第370話・壊滅……中国人民解放海軍
連合軍の猛攻は、中南海の想定を遥かに超える規模で行われていた。
まだ攻撃開始4時間にも関わらず、沿岸部のレーダー基地は火の海。
1個打撃艦隊が、大量の溺死者を出しながら轟沈。
虎の子だったデュアルバンドレーダー搭載機も落とされ、いよいよ本土の防衛に穴が穿たれて行った。
「火器管制!! 復旧まだか!!」
「ダメです! ECCM(電子戦対抗)を続けていますが効果は無し、索敵レーダーの探知能力も大幅に低下しています」
「なんとかしろ!! 台湾海峡を突破されたら、沿岸部は壊滅する!! 俺たちが最後の砦なんだ」
「しかし、現代ですよ? さすがに民間都市への攻撃は行われないかと……」
055型イージス巡洋艦の艦内では、グラウラーのジャミングへ必死に対抗が行われていた。
未だ呑気な一人っ子政策で生まれた若造に、砲雷長が声を低くする。
「いいか、これはもうれっきとした戦争なんだよ。俺たちは日米を怒らせ過ぎた……もう昔のような臆病国家を相手しているんじゃないんだ」
台湾南方に展開していた中国海軍南海艦隊は、まさしくパニック状態に陥っていた。
先頭に055型イージス艦を据えた24隻の艦隊は、空母『福建』と合流しようとしている。
最大戦速で走り続けるが、現実に容赦は無かった。
「アラート検知!! 対艦ミサイル接近中!! 距離、5000!!」
「近すぎる……!! おそらく米軍のL-RASM、もしくは自衛隊のJSM対艦ステルスミサイルだ!! 近接防空!!」
グラウラーのジャミングと、ステルスミサイルのコンボは強烈だった。
イージス艦の得意を発揮させることもままならず、なし崩し的に主砲、機関砲、短距離ミサイルによる迎撃を開始。
だが、とてもではないが落とせたものじゃない。
数十発のミサイルが、海面スレスレで急接近していた。
「CIWS、弾幕を展開しろ!!!」
「ダメです!! ECMにより照準が定まりません!! ちょ、直撃する…………!!!」
まず、先頭を航行していた055型イージス巡洋艦に4発が命中した。
続いてガトリングを撃ち続けていた、フリゲート艦多数にも一斉に着弾。
艦体を4分割にされ、中から悲鳴を上げて水兵が海へ落下。
傾いた艦にしがみつき、ある者はそれでも必死に救命ボートを下ろそうとするが……
「だ、第2波、弾着します!!!」
首都を爆撃され、国民を害された自衛隊に慈悲は無かった。
後続で発射されたF-2戦闘機のASM-2対艦ミサイルが、既に戦闘不能の中国艦隊へ襲い掛かる。
まだ無事だった艦橋が吹っ飛ばされ、VLS直下の弾薬庫に被弾。
艦にしがみついていた人間ごと、昼間かと勘違いするような爆発で消し飛ばす。
艦艇喪失数24隻。
生存者は、僅か数十人だった。
同様の攻撃は米英により台湾以北でも行われており、こちらも艦艇22隻全てを轟沈。
死者は数千人に昇っていた。
だが国際社会は、誰も連合軍を責めないだろう。
なにせ先に仕掛け、死者を出させたのは他でもない中国だったからだ。
空いた世界経済の穴埋めは、発展した日本が代わりに行う。
もう中国に味方をするメリットも世界に存在しない。
中国は外交を捨て去った結果、その血肉でもって代償を払うこととなったのだ。
「司令官!! これ以上台湾海峡に留まるのは危険すぎます!!」
「わかっている! 最大戦速!! 本艦隊だけでも南シナ海へ退避する!!」
空母『福建』率いる10隻の艦隊は、グラウラーの強烈なジャミングの下––––なんとか戦闘海域から逃げ出そうとしていた。
もう友軍がどうなっているかもわからないこの状況では、これが最善の選択。
敗北の味を無理矢理味わわされ、いずれ復讐してやると艦長は歯ぎしり。
だが、そんな激情も現実は無情に引き潰してくるのだ。
「ッ!! 飛翔体接近!! 本艦左舷3000に着弾します!!」
「なんだと!?」
いくつもの水柱が、『福建』艦隊の周囲を覆った。
ミサイルではない、これは––––
「確認しました!! 台湾西岸部からの砲撃です!!」
「台湾だと!? 臆病なアイツらは中立を宣言したんじゃなかったのか!?」
「間違いありません!! 長距離沿岸砲による砲撃です!! 第2波、来ます!!」
戦況を監視していた台湾は、非常に素早く勝ち戦へ乗り換えた。
アクティブにしていた陸軍にすぐさま命令し、撤退中の中国軍へ砲撃を開始したのだ。
「フリゲート2隻、ミサイル駆逐艦1隻が被弾!! 戦列を離れる!!」
「反撃しろ!! 漁夫を狙う分離主義者共に鉄槌を下せ!!!」
すかさず艦砲射撃により応戦。
しかし、隠蔽された砲台を狙うのは、あまりに無謀。
あえて言うなら、その行動が命取りとなった。
「駆逐艦3隻が被弾!! 砲撃ではありません、魚雷です!!」
「なんだと!?」
激しい砲撃の応酬により、海中は音が乱反射。
そのため、中国艦隊は海峡出口で待ち伏せしていた海自潜水艦隊に気づけなかった。
ソナーに目をやった時にはもう遅く、18式魚雷が『福建』の50メートル先にいた。
「ッ…………!!! 共産党に、栄光あれ!!!!」
両側から、計8本の魚雷が『福建』を直撃した。
乗組員は内部でミキサーされ、機関部および弾薬庫に引火。
飛行甲板が噴火のような内部爆発で吹っ飛び、浮き上がった艦載機がブリッジに直撃。
大爆発を起こすことで、甲板要員や艦橋要員は全員戦死。
中華人民共和国の威容を誇る最新鋭の空母艦隊は、残らず鉄と油の残骸に変えられた。
この攻撃により、解放軍は展開していた全ての水上ユニットを喪失。
中国沿岸部は丸裸となった。
この報せを受けて、激怒した中国首脳部は遂に––––
「戦略軍に命令せよ、我が国は断固として抵抗をやめない。”戦略核ICBM”の発射許可を出す。目標は––––日本および米国の主要都市だ」




