第375話・エクシリアの初配信!
本日の昼食はキーマカレー。
「もう大丈夫」
そんな透の言葉を信じて、四条は配信用のカメラを持ってきていた。
無事に食堂まで着いた一同を、出迎える茶髪の少女が1人。
「あっ、隊長!」
見れば、ちょうど同じタイミングで食堂に久里浜が入って来た。
治癒魔法の効果で、新宿戦の傷は1つも残っていないようだった。
「おう、お疲れ。なんだ――――トレーニングでもしてたのか?」
「はい! そこに突っ立ってる木偶の坊を今度はフィジカルで圧倒できるように、しっかり鍛えないと!」
指を差されながら煽られた坂本が、プッと吹き出す。
「いくら鍛えてもベッドだと雑魚じゃん、その胸と同じく成長の見込みゼロだよ」
「殺すッ!!」
いつもの取っ組み合いを始める2人。
もうこの光景が当たり前になったのか、他の自衛官も暖かい目で見ている。
とりあえずそんな喧嘩ップルは置いておいて、残りのメンバーは食事を貰いに行った。
「わっ、このカレーは初めて見ます……!」
トレーを持ったテオドールが、金色の瞳を輝かす。
黄色いお米の上に、斬り刻まれた牛肉の混じったカレーが乗せられている。
さらに豪華なことに、お好みで温玉までセットだった。
「はえぇー、凄く良い香りねー」
テオドールの頭に座ったエクシリアが、涎を垂らしそうになる。
「おい見ろよ、1特が来たぞ」
「ほれほれ全員! カメラの外行けー! 配信するみたいだぞー」
食事中だった陸曹長や陸曹などのベテランが、すぐに察して隊員たちを視野外へ移した。
その手腕は、さすがに叩き上げの自衛官。
透たちはその好意に謝意を述べると、ありがたく配信の準備を行う。
ユグドラシル駐屯地では、こうして配信に全面協力するのが常。
別に上からお達しが出ているわけではないのに、隊員たちが自主的に動いてくれているのだ。
その好意に応えるべく、第1特務小隊は業務を開始した。
「では、配信を開始します」
四条の言葉と同時に、カメラのスイッチが入れられた。
インターネットに乗って、執行者2人の姿が世界中に流れる。
【ゲリラ配信キター!!】
【あれ? テオドールちゃんの頭になんかもう1人いね?】
【人形だろ、いくらなんでも小さすぎる】
早速コメント欄がエクシリアに反応。
だが、ここで透がカメラに入り込んだ。
「今日は新メンバーの紹介配信だ、彼女はエクシリア。訳あって今はこんな見た目だけど、俺たちに協力してくれることになった執行者だ」
透の言葉に続く形で、エクシリアが口開いた。
「そういう事よ、これからよろしく」
3頭身少女の姿は、世界中に強烈なインパクトを与えた。
【なんだこの子可愛いいいいいい!!!!】
【テオドールちゃんの頭に乗ってんの萌える!! 親子亀か????】
【よろしくぅぅぅううう!!!!!!】
予想通りの大反響。
同接数は一気に跳ね上がり、1億人を突破してしまった。
ただでさえ魔性の可愛さを持つテオドールの上に、こんなマスコットが乗っているのだ。
こうなるのは必然。
胸の内に若干の心配を抱えた四条だったが、戻ってきた透が話しかけた。
「大丈夫、むしろエクシリアの存在を公開するなら……多分今しかない」
「どういうこと?」
「中国が無力化されて、それを見た北やロシアももう手出しはしないだろう。おまけに世間は戦争の話題で疲弊気味……この状況なら好意的に受け止める人が多い」
「あっ」
言われて気づく。
彼女を隠したのは、人気もそうだが第3国から守る意味もあった。
だが、枢軸連合が実質崩壊した今、エクシリアを強奪しようとする勢力はもう天界しかいない。
その天使も、現状の戦力で打倒は可能。
もうエクシリアを隠す必要性は薄れていた。
「そもそもエクシリアは今ダンジョンから出ないしな、本体も自衛隊の施設だし。公開しても大丈夫だろ」
そんな透たちの前で、いよいよ2人の執行者が食事をしようとしていた。
「師匠の分はこちらです」
小皿に自分のカレーを取り分けるテオドール。
【師弟関係だったんだ】
【チビ師匠可愛い!!】
【マジで癒し、最近鬱な話題ばっかりで疲れてたんだよ】
透の目論見は、やはり当たっていた。
「では、いただきます」
「いただくわ」
緊張の一瞬…………。
2人が揃って、キーマカレーを頬張った。
本日の味付けはピリ辛ニンニク風味。
強烈な味覚のボディーブローを食らった執行者2人は、しばらく堪えた後――――
「ほえぇ……っ」
「はぇええ!?」
お約束の鳴き声を出させられた。
明日、マンガ版更新日です!!
活動報告にコミカライズ版の感想板を用意しているので、お気軽にコメントください




