第372話・北京9ヶ条
「どういう事だ!! 何が起こっている!!」
福建省の空軍基地では、地上に降りたパイロットが整備兵を怒鳴りつけていた。
それもそうだろう、さっきまで正常だった愛機が、文鎮のように動かなくなってしまったのだから。
原因は、空に映るオーロラだった。
「で、電子機器が全て焼かれています! おそらく、EMP攻撃かと」
「そんなはずあるか!! EMPならちゃんと防護処置をしている!! 怠慢じゃないのか? 早く飛ばないと敵の侵入を許すぞ!!」
最後に聞いた無線では、連合軍の大艦隊が中国沿岸部にまで押し寄せていると騒がれていた。
ここまで本土に敵の接近を許すのは、あの忌々しい日中戦争以来だ。
解放軍は侵略に特化した軍隊として育てられたため、防衛戦でそのスペックを全く活かせなかった。
とにかく、1秒でも早く迎撃に――――
「て、敵襲!!! 基地上空に敵機侵入!!!!」
「ッ!!?」
大音量の空襲警報が、福建省全域に響き渡った。
「海軍は何をしてるんだ!!! 他の機体もどうなっている!!」
「ダメです! さっきのEMPで地対空ミサイルも完全に無力化! 迎撃手段がありません!!」
「泣き言はいい!! ミサイルがダメなら基地警備隊の自動小銃と機関銃、ロケット砲を持ってこい!!」
旧日本軍の竹やりにも匹敵する悲惨さで、解放軍は迎撃態勢に入る。
その上空では、連合軍の戦爆連合編隊が飛行していた。
「各機、攻撃開始。二度と基地が使えなくなるまで徹底的に潰せ」
B-52ストラト・フォートレス戦略爆撃機およそ12機から、雨のような数の2000ポンドJDAM-ER航空爆弾が投下された。
正確に誘導されたそれらは、格納庫や管制塔、駐機中の機体や滑走路を絨毯爆撃で燃やし尽くしていく。
「怯むなぁ!!! 撃てぇッ!!!」
高度10000メートルを飛ぶB-52に対して、中国兵はアサルトライフルで反撃。
当然であるが、当たるわけもない。
果敢な兵士たちは、やがて落ちて来た爆弾によって全滅。
基地にあった全ての軍用機は、無慈悲に粉砕されてしまった。
――――中国・青島海軍基地。
原子力潜水艦が多く停泊する、中国海軍東海艦隊の本拠地であるここにも、連合軍は殺到した。
EMPによって全ての艦船が動かなくなった今、大事な水上ユニットは完全な的だった。
「さぁ諸君、射撃演習よりも簡単な任務だ。1隻も残さず殲滅するぞ」
英国海軍艦載機部隊、および航空自衛隊のF-2戦闘機合計56機が襲来。
解放軍は、なんとかして基地を守ろうと、自動小銃や旧式の対空砲を持ち出す。
「爆弾投下」
F-2の機体に搭載されたIRカメラの先で、500ポンドJDAM-ERが次々と命中。
なんの抵抗もできずに、中国海軍東海艦隊の残存艦艇が、炎上……大破着底していく。
「連合軍の野郎!! 好き勝手しやがって!!」
「撃て!! 撃て!! 1機でも良いから落とせ……うわぁッ!!?」
地上で決死の抵抗を行っていた兵士たちが、周辺の建造物ごと欠片も残さず吹っ飛ばされた。
英国軍のF-35Bが投下した、ハワードJSOWと呼ばれるクラスター弾頭ミサイルが直撃したのだ。
大量の高性能爆薬は、炸裂と共に基地の弾薬庫に引火。
巨大なキノコ雲を発生させると同時に、海軍歩兵の8割を死亡させた。
――――中国・大連沿岸部。
遼東半島にまで進出した連合艦隊は、がら空きとなった大連湾に接近していた。
こちらの投入戦力は、ミサイル駆逐艦が10隻、巡洋艦1隻、護衛艦8隻、フリゲート5隻。
海辺にいた民間人は、まるで鉄の壁が海にできているような絶望を味わっていた。
「攻撃目標は空母のある造船所だ、各艦――――旗艦の諸元に従い、効力射!!」
20隻を超える軍艦が、一斉に主砲を沿岸部に向け――――
「攻撃開始!!」
機甲師団を超える砲撃が、降り注ぐように大連市内を襲った。
127ミリ徹甲榴弾は、大連市内にあった解放軍の造船所を圧倒的な火力で消し炭にしていく。
爆発と暴虐が、つい昨日まで平和だった大連の大地を覆い尽くす。
「技長!! ここは危険です!! 離れてください!!」
砲撃の雨が降る造船所内では、作業中だった人間が逃げ惑っている。
「バカ野郎!! やっと、やっと俺たちは米国に匹敵する原子力空母を作り始めたんだぞ!! 俺の子供みたいなもんだ、離れられるかよ!!」
そう口論していた技師たちの目の前で、127ミリ砲弾が突っ込んで来た。
技師たちには当たらなかったものの、彼らが人生を賭けて建造していた004型航空母艦へ直撃。
鉄の悲鳴を上げながら、瓦礫の山へと姿を変えていった。
大連造船所への攻撃は徹底しており、艦砲射撃と平行してこちらもハワードJSOWによる爆撃を複数回実行。
最後にはトドメとばかりに、B-52爆撃機が2000ポンド爆弾を落とした。
空爆と艦砲射撃は連日連夜続き、中国は保有する全ての海軍艦船が轟沈、または大破着底。
空軍基地も大半が焼野原にされ、あれほど数を揃えた軍用機も爆撃と機銃掃射によって全て破壊。
海軍基地や造船所、各軍需拠点も熾烈な攻撃に晒され、もはやこの国に戦争を行えるだけの力は残されていなかった。
1週間にも及ぶ一方的な攻撃の後、連合軍は以下の条件での停戦を示した。
1・中華人民共和国は、行われている全ての軍事行動を停止すること。
2・中華人民共和国政府は、これまでの国際法に反した違法行為を謝罪し、今後完全な順守を実行すること。
3・中華人民共和国政府は、行われた違法行為の指示者を処罰し、速やかな謝罪を行うこと。
4・中華人民共和国は、国連常任理事から脱退すること。
5・中華人民共和国は、今後一切の軍事的示威、威嚇、恫喝行為を永劫的に行わないこと。
6・中国主要都市への連合軍駐屯を認めること。また、自治は中国政府が引き続き行うものとする。
7・尖閣諸島に対して、日本の領有を永劫的に認めること。
8・台湾への一切の示威行動、恫喝行為を今後一切行わないこと。
9・以上の条件を48時間以内に了承されなかった場合、連合軍は首脳部暗殺も視野に入れた攻撃を引き続き行う。
後の歴史で”北京9カ条”と呼ばれるこの案は、中国国家首脳部へ突き付けられた……事実上の最後通牒だった。
これを受けて、首脳部は各派閥ごとに激しく対立。
最終的に徹底抗戦を掲げた国家主席を側近が射殺し、臨時主席が停戦案を承諾。
––––戦争は終結した。
同時に連合軍の強襲揚陸艦から、陸軍や海兵隊が上陸を開始。
”上海以外”を、実行占領することに成功した。
これにて戦記シーンは一旦終了です、お疲れ様でした。




