第387話・四条陸将
––––ユグドラシル駐屯地、射撃場。
乾いた銃声が数回響いた。
飛翔した5.56ミリ弾は、的として提げられていたスチールプレートを小気味良く鳴らす。
「おぉ、300メートル……アイアンサイトなのにちゃんと当てるんだな」
そう感心した様子で喋った透の目の前には、20式小銃を構えた美麗な女性自衛官。
「まぁ、これでも89式を使っていた時期の方が長いし……。むしろ、ドットサイトって使いづらくない?」
耳栓にゴーグル姿の四条が、銃にセーフティを掛けながら振り向いた。
「俺は入隊した時点で20式を渡されたからなぁー、一応アイアンサイトでの訓練もやったけど、戦闘だといつもドット付けてる」
「時代ね……、わたしのパパの頃は64式ばかりだったらしいし」
唐突に出てきた父上の存在、透はビクリと震えた。
「そ、そういえばなんだが衿華……。俺らの関係って、お父様には話してんの?」
四条衿華の父は、陸上総隊トップを務める陸将だ。
防衛大学を主席で卒業し、その後はあらゆる功績で一気に昇格。
家庭では彼女を優しくも厳しく育てた、まさに自衛官の鑑のような存在。
「まだ話してない」
「なっ、なんで……?」
透の問いに、四条は顔を赤くした。
「久しぶりにした連絡が、透と肉体関係を持った……なんて内容だったら、絶対パパに殺される……。わたしも透も」
2人の顔がドンドン青くなる。
後悔先に立たずというか、改めてかなりヤバいことをしたなと実感。
四条陸将は、その厳格さと威厳であらゆる自衛官にとって尊敬の対象であり、同時に畏怖の対象でもある。
彼女が滅多に連絡を取らず、話題を出さないのも……父と距離を置きたいという理由があってのもの。
「パパは昔から過干渉で、わたしの自衛隊入隊にも反対してた……。ダンジョン派遣任務に選ばれた時は、不在着信が50件も来てた……」
どんよりした表情で、当時を振り返る四条。
まぁ確かに、大事な1人娘が未知の戦場に行くとなれば、親心として不安にもなるだろう。
「まぁ、その節は錠前1佐が電話1本で済ませてくれたけど……」
「陸将を電話1本……、改めて思うが、錠前1佐ってとんでもないな」
椅子に座った透が、ふとマガジンに弾を入れようとした時––––
「僕の何がとんでもないって?」
背後から掛けられた声に、透は悲鳴を上げそうになる。
振り向けば、そこにはサングラスを着けた現代最強の自衛官––––錠前勉が立っていた。
「驚かさないでくださいよ……、いるなら言ってください」
「ごめんごめん、ちょっと暇になったから歩いてたら見つけたもんで」
そう言って頭をかく錠前。
相変わらず軽薄だが、これでも自衛隊ではイレギュラーな存在。
透は1つ質問をしてみた。
「錠前1佐は、四条陸将についてなんか知ってるんですか?」
彼は第1特務小隊のトップであり、その指揮系統は防衛大臣直轄という変わったもの。
しかし、さっきの四条の話から何か繋がりがあるのではないかと思ったのだが。
「あぁ、四条陸将は僕が防大の学生だった頃”教師”だったんだ」
「「ッ!!?」」
錠前1佐が、四条陸将の教え子。
一体なにがどうなれば、そんな巡りあわせになるのか全くわからない。
四条の方も、かなり驚いているようだった。
「父からはそんな話、一度も聞いたことありませんでした……」
「そうなの? 相変わらず仕事の話を家庭に持ち込まないんだね」
ケタケタと笑う錠前。
どうやら、ただの教え子というわけでもないようだ。
「そうだ、せっかくだから2人に教えてあげるよ。――――今から10年前のこと、なんで四条2曹がこの小隊に抜擢されたかも、わかるはずだ」
椅子に座った錠前は、少し上を向いて……かつて人生で一番楽しかった思い出を遡った。




