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第388話・問題児3人、ただし最強

青が棲んでいる

 

 ――――西暦2015年、神奈川県 横須賀市。


 昔から軍港として栄えるこの街は、自衛隊にとって特別な場所だ。

 港には最近就役したばかりの、ヘリコプター搭載護衛艦『いずも』が入港してきている。

 この艦は対潜警戒を強化した、ひゅうが型の発展。


 一部のミリオタ達が空母化できるなどと言っているが、そんな予定は防衛省の発表では無い。

 日本は空母を持つべからず、敵地攻撃兵器も持つべからず、周辺国へ謝罪を行うべき。

 それが一般論だった頃。


 まだ世の中にそこまで配信という概念も無いこの時代で、7月に入った暑い青空の下……。


「なぁ姉ちゃん、これから俺らと一杯行かない?」


「おいおいあんま迫んなって、怖がったらどうする」


「そういうお前もノリノリだなぁ、久々の休暇なんだ……テンションも上がるだろうよ」


 ドブ板通りに近い路地で、1人の綺麗な少女が英語で絡まれていた。

 茶髪をショートヘアにした、Tシャツに短パンというラフな私服の彼女は――――


「あー……、そういうの間に合ってるんで。っていうか米兵さんでしょ? こういうナンパ超えたことしてへーきなの?」


 流暢な英語で返す。

 少女の抑揚が無い声に、2メートル近い米兵3人は笑った。


「夜はMP(警務)が出張って好きにできないから、こうして昼間に誘ってんじゃん?」


「良いから来いよ、君の喘ぎ声聞きたいぜ」


 周囲には誰もいない。

 普通なら恐怖で泣いてもおかしくない場面だが、その少女は紙パックのジュースを呑気に飲む。


「ふ〇っくヤンキー、ゴーホーム」


 あえて日本語口調で、煽り散らかす。

 少女の予想外の行動に、舐められた米兵は額に血管を浮かべた。


「このガキはどうも遊んで欲しいらしいな」


「おいおい、少しは手加減してやれよー」


 日米地位協定は、まだこの時代だとモラルに効果を発揮できていない。

 米兵が何か事件を起こしても、アメリカ太平洋軍がもみ消して終了。

 この少女も、そんな犠牲の1人になるかと思った矢先――――


「がっ!?」


「ウゴッ!!?」


 突然飛んできた神速の打撃で、2人が吹っ飛ぶ。

 残った米兵も困惑した状態で振り返るが、もう遅かった。

 顎の下から強烈なアッパーを食らい、そのまま昏倒してしまった。


 一連の攻撃を浴びせたであろう長身の男が、少女の前で二ッと笑う。


「助けに来たよー美咲ぃ、泣いてない?」


 紺色の学生服に身を包んだ男。

 防衛大学2年生――――錠前勉が、爽やかかつイケメンな笑顔で手を振った。


「泣いてない、っつーか余計なお世話ってわかんない? わたし1人で十分なの知ってるでしょ」


 ジュースを飲み終わった、同じく防衛大学2年――――秋山美咲は空箱をポイ捨てしながら返す。

 そんな2人の様子を、かろうじて意識を保っていた米兵は見上げようとして、


「ぐほっ!!」


 トドメを刺された。

 上からハンマーのような蹴りを入れた強面の男が、ポケットに手を入れながら錠前へ諭すようにして喋った。


「おい勉、あんま美咲を過保護にすんな。別に助けなくたってどうにかなったろ」


 防衛大学2年――――真島雄二が、不機嫌そうな顔を向けた。


「はっ、そういうお前もついて来てんじゃん。寂しんぼか?」


 煽る錠前に、真島が睨み返す。それを見てため息を吐く秋山。

 そんな3人は、現在19歳の学生。

 青春を謳歌する、春の時代だ。


「ところでさ、この米兵どうすんの? ここに置いとく感じ?」


 足裏でグリグリと踏みつけながら、錠前がつぶやく。


「そういうわけにはいくかよ、匿名で米軍に通報だ」


「ったく、他所様の土地で好き勝手やりやがって……通報終わったらサッサと帰ろーぜ」


 公衆電話を探す錠前と真島に、私服姿の秋山は気になることを喋った。


「ねぇアンタら、当たり前のようにここにいるけど――――”授業”は?」


 ◇


 ――――防衛大学内、教室。


 木製の床の上で錠前、真島、秋山の3人は正座させられていた。

 眼前には、迷彩服を着た猛者オーラの自衛官。


「またお前らか、授業を勝手に抜け出して遊びに行ったのは……。挙句に街で米兵を叩きのめしたと聞く、誰がやった?」


 この問いに、反省の色など欠片も無い錠前が楽しそうに返す。


「地位協定を盾に好き勝手やってたバカをのしただけっすよ、“四条先生“」


「錠前だな?」


 そこまで言って、四条と呼ばれた自衛官は腕を振り上げ――――


「あだっ」


 彼の頭に、指導(げんこつ)を浴びせた。


「錠前、真島、秋山! どうして貴様らはそう問題行動ばかり起こす!! 罰として体育館を俺が良いと言うまで掃除しろ!!」


 これは、ある3人の学生が送った青春。

 そして、後年で第1特務小隊が結成されるまでのお話である…………。


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― 新着の感想 ―
防大のカリキュラム知らないんすけど、制服ということは二人はサボリと分かるんですよ。私服?コマ割り自由なの?サボリどころかズル休み?防大生と分からないようにしてるなら美咲が一番たちが悪い 米兵「彼女が…
青春してる! まだ昏倒するだけに留めてるなんてまともだ。てっきり玉ヒュン(物理)するのかと思ってた。
コイツらは誰もメロンパンにならないから今でもまだ澄んでいる(外敵への殺意込みで)
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