第362話・待ちに待ったラーメン配信!!
コミカライズ連載スタート記念で、連続更新です!!
「待たせたな、って……うお!!?」
集合場所の銀座に到着した真島は、ウッカリ大声で驚いてしまった。
なぜなら、そこにはお腹を空かし過ぎて……極限までゲッソリしてしまった執行者姉妹が立っていたからだ。
さっきまで大空戦を繰り広げていた輝きは、欠片も存在していない。
「ち、治癒魔法で消耗し過ぎたわ……。もう限界……はぁ」
「は、波動砲を撃った後は予備電源がいるのに……。こんな空腹殺生ですぅっ」
半泣きで訴えるベルセリオンとテオドール。
その後ろから、マスターの男が話しかけた。
「ほら、真島さん来てくれたぞ。もうラーメンはすぐそこだから踏ん張れ」
「ダメです透……宇宙戦艦に必須の再起動用エネルギーがもうありません。歩けないのでおんぶか抱っこしてください……」
「さっきまでの凛々しさが嘘みたいだな……。四条、こいつらにサッサと飯食わせてあげよう」
「了解です」
やつれ切った眷属たちを、マスター2人がおんぶしてあげる。
その光景が尊かったのか、さっきまで人外連中の殺戮パーティーに同席していた氷見が、口直しと言わんばかりに写真を撮りまくった。
「真島さん、これから行くラーメン屋……どんなんですかね? 実は俺も気になってるんですよ」
同じく相応にお腹を空かした透が、真島へ質問。
「あぁ、2000年代初頭からやってる……当時のニューウェイブ系でも光っていた店だ。今は支店を全部畳んじまったが……きっと気に入るぜ」
そうこうしている内に、お店へ到着した。
午前はいざというところで邪魔者が入ってお預けだったこともあり、執行者姉妹は背中の上で目を輝かせた。
「と、とてつもなく濃厚な香りがします……!!」
「でも乱暴な匂いじゃなくて、とっても芳醇……これがお店のラーメン」
既にときめく魔法少女たちへ、まだ感動するのは早いと真島が扉を開けた。
「親父、待たせたな。約束通り来たぜ」
真島の声を受けて厨房から出て来たのは、40代中頃といった筋肉質な男性。
肌は小麦色に焼けており、いかにも体育会系の真島と相性抜群。
「おう真島くん!! その子たちかい? 例の魔法少女ってのは。SNSで大騒ぎの有名人に会えるとは思わなかったぜ」
「一瞬空襲で閉じたんじゃないかって、心配したが杞憂だったな」
「はっはっは!! ラーメン屋が戦争程度で店閉めてたんじゃご先祖様に申し訳ねえよ。まぁ座りな、スープの仕込みはもう済んでる」
カウンター席に全員が腰掛ける。
どうやら、今回のためにわざわざ貸し切りにしてくれたようだ。
店主の快活な雰囲気と醤油の香りが、執行者姉妹の顔に期待を浮かばせる。
遂に、いよいよ夢にまで見たお店ラーメンの時間。
このために、あの熾烈な空中戦を頑張ったと言っても良い。
天使のようなムフフ顔で座るテオドールは、ワクワクでいっぱいだった。
そして、そんなチャンスを広報官である四条が逃すはずは無く––––
【このタイミングで配信!?】
【見ろ! 日本を救ってくれた英雄たちだ!!】
【新海さんに、ほえちゃんとふえちゃん!!】
【ここラーメン屋か!? ずっと怖いニュースで荒んでいた心が癒される……】
空襲という重たい情報で胃もたれしていた視聴者たちは、癒しを求めて食いつくように殺到。
もちろん角度も計算に入れた四条は、真島と氷見が映らない位置で配信を開始。
瞬く間に上がっていく同接数を見て、黒目を輝かす。
「これじゃいよいよ逃げられねえな、店の運命が掛かってるんだ……必ず美味いと言わせてやるよ」
店主の宣言を受けて、年頃な女の子であるテオドールもすぐさま返事。
「申し訳ありませんが、わたしも様々な地球の料理を食べて舌が肥えた身です。そう簡単にほえほえと無様に鳴くことはしませんよ」
「はっはっは! じゃあいっちょ勝負といこう。お嬢ちゃん方をカメラの前で鳴かせたら俺のラーメンの味を認めてもらうぜ」
「問題ありません、いつでもどうぞ」
このやり取りを受けて、コメント欄も一気に盛り上がる。
【いけええ店主さん!! 鳴かせてくれえ!!!!】
【フルボッコ希望! ドヤドールちゃんをわからせるんだ!!】
【唐突に見栄張り始めて草】
いよいよ盛り上がってきたところで、遂に店主の手にどんぶりが乗せられる。
「へい! 濃口醤油チャーシュー麺。お待ち!!」
「「ッ!!!」」
思わず身を引く執行者姉妹。
彼女たちの鼻へ、店の外で嗅いだのとは訳が違う、濃い醤油の香りが襲ったのだ。
さらに言えば、その見た目ですらインパクト抜群。
動物系、魚介類と言った様々な出汁で色濃く濁った醤油ベースのスープの中に、モッチモチの麺とトロトロに溶けた煮卵。そして名前に偽り無しのチャーシュー8枚が乗せられていた。
「こ、これは……!」
既に香りと見た目で重いジャブを食らった執行者姉妹へ、店主がすかさず説明。
「ウチでは予めタレに漬け込んだチャーシューを出汁にスープを取って、肉とスープ両方の味を担保している。煮卵も専用の味付け醤油にたっぷり漬け込んだ黄金の半熟さ。インスタントでは到底できない仕上げにしてある」
隣で同様の物を出された透も、さすがに唸らざるを得なかった。
「麺が凄くしっかりしていますね……、もしかして特注っすか?」
「あぁ、近くの製麺所で少数から特注を引き受けてくれるんでな。ウチの麺は加水率40%で、製麺時の加圧は7回以上。モチモチ感を出すためにグルテンたっぷりの小麦粉を使ってるんだ」
【確かにそのレベルなら濃いスープに合うな……】
【ドヤドールちゃん早速表情が崩れてて可愛い】
【さっきまでの威勢はどこに行った?】
やはり、真島の肝煎りなだけあってクオリティは抜群。
しかしカメラの前で宣言してしまった以上、簡単に鳴くわけにはいかない。
「で、では……冷めない内にいただきます」
レンゲを取り、まずは様子見でスープから一口飲んで––––
「「ッッ!!!!」」
2人の執行者は、思わず金色の目を見開いた。
彼女らの油断した口の中で、醤油と豚をベースにした重層的な濃い口の暴力が襲ったのだ。
「むっ……! ぐぅっ……!!」
これまで食べてきたインスタントを遥かに超えるインパクトに、テオドールは必死に飛び出そうとする本能を抑える。
だが、喉を通った熱々のスープはラードの量に反して極めてスッキリ。
水を飲んだかのような後味に、必死でこらえていた魔法少女たちは口を開き––––
「ほぇえ……ッ!」
「ふぇー……ッ!」
とろけ顔で呆気なく陥落。
その可愛らしい鳴き声を、インターネットで無様に世界中へお届けした。




