第394話・ミッション完了
活動報告に漫画版が1話しか読めないとコメントを頂いたので、ここで回答。
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そして、この仕様を作者も知らなかった…………orz
錠前勉の進撃を止めることを、スペツナズは既に諦めていた。
中東、中央アジア、南アメリカで実戦経験を積んだ猛者揃いだったが、それも防大最強の男からすれば民間人と大差無い。
処理するのに1~2秒の遅れが出るだけだ。
「屋上でヘリが待機してる!! 少佐の指示通り撤退に専念しろ!! 俺らではアイツに勝てん!」
発砲しつつ、上階へ退避していくスペツナズ。
12階まで階段で進出した錠前は、既に30人以上のロシア兵を殺害していた。
人を殺すのは初体験だが、元々自衛隊を志していた身。
特に彼は、その異常な精神性から全く動揺していなかった。
「さてっと、結構サクサク来ちゃったけど……ガキンチョは無事かな?」
廊下を素早くクリアし、目的の部屋まであと僅か。
「おっ、やらしいねー」
歩いていた錠前が、不意にジャンプ。
その様子を、遠隔で監視していたロシア兵は驚愕した様子で見つめる。
「壁に埋め込んだ、不可視のレーザー地雷だぞ!! なんで見える!!」
廊下一帯には、自己完結型の小型レーザー・マインがびっしりと敷き詰められていた。
もし体が1ミクロンでも接触すれば、即座に破砕爆弾が爆発する仕掛けだ。
だが錠前は、持ち前のセンスで地雷の存在を事前に探知。
自分ならここに仕掛けるという予測だけで、全て回避してしまった。
まさに怪物。
古今東西、これに匹敵する兵士は……今ここに”1人”しかいない。
「露助さーん、お仲間撤退してったみたいだからさぁ。大人しく降参して女の子返してくんない?」
アサルトライフルを持ちながら、目的の部屋前に到着。
口ではそう言いながらも、照準を鍵に合わせ――――
「よっ」
返事を待たずに発砲。
ドアを蹴り開けた錠前を、待ち伏せていたロシア兵が迎撃。
「うおおおおおおぉぉぉおッ!!!
ナイフを持ったスペツナズ隊員が、走り込んで腕を振った。
しかし、錠前は恐ろしい勢いで体をしならせ、ダンスをするように回避。
ストックを用いた打撃を浴びせた後、その2名をアッサリ射殺してしまった。
まだ硝煙が燻る中、MK18のマガジンを交換。
視線を奥にあった椅子へ向けた。
「おっ、目標はっけーん」
そこには、手足をきつく縛られ、小さな口へ強引にロープを咥えさせられた久里浜千華が座っていた。
見た感じ、もう伏兵もいない。
彼女に爆弾が巻き付いているようでもなく、どうやらこれで終わりらしかった。
「はっ、拍子抜けだな。もう終わりかよ」
銃を下ろし、こちらを見つめる少女へ近寄った。
もっと怯えているかと思ったが、意外に平常なようだ。
まずは、苦しいだろうと思って口のロープを外した。
「んぇっ……」
長時間咥えさせられていたせいか、ロープを外した瞬間に口内へ溜まっていた唾液が溢れ出た。
口から洋服に垂れるそれを、とりあえず久里浜は腕で拭った。
「はぁー助かった。でも緊縛拘束か……、悪くなかったけど相手が趣味じゃなかったな…………」
「えっ、なんて?」
「なっ、なんでもないです! えと……お兄さん、自衛隊の人ですか?」
てっきり泣きわめくかと思っていたのに、なんというド級の図太さ。
今どきの小学生は皆こうなのかと強引に納得しつつ、錠前は久里浜を見下ろした。
「一応自衛隊、察してる通り助けに来たよ」
「お父さんとお母さんは……?」
「保護してる。お父さんは無傷、お母さんは1か月入院すれば元気になるってさ」
「ふぅ…………、良かった」
錠前の顔がいぶかしみで満ちた。
この少女、自分がいかに危険な状況だったかわかっているのだろうか。
全部理解した上でこのメンタルなら、間違いなく自衛隊に入れるだろう。
あとは半グレを片付けた真島、秋山と合流するだけなので、錠前は少女を抱きかかえた。
「えっ!? お兄さん!?」
「喋んないで、舌噛むよ」
直後だった。
消防用の窓ガラスに向かって走った錠前は、それを思い切り蹴り破った。
「お兄さん!! ここ12階!!!!!」
「うん、知ってる」
浮遊感に襲われながら、2人は高速で落下。
普通ならこんな選択、するわけがない。
しかし、錠前勉という男に常識は関係なかった。
久里浜を抱いたまま壁を蹴って、近い高さの屋上へ着地。
さらに勢いを殺すことなく、連続した超スピードの”パルクール”でホテルから遠ざかっていく。
任務は成功。
これで特戦の切符が手に入る。
3人の緊張感は、その瞬間から感じられないほど微小な”緩み”を発生させた。
「おっ、勉。その子が例の」
「へー、やっぱご令嬢さんだったんだ。っていうか、人抱いてパルクールでここまで来たの? きめー」
合流地点では、半グレ事務所を木っ端みじんにした真島と秋山が待っていた。
後は、ここから数キロ離れた回収地点に彼女を連れて行き、特戦に渡せば完了だ。
久里浜を下ろした錠前は、「二度とやらん」と返す。
「本当にお疲れ、勉」
笑顔を見せる真島。
それに答えようとした時――――
「は…………?」
「え…………?」
真島と秋山の目は、信じられないものを見る。
錠前の胸から、1本の長いナイフが伸びていたのだ。
血が刃先から落ちる。
刀身は、明確に背中から貫通していた……。
「任務成功の緩み、人質救出の喜び、憧れの切符のゲット……待っていたよ。天才の君が油断する”ほんの1ナノ秒”を」
錠前を背後から一突きで貫いたのは、ロシアで”最強殺し”の異名を持つスペツナズ大隊長。
――――ロマノフ少佐だった。




