第380話・アノマリーVSアノマリー②
「やるなッ!!!」
サングラスを捨て、紅く輝く魔眼を開放した錠前は大変嬉しそうに叫んだ。
巨大ビルを破壊しながら突っ込んできたベヒーモスに対し、空中に飛び出して迎撃。
マッハで互いの拳がぶつかった瞬間、爆弾の炸裂にも等しい衝撃波が飛び散った。
「僕に一発入れたのは雄二と美咲以来だ! せっかくの機会――――楽しませてくれよ!?」
ベヒーモスの拳を、空中で受け止める。
1発、2発、10発、50発、浴びせられる打撃の雨はその全てがソニックブームを伴った速度。
しかし、錠前は涼しい顔でそれら全てを手で止めてしまう。
2人から発せられた衝撃波が、何重にもなってビル街を破砕。
建物の中の人間ごと、崩落でミンチにしてしまう。
「そーら!!」
錠前のカウンターが決まる。
空に吹っ飛んだアノマリーへ、瓦礫を足場に跳躍。
手近なオフィスビルへ押し付けるように叩きつけた。
突然壁を破って突っ込んで来た怪物達に、中の人間はパニックとなった。
「なんだこいつら!!」
「ば、ばけも――――」
要塞化して陣取っていた解放軍兵士は、そのまま飛んできた不可視の斬撃によって両断される。
「やはり結界の上からでは効果が薄いな!」
浅い傷口を見て、距離を詰めた錠前はベヒーモスの腹部へ両手を当てた。
「じゃあ内部をぶっ壊してやるよ」
恐ろしい笑顔で、規格外な出力の魔法が発動される。
――――ドドドドドドドドドドドドドドドッッッ――――!!!!!!!!!!
触れた手から直接、斬撃を体内へ送り込んだ。
60連発にもおよぶ攻撃を食らい、ベヒーモスはよろけるが……。
「ッ!!」
倒れるどころか、凄まじい速度で反撃。
振り下ろされた拳の威力が高すぎたのか、今いるビルも基盤が木っ端みじんにされた。
崩れ行く建物の中で正対しながら、錠前は思考を巡らす。
――――おかしいな……、今の攻撃で確実にヤツの生命維持で必要な臓器を破壊した。なのにピンピンじゃん。
こちらを見つめるベヒーモスは、傷を”肉体反転”で治しながらニヤリと笑った。
特に言葉は無い、必要もないのだろう。
意味だけを理解した錠前も、同じく笑った。
「アノマリー同士が戦うとこうなるのか、良いね……ドンドン上げてこう」
◇
「ッ…………!! はぁ、はぁ!!」
いきなり始まった訳のわからない事態に、劉中将は混乱していた。
周囲には両断された部下たちが転がっており、生存者は自分しかいない。
焼け焦げた路上に出て、なんとか仲間を探そうと見渡す。
「えっ……」
それは、地球上において信じられない光景だった。
上海を彩る高層ビル群が、”宙を舞っていた”のだ。
まるで木の葉のように、大質量物体が吹っ飛ばされているのだ。
「何が…………起こっているんだ?」
ビル群が落下を始めたと同じ頃、錠前とベヒーモスはさらに激しくデッドヒートを行っていた。
商業ビルの屋上に立った錠前が、両手に魔力を集中させる。
さっきから、全ての魔法攻撃がほぼ効いていない。
ならば――――
「”虚空”、”永劫”、”星海の律動”――――」
時短のため本来省く詠唱を敢えて行い、出力を大幅に向上。
空中から突進してきたベヒーモスの一撃を横にかわし、人差し指を首へ向けた。
「『絶』」
相手の首から、大量に血が噴き出した。
『魔装結界』による防御に”適応”した錠前の一撃は、ベヒーモスの頭部を胴体から切り離した。
「…………?」
その場で倒れ込んだベヒーモスに近寄りつつ、ポケットに手を入れる。
「リヴァイアサンは首を落とされて死んだ、けどこいつ――――」
直後だった。
胴体だけのベヒーモスが起き上がり、錠前を横合いから殴りつけたのだ。
次元防壁でガードするが、ギャリギャリと音を立てて削られていく。
とんでもない結界中和能力、ここまでの相手は本当に初めてだった。
「やっぱりか、お前……適応進化以外にも、なんかやってるな?」
錠前の問いに、頭部を一気に再生したベヒーモスが笑った。
「だとして、お前に策があるのか?」
「そう焦んなって、僕はお前をどう調理してやろうか悩んでんだよ」
「なら貴様が挽肉になれば良い」
「アノマリーは不味いぜ?」
浮き上がっていたビル群が落着。
激しい衝撃と音を立てながら破砕され、上海市内に展開中だった兵士へ直撃。
降って来た巨大な瓦礫によって99式戦車部隊が潰れ、逃げ惑う兵士たちも虫のように死んでいった。
アノマリーVSアノマリーの戦いは、あまりに次元が違った。




