第390話・ヘッドハンティング
「防大2年、錠前っす」
「同じく秋山」
「真島雄二と申します、よろしくお願いします」
ふんぞり返る者、無関心な者、一応お辞儀する者。
性格が出たそれぞれの挨拶に、城崎小隊長は満足気に頷く。
「よろしく。君らの噂は”中央即応集団”まで届いていてね、どこかで一目見ておきたかったんだ」
ニコニコとした笑顔だが、これが表向きに過ぎないのは誰もが知っている。
特殊作戦群は、文字通り日本最精鋭の部隊。
公開できない事案を、裏で米軍と共同でやっているというのは一度は聞く噂。
眼前の男は、間違いなく人を殺した経験がある。
そんな城崎の言葉に、錠前は足を組みながら返した。
「ウィンドウ・ショッピングに来たんなら帰りなよ、ウチは銭の無いヤツに出す商品ねーから」
「おい錠前!!」
そんなプレッシャーなど、この3人には関係ない。
四条3佐が即座に叫ぶが、城崎は笑いながら応答する。
「あっはっは! これは失敬、じゃあ早速本題から入らせてもらおうかな。安心してくれ――――冷やかしじゃない」
そう言って、城崎2尉は近くに置いてあったケースを差した。
「もう聞いてるかもしれないけど、俺は今回君らのヘッドハンティングを任された。ここと幹部候補生学校を卒業したら、そのまま特殊作戦群に入隊するルートを持ってな」
1枚のパンフレットが机に置かれる。
そこには、部外秘の募集広告が載っていた。
「へー、嘘じゃないみたいだね」
パンフレットを手に取って、呑気に眺める秋山。
「信じてもらえたかな?」
「でも何か条件があるんでしょ?」
「あぁ、もちろん」
返してもらったパンフレットを、城崎は――――
「「「?」」」
唐突に、ライターで炙り始めた。
気でも狂ったのかと思ったが、4人は果汁を用いた古典的な隠蔽技術を思い出す。
火で温められた白紙の部分に、”パスワード”が浮き出て来たのだ。
『catastrophe』
浮き出た英字に、真島が反応した。
「聖杯?」
「あぁ、特戦で現在欠番中のコールサインだ。”絶対的破滅”を意味するこの名前に相応しい者がまだいなくてね、今ではただの暗号代わりだ」
そう言って城崎は、バッグからノートPCを取り出した。
完全にネットから遮断された、オフライン専用の端末だった。
「選択を与える。君たちはここでの話を無かったことにして、今まで通りの日常に帰ることができる。だがもしこの任務を受ける意思があるなら――――」
画面が3人に向けられる。
既にフォルダにアクセスされており、入力画面が出ていた。
「このパスワードを打ち込んでくれ、そしたらあそこのガンケースを君たちに渡してあげよう」
これはただの勧誘じゃない。
最強の特殊部隊による、直々のヘッドハント。
あまりにも急すぎる。
四条3佐は、一旦考える時間を求めようとして……。
「そんなの」
「当然」
「決まってんじゃん」
四条が制止するよりも早く、錠前がパスワードを素早く入力。
勧誘の扉を、思い切り蹴り開けた。
「……良い返事だ、交渉は成立だね」
ニッコリと笑う城崎。
「言っとくけど俺ら最強だから、生半可な任務だったら逆にガッカリしちゃうかも」
据わった目の錠前に、城崎もすぐさま応じる。
「もちろん……約束通り詳細を話そう。四条3佐、すみませんが一旦離席をお願いします」
「…………わかった」
言われた通り、退室する四条。
その後ろ姿を見送ってから、錠前が前のめりになる。
「で? 天下の特戦さんが俺らに何を頼むんすか?」
「あぁ、解凍されたフォルダに写真が入っているだろう? 中を見てくれ」
マウスを動かし、ダブルクリック。
展開されたデータは、数枚の画像だった。
画質は荒いが、それがまだ小学生の幼い少女だというのはわかった。
「今回の任務は、この少女の救出だ。相手は――――ロシア最強の特殊部隊。”スペツナズ”」
城崎は本編9話で出てきたキャラです。
マンガ版でも近く、登場予定です




