付けました」


「危機察知能力? 大層な名前だが不確実な勘じゃねーか!」


 口では余裕を取り繕うが、錠前の動きが目に見えて鈍くなっていく。

 最初に受けた傷が、動くたびに体へ負荷を掛ける。


「そう侮るものではありませんよ、現に……こうして君を追い詰めている」


「言うじゃん、ならこれを避けてみろよ」


 スリングで吊っていた銃を、ロマノフへ投げつける。

 相手はやはりそれも避けるが、錠前の狙いは別。

 腰の手榴弾を握り、ピンに指を掛けた。


「全方位破片の雨、さすがに避けれねーだろ」


 直後だった。


「その行動を待っていました」


「ッ!!」


 ロマノフは、持っていたナイフを錠前へ投擲。

 手榴弾を弾き飛ばした。

 彼はこれすら危機察知能力を使い、錠前の行動を事前に予知していたのだ。


 おまけに肉薄までの動きが速すぎて、手負いの錠前では追いきれない。


 ――――速すぎんだろ!!


 即座に腰の拳銃を抜いて、連続で発砲するがまるで当たらない。

 全ての攻撃が、撃つ前に察知されている。

 スライドが下がり切り、弾切れを起こしたと同時に、ロマノフは予備のナイフを握りながら錠前の背後に回り込んでいた。


「手練れの猛者すら赤子扱いする天才ソルジャー、防大最強の君が――――削り切れるこの瞬間が欲しかった」


 錠前は振り向いて反撃に転じようとするが、それがアダとなった。

 ロマノフがナイフのグリップ底部にあるスイッチを押すと、充填されていたCO2ガスで刃先が勢いよく発射されたのだ。

 時速80キロで飛翔したそれは、カウンターの途中だった錠前の胸に突き刺さった。


「がっ…………」


 ここに来てのギミック武器。

 口から吐血した錠前に、ロマノフは間髪入れずトドメを刺す。

 突き刺さっていたナイフを抜き、再度――――今度は確実に”心臓”へ叩き刺したのだ。


 地面へ倒れ、目を開いたまま動かなくなった錠前を確認し……ロマノフは血だらけのナイフを振った。


「日本勤務は平和ボケを起こしていけない……、これで少しは本調子になったかな?」


 防大最強、錠前勉の脈が――――ゆっくりと止まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「あー、びっくりした!」って起き上がればマカロニほうれん荘なんですがね。(さすがに古い)
そりゃ錠前も新海の能力気にかけるわ。
これが新海君の完成体…しかし錠前君だと自力で心臓止めて出血減らして隙狙うくらいはしそうw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ