表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
369/453

第369話・崩れゆく龍

 

 台湾以東の優勢を失った中国軍は、必然的に西側へ後退していた。

 HVTである空母『福建』はもちろん、トマホーク迎撃のため飛んできた内陸の戦闘機も一時撤退。


 燃料補給も兼ねて、福建省にある福州宜殊空軍基地へ次々と機体が下りてきていた。

 近隣の基地も、おそらく同じ様子だろう。


 近くには対艦弾道ミサイルも配備されていたが、連合軍空母の位置が掴めていないのか、まだ発射する様子は全く無い。


「頼むから急いでくれよ! これ以上の西側資本主義者共の蛮行は決して許せん!!」


「そうだ! こんな無茶苦茶やりやがって……必ず反撃してやる」


 地上に降りた戦闘機パイロットが、整備員を怒鳴りながら急かす。

 彼らは結局、グラウラーの妨害によって全くトマホークを落とせていなかった。

 遠方の方では、着弾による火災が夜空を照らしている。


 大陸中のインターネットがダウンしている事から、人民は一体何が起こっているのかも理解できていないだろう。

 栄華を誇った中国の経済都市は、停電によって夜の闇に支配されていた。


 ––––福建省郊外、上空。


「やはり最新のデュアルバンドレーダーは凄いですね! 日米英のステルスが丸見えじゃないですか!」


 大きな機体の上に、皿のようなレーダーを載せたこの航空機は、中国軍の早期警戒機。

 KJ-500だった。


 本来は通常の索敵手段しか持たない凡庸な機体だが、これは少し違う。

 若い女性副機長が言った通り、最新鋭のデュアルバンドレーダーと呼ばれる代物を装備していた。

 従来の物と違い、発見困難なステルス機を発見できる装備である。


 山口海将補の予想が、完璧に当たった格好だ。


「本当ね、それだけに……前衛の部隊に支援が届かなかったのが悔しいわ」


 機長の中年女性が、忌々し気に顔を歪めた。


「どうでしょう機長、艦隊後退の援護のため……もう少し前進しては?」


「ッ……」


 確かに、さっきは前衛から距離を保ち過ぎたために友軍を守れなかった。

 レーダーの精度もまだ試験段階なので、長距離から確実に視えるとも限らない。

 だが、


「念のため、福建省からは離れないでおきましょう。もし180キロを切って近づいたら……イージス艦のレーダーを集中照射されて、半導体が焼き切られる」


「でもそれだと、台湾以北の味方を守れません。せっかくのデュアルバンドレーダー搭載機なのに」


「だからこそよ、それに……」


 機長は、直前に受け取った天気予報図を見下ろした。


「ちょうど台湾海峡を埋める形で、積乱雲が発生してるわ……アレを盾にすれば、イージス艦の眼から逃れられる」


 この試作機体は、中国にたった1機しか存在しない。

 つまり、替えが効かないのだ。

 危険を冒すよりも、攻勢に出てくる連合軍を探知するのが先決だった。


 さらに言えば、ここは味方のSAM(対空ミサイル)やCAP(護衛戦闘機)がいる。

 窓から隣を見ても、PL-15長距離空対空ミサイルを搭載したJ-20ステルス戦闘機が、頼もしく飛んでいた。


 その時だった––––


「アラート!!!! 正面下方からレーダー照射を受けています!!!」


「なんですって!?」


 機内にロックオンアラートが、けたたましく鳴り渡った。

 それは味方のJ-20戦闘機も同じだったらしく、フレアを放出しながら回避運動を取っていた。


「どこ!? 敵機なんてどこにも映ってないのに!!」


 そう叫んだ機長の正面には、今まで盾にしていた”積乱雲”が見えた。

 さらに言うなら、その中から4機の日の丸を付けたF-35B戦闘機が、飛び出してきたのだ。


「バカな!! 積乱雲の直下を突っ切ってきたって言うの!? ただでさえ飛行難度が高い夜に…………! フレア・チャフ放出!! 回避運動!!!」


「了解!!!」


 最大速度で、急激に高度を落とすKJ-500。

 激しいGに襲われながらも、乗組員は最善を尽くした。


「アクティブ波検知! この終末誘導方式は……アムラームです!!」


 副機長の言葉と同時に、近くを飛行していたJ-20戦闘機が炎に包まれた。

 雲下からの奇襲によって、護衛戦闘機は何もできず撃ち落とされる。

 このままでは同じ末路だ、一刻も早く手を打たねば。


「チャフ! 放出!!」


「はい!!!」


 天井のスイッチを叩いた。

 ほぼ垂直にまで傾いた機体から、大量の金属片がばら撒かれる。

 指令誘導状態に入っていたアムラームは、チャフの乱反射によりレーダーが攪乱。


 KJ-500を掠めて爆発した。


「やった!! 回避成功!!」


「油断しないで!! 日本軍機はまだ食いついて来てる!! この機体だけは落とさせない、低空飛行で逃げ切るわよ!!」


「でも機長!! この先は福建省の中心街です! まだ民間人が……!!」


「このデュアルバンドレーダー搭載機が優先よ! 高度下げて!!」


 サイバー攻撃により停電した福建省中心地に、ジェットエンジンの音が鳴り渡る。

 運河をなぞるようにして、KJ-500はビルよりも低い高度で逃げ回った。


「アラート!! 真後ろに付かれてます!!」


 海自のF-35Bが、2発のAIM-9Xミサイルを発射。

 向こうも練度は非常に高く、建造物を縫って追撃していた。


「次はフレア放出!! 同時に右へ急旋回して!!」


 今度はフレアと呼ばれるデコイ用熱源を、大量に射出。

 高層ビルに激突寸前の軌道で、旋回を行った。

 機長の狙い通り、海自のミサイルはフレアによる妨害で目標をロスト。


 サイドワインダーは高層ビルのド真ん中へ直撃し、建物を粉砕してしまった。

 だが、速度差もあり振り切ることは不可能だ。


「振り切れません!! またロックオンされました!!」


「フレアを!!」


「ダメです!! もう残っていません!!!!」


 後方のF-35Bが、さらに追加で2発のミサイルを発射。

 ここまで必死の回避を見せて来たKJ-500だったが、遂に命運が尽きる。


「逃げ切れ––––」


 大型の機体が、ミサイルの直撃によって激しく燃え上がった。

 コントロールを失ったKJ-500は、直線上にあった運河へ墜落……。

 乗員は全員が戦死し、虎の子の機体は破壊された。


「こちらストライク1、HVT撃墜。目標を運河へ追い落とした」


『了解、HVT撃墜を米英艦隊に打電。これより中国海軍を殲滅する、SAMを迂回して帰投せよ』


 ほぼ同時刻。

 グアムを離陸した米空軍のB-1B戦略爆撃機およそ12機から、L-RASMステルス空対艦ミサイル72発が発射された。


 標的は、『福建』艦隊に合流しようとする残存中国海軍だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
乱気流を突っ切るなんてもうそれエスコンじゃん... 米軍のF22もあるんだったよな確か? じゃあ部隊のコールサインはメビウスかな それともウォーウルフか? とりあえず、今後もしかしたらすっげえ空戦が起…
更新乙です。 まんまエースコンバットw そりゃ暗夜の雷雲突破は自衛隊以外できんわなw さて次は米軍お得意のミサイル飽和攻撃。 板切れ一枚浮いてたら奇跡か……
だからさぁ、よくも仲間を!なんて言える立場じゃないんだよ。宣戦布告も無しに戦争始めたのはそっちだろう というか、ここまでくると上からの訓示が「先に手を出したのは日本」とかなっていそう。だとすると軍人さ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ