第383話・保護者たちの歓談
――――1週間後、ユグドラシル駐屯地。
上海消滅、それに伴う反乱軍の壊滅は中国最後の抵抗が虚しく消えた瞬間でもあった。
もはやかつての偉大な超大国の姿は無く、日本国内に潜伏していた諜報員も支援が断ち切られていた。
『おい新海透、テオドールちゃん達はちゃんと飯食ってんだろうな?』
出張から帰って来た錠前に借りた衛星電話。
そこからは、まるでおせっかいな親戚のような言葉が飛び出してくる。
「大丈夫ですって真島さん、配信見てますよね? 親代わりなんですから飢えさせませんって、そこは四条も同じですよ」
そう電話越しに言ったのは、女子寮へ向かう途中の透だった。
通話の相手は、公安外事課第3係……今回の東京旅行でお世話になった錠前の親友。
――――真島雄二だった。
『なら良い、彼女らは成長期だからな。今まで欠食だった分しっかり食わせてあげなきゃならん! でも自衛隊の飯は高カロリーなんだから、ちゃんと運動させろよ』
「そこも抜かりなく、っていうか真島さんこそ良いんですか? 平日の昼間っすけど、外事課の係長ともなれば公務が忙しいんじゃ?」
『あぁ、確かに忙しいな。先日も中国と北朝鮮の合同事務所を叩き潰したところだ』
「電話する暇無いんじゃないっすか?」
『書類は暇そうにしてた氷見へ押し付けた、問題ない』
大アリだろうと思ったのは内緒。
中国が国家として崩壊したことで、国内の残党スパイも本格的に炙り出しが始まっていた。
これまでの功績から、その筆頭として真島のチームが全国に派遣されているのだ。
さすがに錠前の親友ということもあり、銃が使用できない住宅街ですら、近隣住民に悟らせず体術のみで数十人を圧倒している。
『手ごたえの無い連中だよ、こんな退屈ならそっちで新海3尉と組手をした方が楽しいくらいだ』
「勘弁してください、俺はただ勘がちょっと良いだけの普通の人間です」
『お前が普通…………? まぁ言いたいことは色々あるが、ひとまず後だ。今回の出張で新潟に行ったからお土産を買っといた』
通話越しに、真島のテンションが上がるのを感じる。
『新潟土産の鉄板と言えば笹団子だからな! 執行者ちゃんたちはまだ食ってないだろ?』
「まぁそうっすね、存在すら知らないと思います」
『もう勉経由でダンジョンに送っといたから、明日には届くはずだ。なんと言っても笹団子は和菓子の中でも王道、だが工夫が面白いユニークな菓子だ。今回はこしあんにしといたが気に入ったらつぶあんも買う! とにかく、配信――――楽しみにしてるぜ』
それを最後に、通話が切られる。
「また真島さんから? 最近多いね」
隣で歩いていた恋人の四条が、美しい黒目を向けた。
その口調は、2人きり時限定の砕けたもの。
「今週で3回目だな、これじゃあ親戚のおじさんだぞ……」
「フフッ、それだけあの子たちのことが好きなんだと思うな。それに、透だからあんなに気さくに話せるのかも」
「俺よりも錠前1佐の方が仲良いだろ」
頭をかきながら返す透に、理解の深い彼女は人差し指をクルリと回す。
「だからこそなんじゃない? 錠前1佐は子供のお世話苦手って言ってるし、公的に扶養に入れてるのはわたしと透。だから体調の確認はこっちって認識なんだと思う」
「その辺は親友なのにドライだな」
「むしろ、透の方が真島さんや秋山さんに好かれてるかも」
「それはねーだろ、買いかぶり過ぎだよ」
しかし、当てはまるのも事実。
確かに秋山はベルセリオンのことを、四条と同じ頻度で透にも聞く。
現に今も、真島の応対は彼がメインだ。
そのことがわかっているのか、四条は柔らかく笑った。
「透は不思議な魅力があるから、みんな話しやすいんだと思うな。さすが日本の英雄」
「それ恥ずかしいからやめろって、ほら! もう寮につくぞ」
今日は日常となりつつある、執行者のお勉強タイムのためにやって来たのだ。
前までは多大な尋問によって時間が潰れていたが、最近では情報を全く引き出せていない。
そこで、透は上層部に提案した。
「これ以上の尋問は時間の無駄と考えます。子供の仕事は聴取ではなく、食う事、遊ぶこと、そして勉学です」
確かに、もう打てる手は出し尽くしていた。
催眠療法も効果が無かったため、最近は惰性でやっていた面もある。
何より、ここまで協力的な子たちをこれ以上疑う必要も無い。
1か月前は、東京の危機すら救ってくれた。
よって提案はスムーズに承認。
尋問に当てていた時間は、現在お勉強と遊びに使われている。
「衿華、今日はどの範囲だっけ」
「先週が中一の物理と数学だったので、今日は同じく公民と社会を2時間。あとは夕食まで自由時間です」
「翻訳魔法があるから、国語と英語の必要が無い…………っていうか意味無いのがまだ救いか。これなら同年代の学力にすぐ追いつけそうだ」
そこまで言ったところで、目の前の女子寮から――――
「ふぇえええええええ――――――――!!!!!??? 誰かぁ!! 助けてぇッ!!!」
執行者ベルセリオンの、ガチ悲鳴が飛び出て来た。




