第367話・オペレーション・ブレイクドラゴン
西側連合による報復攻撃が開始された。
開幕の第1撃として、日米のイージス艦から一斉にトマホーク巡航ミサイルが発射される。
シリアや湾岸戦争で多大な戦果を挙げた、傑作ミサイルだ。
総数にして200発を超えるそれらが、弓矢のように中国大陸へ向けて突っ込んでいく。
だがもちろん、これに無策なほど中国軍は弱くない。
「慌てるな、航空機と連携して確実に落としていけ! 1発も本土に落とすな」
台湾海峡に展開する空母『福建』から、電磁カタパルトによってJ-15戦闘機が次々と発艦していく。
また、内陸からも戦闘機部隊が飛んできていた。
この日のために、迎撃態勢は完璧に整えて来た。
「戦闘機隊、間もなく敵ミサイルを捕捉します」
さらに、今回は太平洋海戦の反省を踏まえて、早期警戒管制機を後方で飛ばしている。
索敵上での性能も、ほぼ互角と言って良かった。
「トマホーク、高尾山上空を通過中。迎撃開始します」
解放軍が、日米の先制攻撃を防ごうとした瞬間だった。
「ッ……!! 強力なジャミングを検知! 前衛部隊との通信途絶!!」
「なんだと!?」
『福建』の艦載機、および台湾南北に陣取っていた中国艦隊が、一斉にレーダーを無力化されてしまう。
戦闘機はともかくとして、最新性の中華イージスですら火器管制システムが落とされていた。
こんな芸当ができるのは、あの兵器しかいない。
「EA-18G……!! グラウラーか!!」
『福建』艦長の読みは当たっていた。
米空母から発艦したEA-18Gグラウラー電子戦機が、台湾周辺の中国軍へ一斉にジャミングを仕掛けたのだ。
その威力は公表スペックを遥かに上回っており、前線の解放軍は長距離探知および無線通信が不可能となった。
「トマホーク! 前衛部隊を突破! 突っ込んできます!!」
「我が艦隊のみで迎撃する!! 対空ミサイル発射!!」
護衛の中華イージスとフリゲートが、VLSから対空ミサイルを発射。
なんとか30発を叩き落としたが、それは自艦隊周辺のみ。
残りの170発は本土への侵入を許す。
完全に初動の主導権を失ったこのタイミングで、凶報が舞い込んでくる。
「F0045~F0050をレーダーロスト!! 撃墜されました!!」
「なっ……!!」
見れば、台湾近くを飛んでいた艦載機部隊が、無線を発することも許されずレーダーから消えていく。
だが相手の姿は全く見えない、これから推察できることは––––
「やられたな、グラウラーでジャミングを掛け。その間にステルス機……おそらくF-35が近づいていたんだろう」
艦隊司令官が、苦虫を噛み潰したような顔で言う。
これに対し、艦長はすぐに反論した。
「アレほど強烈な電子攻撃下ですよ? そんな緻密な連携が、多国間で本当に可能なのですか……?」
「だから、今こうなっているんだろう」
艦隊司令官の言葉に、『福建』艦長は歯ぎしりする。
西側軍……特に日米英は、国際的に孤立する中露と違い、海軍による共同訓練を何十年と続けて来た。
日頃の鍛錬が、戦場に反映された結果と言える。
彼らの予想はしっかり当たっており、現場空域はまさしく七面鳥撃ちの状態だった。
「こちらF0052! 敵の位置がわからない!!」
「チャフとフレアをばら撒きながら急降下しろ!! 敵はステルス! 日米英の戦闘機部隊だ!!」
ジャミングと同じタイミングで戦線に突入したのは、日米英の艦載機。
F-35BおよびF-35C、さらに嘉手納駐屯のF-22戦闘機だった。
いずれも世界最強のステルス戦闘機だ。
グラウラーのジャミングで何もできなくなった解放軍機へ、連合軍は無慈悲にもアムラームを斉射。
完全に一方的なキルゲームを展開していた。
なんとかその状態を脱しようと、北部に展開していた中国艦隊が、ECCMと呼ばれるジャミング対抗を行いながら前進。
だが、その動きも相手の予想通りだった。
「スクリュー音を複数検知、音紋照合……054Aフリゲートおよび、052C型イージス艦です。数6、速力25ノット」
東シナ海の大陸棚周辺で待ち伏せしていたのは、海上自衛隊の潜水艦部隊。
『そうりゅう』、『はくりゅう』、『せいりゅう』、『とうりゅう』からなる封鎖艦隊だった。
「25ノットか……混乱して対潜警戒が雑になっている、魚雷発射管1番から4番開け、18式魚雷発射用意」
海自潜水艦隊は、潮流により音響が複雑となるこの浅瀬で、機関を停止しながら待ち伏せしていた。
窮地に陥った味方を助けるため、艦隊は必ず前進してくると読んだのだ。
彼らの優しさが、彼らの命運を決定づけるのである。
「発射準備完了!」
「撃ェッ!!」
この18式魚雷は、リヴァイアサン戦でも使用された最新兵器。
ありとあらゆる複雑な環境を無視し、確実に敵艦を沈める世界最高クラスの魚雷だった。
静穏性も秀でており、解放軍艦が魚雷の接近に気づいたのは着弾5秒前。
「全弾命中、致命傷です」
現代の軍艦は、等しく防御力が低い。
18式魚雷を横っ腹に食らった中国艦隊は、例外なく全ての艦が真っ二つに砕き割られた。
水柱がいくつも上がり、解放軍の大金を掛けた水上ユニットが凄惨な姿で海中に沈んでいく。
これと同時刻に、トマホークが中国沿岸部に続々と着弾。
地対空ミサイルが60発を落としたが、それでも110発が襲い掛かった。
沿岸部にあったレーダー施設は木っ端みじんに粉砕され、これにより解放軍は戦場における目の大半を序盤から喪失する事態となった。
しかし、報復は始まったばかりである。
次に連合軍が掲げた目標は、台湾周辺海域の解放海軍––––その”殲滅”だった。




